シス・カンパニー公演『出口なし』が、2018年8月月25日(土)に東京・新国立劇場 小劇場にて開幕した。本作は、哲学者サルトルが、劇作家として残した代表作。今回は、演出・上演台本を小川絵梨子が手掛け、出演に大竹しのぶ、多部未華子、段田安則という顔ぶれを揃え、密室に集められたワケあり男女3人を演じる。
【あらすじ】
とある一室に、それぞれ初対面のガルサン、イネス、エステルの男女3人が案内されてきた。この部屋には窓もなく、鏡もない。これまで接点もなかった3人だったが、次第に互いの素性や過去を語り出す。
ガルサンはジャーナリスト、イネスは郵便局員、そして、エステルには年が離れた裕福な夫がいたという。それぞれがここに来るまでの話はするものの、特に理解し合う気もない3人は、互いを挑発し合い、傷つけ合うような言葉をぶつけ合う。そして、この出口のない密室でお互いを苦しめ合うことでしか、自分の存在を確認する術もない。
なぜ3人は一室に集められたのか・・・。ここで、彼らは何らかの救いを見出せるのだろうか?
鏡もない部屋で、自分の姿や存在は、目の前にいる相手を通して確かめるのみ。自分がどんな存在で、どうやってそこに在るのかは、相手を通してしかわからない。サルトルは、著書の「存在と無」の中で、“無の問題”“対自存在”“対他存在”などを論じているが、他者の意識との相克的関係を極限的な形で表現したのが、この戯曲だと言われている。
私たちが生きる現代の社会生活上でも、自分という存在が社会でどのように見られているのかは、自分の判断ではなく、自分に向けられる他者の態度や視線でしか知ることができない。スリリングな台詞の応酬は、「哲学」という概念を飛び越えて、観る者に肉薄してくる。追い詰められたデッドエンド(袋小路)で何が語られるのか?
開幕にあたり、大竹、多部、段田よりコメントが届いている。
◆大竹しのぶ
いつもは台本で読んでいる時よりも、立ち稽古に入ってからのほうが分かってくるものなのですが、今回の作品は立ってから、稽古が進めば進むほど考えることが多かったですね。「お~い、サルトル!」とか言いながら、稽古場で皆で笑っていました。演じる側にとっては、とても課題が大きい作品なのですが、皆で集中してしっかりと稽古を重ねてきました。お客様には「何が起こるの?」というワクワクした気持ちでご覧いただけたら嬉しいですね。
◆多部未華子
やってみたかった少人数の濃密なお芝居で、しかも、大竹さん、段田さんとご一緒!そして、初めての小川絵梨子さん演出という、私にとっては初めて経験することが一杯詰まった作品です。実は、稽古でここまで追い詰められた気分になったのも初めて(笑)。それでも、その余裕のなさや苦しさを前向きに味わって楽しんでいる自分がいます。小川さんの鋭利な視点、大先輩のお二人の芝居への真摯な姿勢など、刺激的で得難い感覚を毎日味わっているところです。
◆段田安則
実は、サルトルが戯曲を書いていたことも知らず、小川さんの演出で、大竹さん、多部さんと芝居ができることが楽しみで出演を決めました。お芝居好きの皆さんにとっても「観たい!おもしろそう!」と思っていただける組み合わせだと思うんです。僕も含まれていると嬉しいですが(笑)。初めてのサルトル戯曲は、とても手ごわいものだったのですが、劇中で起こることを自分でも楽しみ、それをお客様と分かち合えれば・・・と思っているところです。ぜひ、ご覧ください。
シス・カンパニー公演『出口なし』は、8月25日(土)から9月24日(月・休)まで東京・新国立劇場 小劇場にて、9月27日(木)から9月30日(日)まで大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。
(撮影/宮川舞子)