『今、僕は六本木の交差点に立つ』顔合わせレポート――作品誕生の裏にあった“魂の共鳴”

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2019年9月4日(水)より、東京・天王洲 銀河劇場にて上演される「今、僕は六本木の交差点に立つ」。本作は、経済界の風雲児であり、魂の叫びを歌うシンガーソングライター、橋本ひろしの波乱万丈な人生をベースに作られるオリジナル舞台作品。今、なぜ「橋本ひろし」という題材で、舞台を作ろうと思ったのか?たぶん、この作品は作り手の想いに少し触れておいた方が、舞台を観る者としてより得るものが多いように思う。その想いが垣間見えた顔合わせの現場をレポートする。

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橋本ひろし(橋本浩)は、プリント基板製造メーカー「キョウデン」を核に、パソコンメーカー「SOTEC」、大手スーパー「長崎屋」、「大江戸温泉物語」など一度傾いてしまった企業を次々買収し再生していった企業家で、本作が上演される天王洲 銀河劇場と縁の深い代々木アニメーション学院の会長だ。一方で、シンガーソングライターとしての顔も持つ。50代で突如音楽活動をスタートし、トークと歌が一体となった“トーキングブルース”を、六本木のライブハウスに響かせている。

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このように情報を羅列すると、企業として打つプロモーション公演のように聞こえてしまうかもしれないが、決してそうではない(この企画について打診された際、橋本は一言だけ「好きにしてくれ」と言ったそうだ)。橋本ひろしと出会った、本公演のプロデューサーである松田誠の中に強く芽生えた「この人の物語を、芝居を通して伝えたい」という感情。これが、この作品を生み出す原動力だった。そして、その想いが伝播し、集った俳優たちの心を動かす。顔合わせでは、そんな瞬間を目の当たりにした。

何を持って“いい人生”というのか。人は皆、苦しんで、あがいて、それぞれの人生を歩んでいく。橋本という男の半生をベースに描いたフィクションを、観る者の心を動かすエンターテインメントへ昇華し、「生きることは肯定的なことなんだ」と、演劇を通して多くの人に伝えたい。そんな想い溢れる顔合わせの挨拶に、出演者たちの背筋がピンと伸びた。

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ここで、物語の概要を簡単に紹介。主人公・稲本ふとしは、貧乏で学がなく、早くに父を亡くすという境遇の中で、必死に生きていた。商売の才のあったふとしは仕事で成功して、稼げるようになっていく。お金はたくさんあった方が、みんなを幸せにできる。そう信じて、がむしゃらに突き進んできたふとし。しかし、いつしか大切な人たちの心は自分から離れていっていた。そんな時、彼は歌い始め・・・。一方、ところ変わってタイでは、日本からやってきた男と、自らを売って生計を立てていた少女が出会う。男は、少女に大金を渡し、仕事を辞めるように告げる。二つの物語が交差する時、そこに浮かび上がる“人生”とは――。

演出の赤澤ムックのもと、中村誠治郎、有澤樟太郎、定本楓馬、七木奏音、高橋洋介、堀越涼、橘輝、浅野康之、西川美咲、久ヶ沢徹、中込佐知子、山寺宏一らが集うこの座組。顔合わせの段階で、すでに半分まで稽古がつけられていたそうで、演出の赤澤は「半分まで稽古をつけられたから見えてきたものがあります。皆さん、一緒に試行錯誤していきましょう」と改めて告げていた。

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主演を務める中村は、橋本のライブを観たり、台本を読んだりする中で、自分とは正反対の人物だと感じていたようだが、松田の話を聞き、「役者だからこそ、人の人生を生きることができます。松田さんが橋本さんのライブに行って感じたように、僕が役として精一杯生きる姿で、観に来てくださったお客様に、一人でも多く同じような気持ちになっていただければいいなと思いました。まだまだ未熟者ですが、自分のすべてをぶつけたいなと思っています」と、主演としての決意を新たにした様子。

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有澤が演じるのは、ふとしの学生時代からの友人。モデルとなった人物はいないが、劇中でふとしの人生に大きく関わる登場人物の一人だ。「ちゃんとふとしの背中を押して、影響を及ぼせる人物にしなければと責任を感じています。ただ、自分は頭が硬いので・・・(笑)。あまり考えすぎず、誠治郎さんとたくさん話をし、皆さんからの意見をいただきながら、しっかりと役を作っていきたいと思います」と意気込んだ。

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ふとしの友人であり、狂言回しの役割も担う実業家役の定本も「自分の考えの中からは出てこない言葉がたくさんあったので、お客様に届けることはもちろん、僕自身としても新しいものを得られる作品だなと稽古をして感じました。全力でやっていきたいと思います」と続く。

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七木、高橋、堀越、中込、橘、浅野、西川も「この作品をよりよくできるよう貢献したい」「顔合わせでこんなに感動したのは初めて」「僕らがここに立つ意味をもっと研ぎ澄そうと思う」「与えられた役と周囲の関係性をもっと深めたい」などと、それぞれ心が動いた感覚を言葉にしていた。

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特に物語の後半について、稽古の中では熱い議論が繰り広げられていたそうだ。ふとしの兄役ほか、複数の役を演じ分ける久ヶ沢が「いろいろお話させていただいたことを、我々は体現するのみです。しっかりと哲学のある作品をやらせていただきたいと思います」と言っていたが、ディスカッションし、作り手と演じ手の向かう先が一つになることは、作品としての強さを増すためにとても重要なことだ。

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そして、声優として第一線を走り続ける山寺が、自身の演劇ユニット「ラフィングライブ」以外の舞台に出演するのは、久しぶりとなる。今回は、タイを訪れる男役を演じるが「松田さんのお話を聞いて、出るべきだとお受けしたんです」と、オファー時を振り返っていた。

観客にとっては、舞台の上で観るものがすべてだ。しかし、その裏には多くの“想い”がある。その想いに突き動かされた人たちが、さらに誰かの背中を押す。劇場に、そんな心の交わる瞬間が待っているといいなと思う。

「今、僕は六本木の交差点に立つ」は、9月4日(水)から9月8日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて上演される。

【公式サイト】https://www.nelke.co.jp/stage/roppongi/
【公式Twitter】@stage_roppongi

※高橋洋介「高」は「はしごだか」が正式表記

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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