2016年10月に、劇団維新派の最後の舞台『アマハラ』が上演される。関西演劇界をけん引し、46年間にわたり活動を続けてきた維新派の公演は、毎回、巨大な野外劇場を建設するのが特徴だ。しかし2016年6月、同劇団主宰であり演出家の松本雄吉氏が亡くなったことなどを受け、本公演をもって解散することを決めた。今作の公演場所は、奈良・平城京跡。この歴史的な場所での公演に奈良県が許可を出したことにも、各地から注目が集まっている。
前回公演『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』
松本氏と平城京跡の出会いは、20年以上前に知人に紹介されたことがきっかけだった。この場所を大変気に入り、折に触れ訪れていたという。2015年10月には下見を行い、劇場の位置や向きを決めた。しかしその後、今作の構想中、松本氏はがんのため69歳で逝去。演劇界の巨星が去ったことに、激震が走った。
維新派制作部の山崎佳奈子は「松本が亡くなってから、公演実施についてカンパニー内で議論を重ねた。松本氏の代わりに誰かが演出を行うことは不可能で、公演キャンセルという意見もあった」と話す。しかし、46年間活動してきた維新派の終わりにけじめをつけるためにも、今回の上演を決めた。最終的には「松本が劇場プランを完成させていたことや、松本が書きかけていた構成表を参考にしながら、維新派最後の公演を行う判断をした」という。
夕陽が、舞台奥に沈む――。今作の17:15という開演時刻は、日没を想定したもの。維新派といえば野外劇である。夕陽の沈む生駒山が舞台の背景となる場所での公演を計画している。大きな空間に舞台を築き、音楽を鳴らし、異空間を創り上げる。『アマハラ』は、2010年・2011年の『台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき』を再構成した作品となる。
舞台全体は船の形となっており、“廃船”をイメージした野外劇場を平城京跡の草原の海に創り上げる。また、物語については、松本氏のノートに記されていた“旅”“ここ”というワードが鍵となる。松本氏の構想をもとに、役者や演出部を含むスタッフが、実際の舞台へと創り上げていく。松本氏は生前「一人ひとりが維新派」と語っており、その意思を、遺された者たちが試行錯誤しながら形にする。公演そのものが松本を偲ぶ場になるのだ。
また、今作は「東アジア文化都市2016奈良市」の一演目でもある。「東アジア文化都市」とは、日本・中国・韓国の3か国において、文化による発展を目指す各都市の交流を深める国家プロジェクト。今年は9月3日(土)から10月23日(日)まで奈良市で開催され、演劇・オペラ・映像ほか、さまざまなアートプロジェクトが実施される。
維新派『アマハラ』は、10月14日(金)から10月24日(月)まで、奈良・平城京跡にて上演される。全公演とも17:15開演、雨天決行(台風など荒天の場合は中止)。チケット発売は8月28日(日)から。
※山崎佳奈子の「崎」のつくりは、正しくは「大」の部分が「立」。
(写真/井上嘉和)
(文/河野桃子)