声優、俳優、タレントとして幅広く活躍する山寺宏一と水島裕、そして演出家・野坂実という3人によって、コメディをやるために立ち上げられた演劇ユニット「ラフィングライブ」。2015年4月の旗揚げ公演『パパ、アイ・ラブ・ユー!』では、客席を爆笑の渦に巻き込んだ。その千秋楽で、山寺が宣言した「次回もあります!」という言葉から1年半。待望の第2回公演となる『Run for Your Wife』が2016年11月30日(水)に開幕する。初日を間近に控えた某日、稽古場を取材した。
出演は山寺と水島の他に、高垣彩陽、寿美菜子、岩崎ひろし、高橋広樹、小野賢章という、アニメ・吹替などで幅広く活躍する実力派の豪華な人気声優が揃っている。前作でも、実力派の人気声優たちが多く出演していたが、今回は声優だけのキャストというのも見どころ。
また、今回も前回と同じくイギリスの人気劇作家レイ・クーニーの作品。ごく普通のイギリス男であるタクシードライバーのジョン。だが、彼には、二人の女性と結婚し、バレないように重婚生活を楽しんでいるという秘密があった。そんなある日、結婚相手の二人に重婚がバレないように、ジョンがついた一つの嘘がさらなる嘘を呼び、周りも巻き込んでの大パニックが起きてしまう・・・という、レイ・クーニーらしいコメディだ。
取材で公開されたのは、ジョン(山寺)とその妻メアリー(高垣)が住むアパートに、ジョンのもう一人の妻バーバラ(寿)が電話をかけてくるシーン。そのアパートに住むスタンリー(水島)が絡み、早くもパニックが巻き起こる。さらに、ジョンとバーバラが住むアパートの場面では、ポーターハウス警部(岩崎)と、上の階に住むボビー(小野)も加わり、てんやわんやの大騒動を繰り広げた。
稽古では、まず、高垣が演じる気が優しくて周りに振り回されるメアリーと、寿が演じる気が強くてジョンを引っ張っていくバーバラとの対比的な様子に目を引かれた。女性声優ユニット「スフィア」のメンバーとしても人気の高垣と寿。舞台の経験はあまり多くない二人が、経験豊富な共演者たちと渡り合っていく点にも注目したい。また声優ファンであれば、スフィアという同じグループに所属する二人と重婚するというキャスティングも、おもしろさの一つとなるだろう。その二人に、共演者たちが慌てふためいて右往左往する様が加わり、稽古段階でありながら観ていて笑いが止まらなくなった。
稽古は特定のシーンを繰り返しながら、演出が入る「返し稽古」の形式。野坂は、次々と起こる展開にパニックになる高垣の動作を「どう動いたら笑えるだろうか」と演出しながらも、同時に現実的な動きも求める。シチュエーション・コメディの演出を得意とする野坂のその姿からは、ただ笑いを求めるだけではなく、リアリティを伴ったおもしろさが感じられた。
主宰である山寺と水島の存在感は前作同様、実に圧倒的。山寺は、状況に翻弄されて慌てふためき続けるという、アップテンポなレイ・クーニー作品らしい役に負けず、コミカルかつパワフルな演技を披露。一方で、水島の飄々としていながらもどっしりと構えた姿は、ベテランらしい余裕と頼もしさを感じさせる。山寺と水島の演技だけでなく、野坂との演出面での話し合い中にアイデアを出す姿や、稽古のちょっとした待ち時間に、冗談で場を和ませる姿を目の当たりにすると、改めて二人あっての「ラフィングライブ」だと思わされた。
山寺と水島以外では、前回公演から唯一続いての出演となる小野。数多くの舞台に出演している小野だが、ラフィングライブでは今回も一筋縄ではいかない役を演じている。普段の舞台では観られないフレッシュな小野の姿が観られるのも「ラフィングライブ」ならではだろう。
映画『スター・ウォーズ』シリーズのC-3POなど個性的な声で活躍する岩崎は、稽古の中でも隙あらばと笑いを差し込む。その立ち居振る舞いが、共演者たちだけでなくスタッフからも常に笑いを誘っていたのが印象的だ。そんな小野と岩崎が生み出す“笑いの相乗効果”は本番でも期待せざるを得ない。
声優は好きだが、普段は舞台を観ないという人にはもちろん、上質なスラップスティック・コメディとして舞台好きにもお勧めできる、抱腹絶倒、間違いなし!の舞台になるだろうと予感させられる稽古場だった。
ラフィングライブ第2回公演『Run for Your Wife』は、11月30日(水)から12月4日(日)まで東京・Zeppブルーシアター六本木にて上演される。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)