クリスマス時期に上演されるバレエの定番といえば「くるみ割り人形」だが、新国立劇場で上演される「シンデレラ」もその華やかさ、楽しさ、愛と魔法のストーリーという面でも実にクリスマス時期にピッタリ。あなたの心に夢のプレゼントを届けてくれる。
ストーリーは多くの方がご存知だろうが、シンデレラは二人の姉にいじめられ、みすぼらしい服で使用人のように働かされている。姉たちは着飾ってお城のパーティに出かけるが、シンデレラには着ていく服もない。だが仙女がシンデレラの優しい心の報いに美しいドレスと馬車を贈ってくれて、シンデレラはパーティに出かける。パーティでは王子が美しいシンデレラに夢中になってしまったように、二人はずっと踊り続けるが、12時になると仙女の魔法はとけてしまう。逃げ出したシンデレラを王子は見つけてくれるのか?
プロコフィエフのどこか不思議な、哀感のある音楽が奏でられ、幕が開く。重厚なセットの中央にあるテーブルの両側でちくちく縫い物をしている二人の姉・・・姉?男?実はこの演出では、二人の姉は男性ダンサーによって踊られる。彼らの踊りはユーモアたっぷりなので、「いじわるな姉たち」というより「おバカでキュートな姉たち」に見えてしまった。ダンサーたち渾身のユーモラスな踊りなので、おもしろいと思ったら遠慮せず声を出して笑ってあげて欲しい。
この日のシンデレラ役は新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯。持ち前の軽快で切れの良い踊りは、悲しいシーンでも哀れさより健気さをにじませ、このシンデレラなら辛いことも明るく前向きに乗り切るだろうと思わせてくれる。パーティに登場するシーンではキラキラ輝き、魔法がとけた後の王子様との再会では観客の心をギュッと掴む、共感を呼ぶシンデレラだ。王子役は同じく新国立劇場バレエ団プリンシパルの井澤駿。ノーブルな容姿を存分に生かした伸びやかな踊りで、優雅で夢見るような王子を演じて見せた。この王子様ならきっとシンデレラも幸せになることだろう。
オロオロするばかりの弱気な父親、気取ったダンス教師、美しい妖精たち、ゴムまりのように弾みコマのように回る道化。ソロを踊るダンサーたちも、群舞のダンサーたちもそれぞれにふさわしい美しさや個性、ユーモアを見せて楽しませてくれる。また英国ロイヤルバレエで使われていたという豪華なセット、シルヴィ・ギエムも着用したというゴージャスなシンデレラの衣裳も必見だ。
現実の世界では、妖精が魔法をかけてくれることも、本物の王子様が目の前に現れることもないかもしれない。でも見るもの全てがキラキラして見える時、誰かのそばにいるだけで優しい気持ちになれる時、そんな魔法はいつでも誰にでも訪れるかもしれない。そんな気持ちにしてくれる心温まるシンデレラだった。
新国立劇場バレエ団の今後の公演日程、演目は、下記のとおり。いずれも新国立劇場 オペラパレスにて。
『シンデレラ』
2017年12月22日(金) 19:00、12月23日(土・祝) 13:00/18:00、12月24日(日)14:00
『ニューイヤー・バレエ』
2018年1月6日(土)18:00、1月7日(日)14:00
『ホフマン物語』
2018年2月9日(金)19:00、1月10日(土)14:00、1月11日(日・祝) 14:00
『白鳥の湖』
2018年4月30日(月・休)14:00、 5月3日(木・祝) 13:00/18:00、1月4日(金・祝)14:00、1月5日(土・祝)14:00、1月 6日(日)14:00
『眠れる森の美女』
2018年6月9日(土)14:00、1月10日(日)14:00、1月16日(土) 13:00/18:30、1月17日(日)14:00
(撮影/瀬戸秀美)
(取材・文/月島ゆみ)