不器用な男達によるゆる~い本屋コメディ!結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート

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また注目の劇団が立ち上がった。2016年11月11日(金)から11月13日(日)、東京・Geki地下Libertyにて第一回公演を迎えるのは、俳優の結城洋平によるユニット・結城企画。結城は2004年に『3年B組金八先生』第7シリーズでデビューし、アミューズの所属俳優たちによる劇団プレステージで10年間中心メンバーとして活躍した。2014年に退団してからは、フリーの役者として数々の舞台に出演している。

今回の公演は、結城を含めた3人芝居。出演者には、ナイロン100℃の眼鏡太郎、ゴジゲンの目次立樹といった、シリアスからコミカルまで幅広くこなす役者が集った。脚本・演出は、劇団ヨーロッパ企画の大歳倫弘である。

旗揚げということで、どんな芝居なのか未知数である。好奇心に押され稽古場を訪ねてみると、穏やかで笑いに包まれた稽古場が迎えてくれた。

結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート_2

物語の舞台は、タイトルにもなっている「ブックセンターきけろ」。本が売れなくなっている現代、古本屋『きけろ』もまた、寂れかけている。そこで働くのは店長(眼)と常連客のカズマサ(目次)。カズマサいわく、「ただの客に手伝いで働かせてんの、ヤバいじゃないっすか」というほど、経営はヤバい。

そこに、『きけろ』で働きたいというコウタ(結城洋平)がやってくる。しかしこのコウタは、どうやら性格に難ありな人物で、まったく仕事ができない。

結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート_3

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コウタを雇いたくない店長と、とにかく働きたいコウタ、そしてコウタでも誰でもいいからさっさと仕事を引き継いで手伝いから足を洗いたいカズマサ。3人の三つどもえは、なぜか“記憶力対決”に発展していく・・・。

とにかくゆるいコメディである。3人の俳優が演じる、どこか間の抜けた不器用な男たち。それぞれが真剣かつ素直なために「なんでそうなるんだよ!」という方向に話が転がっていく。

結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート_7

この3人のバランスが絶妙だ。破天荒なコウタを、結城は真っすぐに演じる。小心者だが大胆なトラブルを起こす店長を演じる眼は、斜に構えた笑いを忍ばせてくる。その二人に挟まれ、大きな体で右往左往する目次が、はからずも問題を大きくしてしまう。3人のキャラクターも声質も体型もまったく違うので、そのデコボコ感がまたおもしろい。彼らのやりとりにニヤニヤしていると、ある瞬間、ため込んだ沸点に達し「ぶはっ」と吹いてしまう。

結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート_4

また「きけろ」というのは、紀元前のローマ時代に実在した人物だ。記憶術を世に知らしめた、哲学者であり政治家である。劇中にはさまざまな記憶術の種類「ジャーニー法」や「物語法」などが登場する。
しかし“記憶術”は“本”の登場によりその価値を失った。“記憶術”に代わった“本”に囲まれたブックセンターで繰り広げられる悲喜こもごもを、“本”に代わった“ネット・電子書籍”時代の私たちは、客席から見つめる。
そもそも主宰の結城が企画を立ち上げた時に「記憶を題材にした作品にしたい」と大歳に持ちかけたのが、今作のきっかけだ。そこに「ただ気軽に笑えるだけでなく、豆知識を入れたい」という脚本・大歳の思いが重なった。

結城企画『ブックセンターきけろ』稽古場レポート_5

終演後には、観客も巻き込んだ“おまけ”もある。詳細は当日のお楽しみだが、演劇だけでなく一緒になって楽しめる企画だ。稽古場で「どうやったらもっと楽しいかなあ」「ズルはいかーん!」と企画を練る姿は、観客に誠実に、一緒に楽しもうという姿勢が見えた。そのスタンスは、コメディというよりお笑いライブが近いかもしれない。演劇好きな人が満足できる軽快な会話劇でありながら、劇場へ行ったことはないけれどお笑いは好き、という人を誘いたくなる気軽さもある。

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旗揚げ第一回公演といえば、肩に力が入ってもおかしくない。大歳が「人生を賭けたような気合いの入った公演にするのかと思ったよ」と言うと、結城は「楽しいことがやりたくって」とのんびり笑った。
今、楽しいと思う事を、楽しいと思うメンバーで、劇場のみんなで楽しむ。その姿勢が貫かれた90分は、ゆるくもあり、真面目でもあり、劇場ごと笑える空間になるだろう。

たくさん笑った後には、今、最盛期を過ぎた“本”が少しだけ愛しくなるかもしれない。

結城企画『ブックセンターきけろ』は、11月11日(金)から11月13日(日)まで東京・Geki地下Liberty(下北沢)にて上演される。

(取材・文・撮影/河野桃子)

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