2016年10月7日(金)に東京・Bunkamuraシアターコクーンにて『るつぼ』が開幕した。本作は、アーサー・ミラーによる傑作戯曲で、1692年にマサチューセッツ州セイラムで実際に起きた魔女裁判を題材に、集団心理の恐ろしさ、人間の尊厳と愚かさを描いている。演出を手掛けるのは、イギリスの名門「ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)」が生んだ気鋭の演出家ジョナサン・マンビィ。開幕にあたり、演出のマンビィと出演者の堤真一、松雪泰子、黒木華、溝端淳平からコメントが届いた。
◆ジョナサン・マンビィ(演出)
数週間に渡る東京での稽古を通して、ミラーの傑作戯曲である『るつぼ』は言語や文化の違いを超越して、私たちの心にまっすぐに語りかける作品だということが分かりました。人間とは何か・・・人を愛する気持ち、憎む気持ちは普遍的であり、言語や文化、時代を超えて共感できるものであるということを証明している作品です。日本の最高の俳優たちが集まったカンパニーで、私は彼らの才能、寛大さと情熱に圧倒されました。
この示唆に富んだミラーの戯曲に突き動かされ、東洋と西洋の融合した“ハイブリッド”なチームは、想いを一つにし、明瞭に、そして魂を込めてこの物語を語るべく、稽古を重ねてきました。ずっと演出してみたいと思っていたこの戯曲を、今、こうして皆様にお見せできることをとても嬉しく思っています。この公演は、木々の葉が落ち季節が変わっても、ずっと私の心に生き続けるでしょう。
◆堤真一(ジョン・プロクター役)
演出のジョナサン・マンビィ氏は、稽古の初期にワークショップを開いたり座学で作品の背景を学んだりというやり方でしたので、作品の共通認識を持って稽古に臨めました。人間の愚かさや欲望、罪の意識や不安感といったものが透けて見えてくる舞台にできればと思います。今こそ、ぜひ観ていただきたい作品です。劇場でお待ちしております。
◆松雪泰子(エリザベス・プロクター役)
稽古中は、ジョナサンと共にアーサー・ミラーの戯曲の世界を綿密に理解して表現するための時間をたくさん過ごしました。ジョナサンは、私たちが理解し体現できる道筋を示し導き続けてくれました。先輩方からたくさん学ぶこともあり、素晴らしい現場です。このカンパニーの一員として表現できることをとても幸せに感じています。全員で、しっかりと集中力を持ってセイラムに生き、この物語の本質を届けられるようにカンパニー全員で挑みたいと思います。
◆黒木華(アビゲイル・ウィリアムズ役)
稽古の日々があっという間に過ぎていきました。ジョナサンさんの稽古は、毎日学びや発見が多く、まだまだ探している最中ですが、観に来てくださるお客様と一緒に、いろいろと見つけていければと思います。共演の皆様も本当に素晴らしい方ばかりですし、マイク(・ブリットン)さんの舞台装置、衣裳・・・この中にいられること、また、この『るつぼ』という戯曲を一緒に創れることが幸せです。アビゲイルを含めた少女たちも(黒田)育世さんの刺激的な振り付けで力強く生きています。その部分も楽しんでいただけたら嬉しいです。
◆溝端淳平(ジョン・ヘイル牧師役)
世界的に傑作と言われるこの戯曲では、稽古を重ねながら新しい疑問や発見が多々ありました。遠いようですごく普遍的なテーマが詰まっていると思います。今の僕たちが、今の日本の方々に誠実に届けられればと思います。
ジョナサンはとても紳士で僕の役の素朴な疑問にも真剣に向き合ってくれました。いい意味で日本的ではない俳優との距離がとても新鮮でありがたく、すべてを見透かされているような怖さもありました。答えがない演劇の世界で、すべてを否定せず能動的に取り組む姿勢はすばらしい。欲を言うなら、もっと長く稽古をつけてもらいたかったです。
堤さん松雪さんをはじめ尊敬する大先輩の方ばかりだったので、皆さんの胸を借りながら吸収でき、技術的なことや心情的なことでも先輩方にヒントをもらえるありがたい現場でした。
シアターコクーン・オンレパートリー2016『るつぼ』は、10月7日(金)から10月30日(日)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンにて上演。その後、11月3日(木・祝)から11月6日(日)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて公演を行う。
(撮影/細野晋司)