2009年に十八代目中村勘三郎と野田秀樹が初共演した舞台『表に出ろいっ!』を、英語版として甦らせた『One Green Bottle』~表に出ろいっ!English version~が、2017年11月1日(水)に東京・東京芸術劇場にて開幕した。本作は、ロンドンで重ねられたワークショップを経て、イギリスの脚本家ウィル・シャープの翻案で創作されたもの。
本作は英語での上演となるため、劇場には日本語吹き替えのイヤホンガイドが用意されている。開幕に先駆けて行われたプレビュー公演より、公演とイヤホンガイドとは一体どんなものなのか、レポートする。
【あらすじ】
父、母、娘の3人には、それぞれ絶対に外出しなくてはならない理由があった。しかし、飼い犬が出産間近のため、誰かが家に残って面倒を見なくてはならない。3人はそれぞれ嘘、裏切り、あの手この手を使って相手を欺き、なんとか家を抜け出そうとする。そのうち、彼らの「信じるもの」が明らかにされ、互いの中傷、非難、不寛容が、事態を思わぬ方向へと導いていく・・・。
今回の上演では、父役をキャサリン・ハンター、娘役をグリン・プリチャード、母役を野田自身が演じている。対して、日本語吹き替えガイドでは、キャサリン演じる父役を大竹しのぶ、グリン演じる娘役を阿部サダヲ、母役は日本語吹き替えも野田自身が担当。
受付で渡されたのは、片手に収まるサイズのイヤホンガイドと、カナル型の片耳イヤホン。上演中も片耳を開けておくことができるので、吹き替えを聞きながら、同時に舞台の生の音を楽しむことも可能。また、難しい操作などは一切なく、渡されたそのままの状態で装着するだけだ。
オフィシャル提供
上演は、歌舞伎囃子方(かぶきはやしかた)・田中流十三世家元の田中傳左衛門の演奏が静寂を切り裂きスタート。続いて、舞台上のブラウン管テレビから不吉なニュースが流れ、舞台下手にある能の橋掛りを連想させるような長い廊下から、髪の毛の禿げかかったカツラをかぶったキャサリンが登場した。
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続いて、サザエさんのような髪型の野田、データディスクがプリントされた衣装を身にまとった紫髪のグリンが姿を現す。ジェンダーを交換した配役に度肝を抜かれたのも束の間、観ているうちにだんだんと、性別を入れ替えて演じているはずの彼らが、本物の父母子の姿として馴染んでくる。言葉の壁を越えて魅せるベテラン俳優たちの実力を見せつけられた。
同時に、耳に流れ込んでくる日本語。目の前で演じている役者と違う声が聞こえてくるのは、なんとも不思議な感覚だ。しかし、大竹の吹き替えはキャサリンの演技の流れを遮ることなく、小川のような心地よいリズムで言葉が紡がれていく。一方、阿部はグリンと一体となり、まるでグリンの口から日本語が飛び出ているような錯覚を起こさせる語りっぷり。舞台で英語の芝居を見せる野田は、吹き替えでも自然体であったことはもちろん、舞台上でも時折日本語を混ぜながら台詞を発し、観客の笑いを誘っていた。
吹き替え陣の豪華さもさることながら、もう一つ、注目したいのが吹き替えで使われている日本語のおもしろさ。日本語でありながら、まるでシェイクスピア喜劇を観ているような気持ちにさせられる軽快な言葉のテンポには、舌を巻かずにはいられない。二つの言語の違いと、それぞれの持つ語感の個性。それを感じながら、役者の身体表現を生で体感できる、とてもおもしろい演劇体験を生み出していた。
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ストーリーが進むにつれて明かされる、今日だけは留守番ができない理由と、その意地っ張りさに思わずニヤリ。しかし、そのコミカルさを保ちながらも、だんだんと水面下で恐怖がにじり寄る。極限状態の中で家族は、そして個人は、何を考え、どう動くのか。そして、タイトルにもなっているイギリスの有名な数え歌をモチーフとした「One Green Bottle」は、一体何を示しているのか・・・。
『One Green Bottle』~表に出ろいっ!English version~は、11月1日(水)から11月19日(日)まで東京・東京芸術劇場 シアターイーストにて上演。その後、11月23日(木)から11月26日(日)まで、韓国・明洞芸術劇場(Myeongdong Theater)にて公演を行う。
(取材・文・一部写真/エンタステージ編集部、オフィシャル撮影/篠山紀信)