2017年の演劇を振り返る上で、欠かせない作品といえる『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』は、第25回読売演劇大賞で選考委員特別賞を受賞した。1984年の英国、炭鉱町でバレエダンサーを夢見る少年ビリーと、合理化にあらがう炭鉱労働者を描いた本作。様々な条件から日本版の制作は困難と見られていたが、昨年ついに、株式会社ホリプロの手によって日本人版キャストでの上演が実現した。
2018年2月28日(水)に都内にて行われた贈賞式では、株式会社ホリプロ代表取締役社長である堀義貴が、上演実現までの長い道のりと作品への熱い思いを語った。呼び込みを待つ舞台袖からすでに泣きそうだったという堀は「思い起こせば、2009年に映画を見て感動し、それからすぐに『エルトン・ジョンがミュージカル化しようとしている』という数行の記事を読んで、スタッフをロンドンに行かせ、とにかくうちでやらせてほしいと言ったところからスタートしました」と振り返る。実際にミュージカル版を観た時は「あまりにもすごくて、腹が立つほどだった」という。
一度は断られながらも上演になんとかこぎつけたが、実際にやるとなると予想以上にハードな作品であることが分かった。ビリーを演じるキャストは、一定の身長を超えてはいけない、声変わりをしてはいけない。著名バレエ学校などの協力で育成体制を構成しながら、2年近くかけたオーディションで、才能ある子どもたちを見つけ出した。
4ヶ月間で16万人動員という、大きな数字が積み上がったものの、最初はなかなかチケットが動かず、莫大な赤字も覚悟した。「でも、お客さんにはちゃんと評価をしていただけました。日本ではできないだろうと思っていたことを実現できて、こうして評価していただけたことを嬉しく、誇らしく思います」と胸を張った。
ここで「せっかくですので、主役のビリーをご紹介してもよろしいでしょうか?」と、サプライズで会場を訪れていた子役たちが舞台上に呼び込まれた。少し緊張の面持ちで登壇した加藤航世、木村咲哉、前田晴翔、山城力(未来和樹は受験のため欠席)は、公演に出演していた頃よりも、それぞれ成長した姿に。
コメントを求められると、加藤は「こんな素晴らしい賞をいただけたのは、スタッフの皆さんと、共演者の皆さんとがんばってきたからなので、すごく嬉しいです。ありがとうございました」としっかりと挨拶。
続いて、最年少の木村は「えっと・・・」と、一言一言考えながら「こんな素晴らしい賞をいただけたのは、これまで教えてくださったバレエのコーチの方、タップの講師の方、歌の先生と、いろいろな人に助けられたから、賞をもらえたと思います」と語ってくれた。
「声変わりもして、身長も10センチ以上伸びた」という前田は、「今、ビリーをまたやりたいと思っても、とてもできない役です。あの時ビリーという役を演じられたことは、奇跡だったなと実感しています」と噛みしめる。
同じく、成長期真っ只中の山城は「足のサイズとかもどんどん大きくなっているんですけど、今回、この特別賞をいただいたお祝いに、いつもよりちょっといいタップシューズとバレエシューズを買ってもらいました。これからは、ビリーみたいに、本物の表現者になれるようにがんばっていきたいと思います」と未来を見据えた。
「この子たちと出会えたことが奇跡」と堀。「16万人も動員したのに、誰ももう一度やろうと言わないんです。確かに、もう一度すべてをまたやるのはしんどいと思っていたんですが、ぜひ近いうちに再演したいと思います」と誓っていた。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)