2017年1月18日(水)に東京 座・高円寺1にてエムキチビート第十四廻公演『赫い月』が開幕した。元吉庸泰が主宰するエムキチビートが新作を上演するのは、約3年ぶりとなる。主演には、元吉が米原幸佑・板倉光隆と立ち上げたユニットPUBLIC∴GARDEN!のお披露目公演『芥川龍之介 地獄変』にも出演した秋元龍太朗を迎えた。
物語の中では、二つの時代が交互に描かれる。一つは1945年8月、太平洋戦争末期。二人の軍人が戦争について、聖書の福音について、とりとめもない話を続けながら何かを待っている。もう一つは、現代の正月。ある理由で久しぶりに実家に帰省した女性は、誰かを待っている。
女性の名は明日佳。明日佳は、久しぶりに祖父と再会する。祖父はもう、孫の顔が分からない。痴呆が始まる前、“明日佳に会いたい”とノートに記していたという祖父。「おじいちゃん、なんで私に会いたかったの?」と問いかけるも、もう答えは返らないままだ。答えの変わりに、祖父は語り始める。
「“赫い月”に向かって歩き続ける宇宙飛行士・・・約束した・・・」
子どもの頃、繰り返し聞いた昔話。眠ってしまった祖父がどんな夢を見ているのか、女性は空想する―。
戦争を描いているが、その中心となるのは太平洋戦争終戦前夜のクーデター「宮城事件」だ。若い陸軍の将校たちは、皇居を占拠し、玉音放送を阻止して終戦を防ごうとした。それは、教科書にも載ることのない伏した事件。でもそこには、大切なものを守ろうと、信念を貫こうと、命をかけて走り回った青年たちが確かにいたのだ。
エムキチビートの公演は、アナログとデジタルの融合という点でもいつも唸らされる。今回も、天井から吊られた布に包まれた浮島の舞台、宙に浮かぶ幾つもの球体、そこに映し出される映像が創り出す空間は息を呑むほど美しく、観る者を「演劇」へといざなう。
秋元が演じる主人公・トウゴは、とても不器用だ。もがき苦しみながら、それでも自分の心に灯った大切な想いに賭け時代を生きた。金に染めた髪を振り乱しながら熱演する秋元からは、ほとばしるような“欲求”を感じた。きっと、今の彼にしか表現できない瞬間が、そこにある。
その他、小野川晶(虚構の劇団)、山本侑平、土屋シオン、安倍康律、長谷川あかり、下平慶祐、梅津瑞樹(虚構の劇団)、野島直人、エムキチビートから若宮亮、太田守信、大沼優記が出演し、元吉の描く世界を支える。
物語は、“赫い月”や“不死身の宇宙飛行士”というファンタジックな言葉を中心に置き、幾重にも重ねた構造で包まれている。冒頭の「長靴を脱ぐ」シーンでは、ある海外戯曲へのオマージュも漂わせるし、“戦争もの”とストレートに捉えることもできるし、“青春物語”や“淡い恋物語”と感じる人もいるかもしれない。その時、劇場で観たもの、感じたもの。それがそのまま、「演劇」の歴史となるのだろう。
エムキチビート第十四廻公演『赫い月』は、1月22日(日)まで東京 座・高円寺1にて上演。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)