世界で学んだことを次の世代へ!首藤康之×中村恩恵による夏季限定!せたがやジュニアバレエカンパニー発表会

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2016年8月15日(月)、東京・世田谷パブリックシアター稽古場で、6日間に渡ったジュニア/プレジュニアのバレエ・ワークショップの最終日を飾る上演会が開かれた。この企画は、『白鳥の湖』のようなクラシックバレエの王子役から、現代屈指の振付家たちの作品にも数多く主演、また映画出演など幅広い活動で賞賛されている首藤康之と、海外有数のバレエ団で活躍後に日本へ戻り、ダンサー・振付家として活躍を続けている中村恩恵によるディレクションという豪華なものだ。

最初は広々としたスタジオにバー(バレエの基本練習をする時に手を置く棒)が置かれており、生徒たちが静かにウォームアップしている。男の子たちは片足をもう片方の脚のひざ辺りまで上げくるくる回るピルエットなどを練習しており、なかなか上手だ。

やがて生徒たちによってバーは片付けられ、ショーイングが始まる。生徒の女の子は黒のレオタード、男の子は黒のタイツというシンプルな姿。まず二人の生徒が出てきて、これから見せるテクニックと、使われる音楽、作曲家や振付家の説明をする。ピアノ伴奏による短い1曲のパフォーマンスが終わると、また数人の生徒が現れ、前の曲、あるいは次の曲の説明をし、次の曲のパフォーマンスが始まる。

劇場のスタジオという限られた特別な空間の中で、若いダンサーたちが躍動し、跳躍し、回転する。また、ゆったりとした曲に合わせ、腕が美しい弧を描き、高く上げられた脚がぴたりと止まる。飾り気がない分、その真剣さとはつらつとした動きが輝くようなパフォーマンスだった。中でもバレエ『オネーギン』の曲を使ったアダージオとメンデルスゾーンの『ヴェニスの舟歌』は秀逸だった。

首藤康之×中村恩恵による夏季限定せたがやジュニアバレエカンパニー_2

中村は今日の公演を観て、「生徒たちの踊りはプロに比べれば技術的には拙いものですが、無心で踊るから伝わる感動があります。若者にしか出せないその時の輝きを多くの人に観てもらえるようなジュニアカンパニーを作ることができたら、素晴らしいと思うんです」と語った。

パフォーマンスの前に語られた曲や背景の説明は、生徒たちが先生に覚えさせられたものではなく、宿題としてそれぞれの作曲家や振付家について、皆自分で調べてきたのだという。それはまさに、ディレクターの首藤と中村が若い踊り手たちに伝えたかったこと。自分の踊りについて、自分で考える。踊りの歴史や、踊りが生まれてきた社会の歴史について、自分で勉強する。そういうことが、若いダンサーたちには必要だという。

踊りの世界は、美しいが、とても厳しい。15歳や18歳という若い時にプロの世界に飛び込んでしまえば、意味や背景を、わざわざ教えてくれる人はいない。自分で考え、自分で学ぶという姿勢・・・どんなに若くてもその意志の強さと責任感がなければ、どんどんふるいにかけられてしまうのだ。今回のプロジェクトは、将来「職業として舞踊手をめざす人材の育成」という目的も持っている。そのためには「自分で考える力、自分と向き合うことができなければ、プロの世界では生き残れないのです」と二人は語る。

また二人は、クラシックとコンテンポラリーはどちらも同じ舞踊の一つと考え、特別にカテゴライズするのではなく、若い人々にそれも体の可能性の一部であるということを教えたかったという。若い人たちは若いからこそ可能性が大きく、学ぶ気持ちさえあれば、たとえわずか6日間であっても、驚くほどのものを吸収し、それをこの先の人生に生かしていくことができるのだ。

首藤康之×中村恩恵による夏季限定せたがやジュニアバレエカンパニー_3

保護者の方から新作の楽曲がワルツであったのは特別な意味があるのかという質問に、中村は「日本では三拍子はかなり珍しい拍ですが、バレエではよく使われる拍。それは、ワルツの原形のヴォルツがビーナスから人間へのプレゼントだという神話に由来しています。人間は、ジュピターが男女を二つに分けてしまったせいで、常に何かが足りないと感じ、孤独に苦しむ存在となってしまいました。ですが、二人で組んでワルツを踊っている瞬間だけは、人間は孤独を忘れて空間に溶け、世界やすべてのものと一体になることができます。踊りを通して、世界との一体感を味わってほしいと思い選曲しました」と、込めた思いを語っていた。

「美しいが、とても厳しい」世界で首藤、中村の二人が10代の頃から学んできたことを次の世代に伝えようとする真摯な姿勢。そしてそれをしっかりと受け止め、大きな成長を遂げた生徒たち。首藤と中村、そして素晴らしい指導の手腕を見せてくれた元新国立劇場バレエ団プリンシパル湯川麻美子の望み通り、このプロジェクトが継続され、いつか心も体も芸術家と呼ぶにふさわしいダンサーたちを生み出してくれることを願ってやまない。

(取材・文/月島ゆみ)

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