村上春樹の代表的長編小説を舞台化した『ねじまき鳥クロニクル』が2020年2月11日(火・祝)東京・東京芸術劇場プレイハウスにて開幕した。初日前には公開ゲネプロが行われ、芝居、コンテンポラリーダンス、音楽が融合した、既成ジャンルを打ち壊す独創的な空間が繰り広げられた。
「ねじまき鳥クロニクル」は村上が世界で評価されるきっかけとなった作品。妻のクミコと共に平穏な日々を過ごしていた主人公・トオルが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもしない戦いの当事者となっていく物語である。
主演を務めるのは成河と渡辺大知の二人。Wキャストではなく、二人で岡田トオルという人間の多面性を表現していく。”死”への興味を持つ風変わりな女子高生・笠原メイを演じるのは、門脇麦。このほかの出演者には大貫勇輔、徳永えり、松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ/吹越 満、銀粉蝶ら実力派たちが名を連ねている。
村上による深い迷宮のような世界を舞台として演出したのは、ミュージカル『100万回生きたねこ』や百鬼オペラ『羅生門』を手掛けたインバル・ピント。無駄をそぎ落としつつも、観客の目を引く大胆な美術や振り付けも彼女によるものである。
共同演出と脚本を務めたのは、演劇団体「マームとジプシー」を主宰する藤田貴大。様々なジャンルのアーティストとコラボレートするなど現代演劇の新たな可能性を広げている藤田が、インバル・ピントと初の共同演出に挑む。
◆成河
レシピのないものをレシピのないままに創り続けてきました。本当に全員で創ったと言えるものになっていると思います。誰のものでもない、でも同時に誰のものでもある、観客の皆さんにとってもそう言えるものになるように願っています。
◆渡辺大知
稽古場では、スタッフ・キャスト全員であらゆる角度からアイデアを出しながら、この『ねじまき鳥クロニクル』という作品に向けて色んな実験を繰り返してきました。ダンスやフィジカルの使い方など、知らないことや慣れないことも多くありましたが、その実験をしている時間が僕はとにかく好きでした。
最初はどんな舞台になるのか、想像もつきませんでしたが、いまようやく初日を迎えようとしています。一つ一つのシーンが、細部にいたるまで綿密に形づくられています。それを感じていただけたら嬉しいです。観た方にはぜひ、色んな想像をしてほしいと思っています。この作品を観て、なにか刺激を受けていただけたら幸いです。
◆門脇麦
劇場に入って、これまで稽古場でつくってきたものに、美術や照明やすべてが加わって、やっとインバルの脳みその中が分かってきました。ついに色んなピースがはまったな、という感覚です。正直、私も客席で観てみたい!間違いなく楽しんでいただけるので、隅々まで目を凝らしてインバルのエッセンスを心ゆくまで浴びて頂きたいです。お楽しみに!
「ねじまき鳥クロニクル」という全3巻の長編大作に挑むにあたり、演出家チームはまず、小説の筋を追う作品にしてはいけないということを注意したそう。舞台作品として立ち上げるからには、演劇に翻案する必然性をもった作品にするべきだという信念のもと、物語を貫く核となる部分を残した上で、大幅な組み換えや設定の変更がほどこしていったとのこと。
1幕は現実世界、2幕は主人公の岡田トオルが井戸の底で“壁抜け”をして、潜在意識の世界(赤坂ナツメグ(銀粉蝶)とシナモン(松岡広大)が運営する奇妙なホテル)と描き分けられている。主に渡辺が現実世界のトオルを、成河が潜在意識のトオルを演じていた(※ホテルを赤坂ナツメグとシナモンが運営しているのは、舞台上の翻案設定になり、小説とは異なる)。
本舞台では世界的な即興演奏家の大友良英が音楽を担当。バンドが奏でる生演奏は、単なるBGMではなく、心情や叫びなどを楽器の音色で表現している。舞台とぴったり息の合った音の迫力に、観客は心を震わさずにはいられない。
「特に踊る」枠に名を連ねる、日本のコンテンポラリーダンス界を代表する大宮大奨、加賀谷一肇、川合ロン、笹本龍史、東海林靖志、鈴木美奈子、西山友貴、皆川まゆむ(50音順)らのダイナミックなダンスも必見。時に通行人に、時に兵隊に姿を変幻自在に変化させ、その肉体で『ねじまき鳥クロニクル』の世界観を支えていた。
『ねじまき鳥クロニクル』は3月1日(日)まで東京・東京芸術劇場プレイハウスにて上演。上演時間は1幕約95分、2幕約80分を予定している(途中休憩あり)。
【大阪公演】3月7日(土)・3月8日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【愛知公演】3月14日(土)・3月15日(日) 愛知県芸術劇場大ホール