2016年7月28日(木)に初日を迎えた、シャトナー of ワンダー #4『ソラオの世界』。主演に多和田秀弥(ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン:手塚国光役、テレビ『手裏剣戦隊ニンニンジャー』など)を迎え、能天気な大学生ソラオが閉じ込められてしまった夢の世界の旅を描いた作品。これまでエンタステージでも稽古場の様子や多和田のインタビューをお伝えしてきたが、美術・衣装・照明などすべてが揃った本番の舞台空間は、まるで幻想的な夢の世界に迷い込んだようだ。今回は、初日公演直前におこなわれたゲネプロの様子をお届けしたい。
開演時間になると、劇場内が少しずつ歓声に包まれていく。照明が客席に当てられ、まるでライブ会場のようだ・・・・・・と思ったまさにその瞬間、ライブがスタート!ソラオ(多和田)がボーカルを務めるバンドがステージに登場する。メンバーは、ベースのエド(小野健斗)、キーボードのカイ(平牧仁)、ドラムのシンディ(桑野晃輔)だ。メンバーそれぞれ金・赤・黄・緑に染まった髪型に、青い衣装。そのビジュアルにまず目を惹かれる。音楽が鳴り響くと、劇場の観客は、一気にライブ会場の観客として物語に引きずり込まれる。
多和田演じるソラオは、いつもハイテンションで約束を破っても悪びれない。バンドメンバーに文句を言われても笑顔で謝るなど調子が良い。「バカなやつ」と言われながらもなんだか憎めない青年という役柄が、多和田の素直な演技にぴったりだ。満面の笑みを浮かべていたかと思うと、落ち込むときは顔中をゆがめて落ち込む。かと思えばすぐに機嫌をなおし、へらへらと笑っていたりする。ジェットコースターのような慌ただしい百面相を、多和田がつねに思いきり表現するので、見ているこちらも清々しい。
そんなソラオが、大学の単位とバイト代のため、実験の被験者となって夢の世界に迷い込む。
戦争、砂漠での遭難、恋・・・いろいろな出来事が次々と起こる。そんな慌ただしい夢の世界を、舞台中央でくるくると回転する装置と、照明、音、人間の体で表現する。基本的には、全編を通して笑いが満載。夢から出られないという危機的な状況でも、全身を使ったギャグが飛び交う。楽しそうにステージを動き回る多和田は、舞台経験が少ないとは思えないほど生き生きとし、芸達者でもある。
小野、平牧、桑野が演じるバンドメンバーも個性豊かだ。エドはなんだかんだ言いながらもソラオの相手をする優しさが小野の柔らかい雰囲気に合っている。キザで思いきりのいいカイを演じる平牧は、その勢いある動きで躍動感を生んでいる。また、桑野は安定感のある動きと台詞まわしで、状況を的確に分析するシンディを表現。頼りがいのあるドラマーとして、力強くバンドメンバーをまとめている。
目まぐるしく入れ替わる登場人物のなかで、たった二人だけの大人を演じる加藤啓と村田充が、舞台の空気を引き締める。夢の研究をするセプテンバー所長(加藤)とナカイド教授(村田)は学生のソラオたちほど無邪気ではなく、それぞれの事情のうえで判断を下す姿勢が人物に深みを与える。感情を表に出さない演技が多いが、それぞれ夢に出てくるキャラクターを演じる時は、ひょうきんな顔も見せる。
夢のなかから出られないソラオは、最愛の人ヨルダ(はねゆり)と恋に落ちる。本作の紅一点であるはねゆりは、小柄な体と涼やかな声で可愛らしい女性を演じつつも、頼りないソラオの尻を叩き、逞しく夢の世界を渡り歩く。男だらけの登場人物のなかでも浮くことなく、むしろ舞台に華を添えていた。彼女が出てくると、空気が軽やかになるようだ。
ソラオとバンドメンバー以外のキャストは、一人で何役もこなす。研究所の職員や、動物や恐竜、兵士、通りがかりの人物たち。次々といろんなキャラクターとして登場し、舞台の端から端まで駆け回り、『ソラオの世界』の世界観を支えている。
夢の世界では次々と不思議なことが起こっているが、現実のソラオは眠っている。幻想と現実。セプテンバー所長など大人の思惑も絡むなか、夢から出られないソラオは幻想の世界で生きていくしかない。その夢のなかで、素直でバカで愛嬌だけはいっぱいだったソラオが、一人の人間として様々な表情を見せるようになる。
休憩なし2時間の舞台。ソラオは一生分の夢を見て、観客も一緒にソラオの人生を体験する。たった2時間で人生を生きる劇場こそ、まるで夢のようだった。幕が下りても劇場を出ても、まだ夢のなかにいるようなふわふわとした余韻が残っている。
シャトナー of ワンダー #4『ソラオの世界』は、7月28日(木)から7月31日(日)まで、Zeppブルーシアター六本木にて、全7ステージが上演。
(取材/河野桃子)