市川海老蔵×黒木瞳×森山未來『オイディプス』開幕!「大変刺激的な経験となっております」

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2019年10月7日(月)に東京・Bunkamuraシアターコクーンにて、シアターコクーン・オンレパートリー2019 DISCOVER WORLD THEATRE vol.7『オイディプス』が開幕した。本作は、数々の海外戯曲の名作を国内外のクリエイターと共に作るDISCOVER WORLD THEATREシリーズの第7弾で、今回が日本での初演出となるマシュー・ダンスターが、ソポクレスが書いたギリシャ悲劇の最高傑作『オイディプス王』を翻案して上演。主演を市川海老蔵が務め、新たな世界観で紡がれていく『オイディプス』を見事に描き出していく。

翻案と演出を手掛けるマシュー・ダンスターは、劇作家・俳優としても活躍する一方、マーティン・マクドナーの舞台『ハングメン』の初演を演出し、ローレンス・オリヴィエ賞にもノミネートされるなど、イギリス演劇界で活躍する実力派。そして、主人公オイディプスの海老蔵の他、王妃イオカステ役の黒木瞳、コロスのリーダー役の森山未來、高橋和也、中村京蔵、谷村美月、笈田ヨシらが集結した。“ギリシャ悲劇”“歌舞伎”“ダンス”と、ジャンルを超えたはじめてのコラボレーションから生み出される、まさに日本でしか実現できないプロジェクトとなっている。以下、オフィシャルレポートを紹介。

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劇場に入った途端、舞台上に屹立した灰色の空間が目に飛び込んで来る。細く薄い光しか射さないそこには、現代の兵装をした男が二人、それぞれの任務に就いている。機械が唸るような音が低く響くそこは、基地か砦、あるいは石棺のようにも見え、この劇世界を覆う閉塞感が如実に伝わって来る。

客席の明かりが落ち始めると、交差するように機械音が上がり、大きな警戒音と赤い回転灯の光とともに舞台下手の大きな扉が開いて、白い防護服とガスマスクで身を守るコロスたちが現れる。それが時空を超え、偉大なる古典の中に私たち人間の未来を映じるマシューの新解釈版『オイディプス』の始まりだ。

マシューは原作の人名や地名はそのままに、衣裳や空間などを現代、あるいは近未来ともとれるビジュアルとし、疫病に襲われて生あるもの皆が危機に瀕する都市テーバイを、気候変動や自然災害に苦しむ私たちの日常に直結する場として描き出す。

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冒頭から悲劇の予感をまとうような造形が多いオイディプス像だが、海老蔵のそれは真逆と言って良いほどに強くエネルギッシュだ。「父を殺し、母を娶るであろう」というかつての神託にこそ悩まされているが、テーバイを統治する自身の地位と権力に絶対の自信を持つ姿は、同時代の大国の指導者を思わせる。高貴ながら神への不信を隠さないイオカステの振る舞いや、その弟で軍装で公務に当たるクレオン(高橋和也)の様子も共に、報道などで見聞きする権力階級のそれに重なるほど生々しくリアルだ。

リーダーに率いられ、オイディプスに救いを求めるテーバイ市民たちの疲弊しきった姿は、今も世界各地で苦しみの声を挙げている難民のよう。彼らは上手奥の光があふれる場所に祀られているらしい、預言を司る「あの神」を信じ、オイディプスへの請願に重ねて折々に舞い、祈りを捧げる。

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今作では、コロスが実に重要かつ大きな役割を果たす。森山はもちろん、メンバーには俳優だけでなく湯浅永麻、柳本雅寛、平原慎太郎ら海外でも活躍する振付家・ダンサーがおり、シャーロットの振付を十全に体現。神への舞のしなやかな美しさはもちろん、その高い身体性は少しの動きで時にセットのように空間や空気を変質させ、言葉では表現できず、目にも見えない神聖さや恐怖など、複雑なニュアンスを視覚化していた。

もちろん、歌舞伎の女方として預言者テイレシアスを演じた中村京蔵の型と現代演劇の表現を自在に往還する演技、コリントスからの使者である操縦士を演じた谷村美月の一途でピュアな佇まい、長く重い秘密を抱えて生きてきた老羊飼いを圧倒的な存在感と哀しみで体現する笈田ヨシら、俳優陣も場ごとに鮮やかな印象を残す。

国を襲う災いを除き、民の平安を取り除くべく強い意志で臨むオイディプスが、自らの行動と、追い打ちをかけて迫り来る「真実」の開示に追い詰められていく姿は、原作にも描かれるところ。だがマシューの演出はそこに、権力の変遷の無常、そこに介在する名もなき人々の力、にも関わらず繰り返されてしまう暴力的支配の連鎖など、私たちが日々直面する世界の歪みを重ねる。

権力の高みから失墜し、自らの目を潰し、我が身を荒野へと放逐するオイディプス。すべてを与えられたうえで奪われた一人の男が去った後、テーバイは、いや世界は変わり得るのだろうか。劇場の外へ出た時に目に入る情景、世界のありようにふと違和や疑問が生じる、私たちが今考えるべき多くのことに目を向けさせる、そんな作品が生まれたと感じた。

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13代目市川團十郎白猿の襲名を前に10年ぶりとなる現代劇に挑むこととなった、主人公オイディプス役の海老蔵は「英国からのクリエイティブ・チームに加え、演者は歌舞伎俳優と現代劇の俳優、そしてダンサーの方々を含む日英異種混成というカンパニー編成で、多様な意見をぶつけ合いながら、賑やかに、かつ繊細に作品を創り上げてきました」と語り、「私自身にも大変刺激的な経験となっておりますが、観劇されるお客様にとっても心を動かされる2時間となると思います」と自信を見せる。

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また、元宝塚歌劇団娘役トップスターであり、舞台だけでなく映画やドラマなど多方面でその実力を発揮している王妃イオカステ役の黒木は「この作品はオイディプスの悲劇的な人生を描いていますが、私が演じるイオカステも妻であり、且つ母であったという衝撃的な運命を突きつけられます」と本作を語り、「今回、オイディプスを演じる海老蔵さんは、威厳があり狂気があり、その熱量に圧倒されます。悲劇に落ちていく姿は本当にオイディプスが現代に甦ったのではないかと感じさせてくれます」と海老蔵の印象を明かした。

そして、「2000年以上前のギリシャ悲劇ですが、現代にも通じる普遍的な要素を、マシューを筆頭に英国からのクリエイティブスタッフによって、2019年版のオイディプスとしてどのように完成するのか、私も客席から観てみたいものです」と、自身もその仕上がりを楽しみにしているようだ。

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さらに、俳優のみならずダンサーとしても世界から注目を集めている森山は「海老蔵さん演じるオイディプスや黒木さん演じるイオカステを始め、一人ひとりの役者の方々が魅力的なのはもちろん、荒唐無稽な物語の中で、マシューのロジカルな演出、ジョンの近未来の世界観を写した舞台セット、そして僕たちが演じるコロスの存在感がどうマッチングしていくのか。今までに観たことのない世界観になっているのでは、と感じます」と本作についてコメントした。

シアターコクーン・オンレパートリー2019 DISCOVER WORLD THEATRE vol.7『オイディプス』は、東京・Bunkamuraシアターコクーンにて10月27日(日)まで上演。上演時間は1時間50分(休憩なし)を予定。

(オフィシャル取材・文/尾上そら、撮影/細野晋司)
(編集/エンタステージ編集部)

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