宇野結也、浜浦彩乃、佐伯亮、コロナ禍を前へと進む『あいまいばかりの世界』稽古場レポート

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2020年6月24日(水)から6月30日(火)まで東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて上演されるFlying Trip『あいまいばかりの世界』。緊急事態宣言が解除され、日常を取り戻すべく少しずつ動き始めた演劇界の中で、本作は早めに幕を上げる作品の一つだ。コロナ禍で、稽古はどのように行われているのか。出演する俳優たちは、どのような思いで舞台に立つのか。そんな現場を取材した。

作・演出の春間伸一が本作で描くのは、新型コロナウイルスが蔓延する中、孤独死した元ヤクザの男の遺品を妹と騙る女が持ち去ったことから始まる謎と、3年前と“今”が交錯する人と人とのつながり。

出演は、「男劇団青山表参道X」の宇野結也、今年3月に解散したアイドルグループ「こぶしファクトリー」の元メンバー・浜浦彩乃、佐伯亮、藤本結衣、八巻貴紀、大谷誠、村田玲奈、秋山皓郎、小山梨奈、嶋崎裕道、竹本かすみ、梶野稔、田中克宏、浅野彰一、横井伸明、金井成大。稽古前に、主演の宇野と、浜浦、佐伯に作品に臨む心境などを聞いた。

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新型コロナウイルス感染拡大の影響で、次々と舞台の中止が相次ぐ中、3人も舞台に立つことができない日々が続いていた。宇野は、自身初の主演作(舞台『盾の勇者の成り上がり』)が、本番を翌日に控えた夜に中止が決まるという経験をした。当時の心境を、宇野は「僕自身もすごくショックでしたが、それよりもチケットを手にしてくださっていたお客様から『払い戻しをするのが悲しい』と聞いた時に、改めて悲しみを感じました」と振り返る。

今、無観客での上演を行う団体も多い中、本作は劇場に観客を入れての上演を決めた。「横を見ているだけでなく、誰かが一歩でも歩みを進めないといけない。演劇が少しずつ息を吹き返していくきっかけになればと思い、今回の出演を決めました」と宇野。

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浜浦は、3月まで「こぶしファクトリー」としてアイドル活動を行っていた。今年の始めにすでに3月30日までで活動を終了することが決定しており、3月に解散ライブをすることになっていたが、これも無観客で行う事態に。

「2月の末以来、ファンの方たちとも会えていなくて、エンターテインメント業界がどうなってしまうんだろうという不安もあったのですが、この作品のスタッフの皆さんがとても前向きでいてくださるので、本当によかったです。無観客を経験して、観客の皆さんがいる状態で舞台をやらせていただける嬉しさを改めて実感しているので、がんばりたいなと思っています」と、人前に立つ喜びを言葉ににじませた。

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佐伯も、3月から5月までイベントや舞台のゲスト出演が次々と中止に。「僕は絵を描くことが趣味なので自粛期間中ずっと絵を描いていたんですが、葛藤の日々でした。今、稽古場に立つだけで、抱えていたフラストレーションが昇華されていくのを感じています。僕だけでなく、稽古場の熱もすごくて。皆さん、お芝居が好きで集まっているんだということを実感させられる毎日でした」と、稽古を振り返った。

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稽古場では、細心の注意が払われていた。こまめな手洗い・うがい・消毒はもちろん、40分ごとに休憩と換気を行い、空気を入れ替える。稽古中は必ずマスクを着用し、フェイスガードを用意。そして、各役者は必要なシーンのところにのみ入るようにし、なるべく空間を密にしない。稽古場には細かな注意書きも貼られており、普段の生活での予防徹底、熱中症への注意など、「劇場での上演」に向けて一丸となって取り組む姿が見られた。

マスクを着用すると表情のすべてが見えなかったり、フェイスガードをすると自らの声が反響してしまって距離感がうまく掴めなくなったりと苦労も多いようだが、稽古をする彼らは「演劇を届けたい」という一心でそんな苦難を跳ね飛ばし、稽古の密度を上げているようだった。何よりも、役へとのめり込み、理解しようと試行錯誤するその表情は輝いている。

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宇野が演じるのは、三ツ矢恭介という男。3年前までヤクザの幹部だったが、ある日孤独に亡くなった。物語は、この三ツ矢を主軸に進んでいく。彼に何があったのか?彼はどういう人間だったのか?演じる宇野は、「三ツ矢は腕があって、小狡さもありますが、すごく人間っぽい男だなと思うんですよね。みんな、それぞれの正義があって、それに対して手段を選ぶか、選ばないか・・・。台詞が練り込まれていて、物語が進んでいくうちに三ツ矢に対する印象が変わると思うので、探究心を持って前のめりで見てもらえる作品なんじゃないかなと思います。人の持つ幅を見せたいです。ストレートプレイなので、僕の経験や想像力を役に吹き込んでいけたら」と語る。

浜浦が演じるのは、三ツ矢の妹と名乗り、警察の前に遺品を取りに現れる謎の女・東城雪乃。詐欺師という一面も持ち合わせており、「すごく真面目な面でもあるので、その二面性を出していけたらと思っています。物語のキーとなる人物なので、雪乃の印象がどう変わっていくのか、大事にしていきたいです」と、改めて女優としての一歩に向き合う。

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佐伯は、三ツ矢の舎弟・丸山隼輔役。「久々のはっちゃける役で、よくも悪くもいいヤツです(笑)。三ツ矢という人物の人柄を引き立てられるように、宇野くんとコンビで楽しく演じたいです」と言う佐伯。稽古中も、その時間稽古場にいない人の代役も積極的に買って出るなど、演じることへの喜びが身体から溢れているようだった。

本番に向け、宇野は「きっと今劇場に来てくださる方は、演劇を心から愛し待ち望んでいてくださる方だと思うので、そんな皆さんに『観てよかったな』と思っていただけるように、精一杯がんばります。僕自身も、演劇に対する強い思いを背負って、演劇界に新たな光を射せるような公演にできたらと思います」と意気込んでいた。

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自粛期間に中止を経験し、舞台に立てないというもどかしい思いを抱えた3人が、しみじみと口にしていたのは“観客”という存在の大きさ。

「やっぱり、エンターテインメントにとって“お客様”が最後のピースなんです。お客様がそこにいてくださって、初めて完成する。当たり前だったことなんですけど、改めてそのことを強く感じました」

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今回も、ソーシャルディスタンスを保つため、客席を100%使うことはできない。それでも、そこに“観客”が座っていることが、どれだけ素晴らしいことか。そして、“観客”が舞台に立つ役者たちの姿を自分の目で見て感じることが、どれだけ素晴らしいことか。心が動く瞬間が、きっとそこにある。

Flying Trip『あいまいばかりの世界』は、6月24日(水)から6月30日(火)まで東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて。

【公演情報】https://db.enterstage.jp/archives/3342

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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