2016年7月15日(金)より東京・ウエストエンドスタジオにて上演されている舞台『Suka-suka aja de! (スカスカアジャデ!)』。本作は、平成28年度・次代の文化を創造する新進芸術家育成事業「日本の演劇人を育てるプロジェクト」の一環として行われている公演で、スタジオライフ主宰・倉田淳の初期の短編を集めたオムニバスとなっており、日本人旅行者たちがアジアを舞台に巻き起こすエピソードが描かれている。以下、公演レポートを紹介。
「日本人が海外旅行に出かけるとき 堀内浩一郎(演劇ジャーナリスト)」
「旅の恥はかき捨て」とは、よく言ったものだ。国内旅行では、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」に代表される。これが1800年代初頭。海外旅行では1970年代の農協団体ツアーが知られている。筒井康隆が1973年に短編集「農協月へ行く」を発表し農協ツアーを風刺しているが、ではバブルに湧き、一般の人々がどっと海外に遊びに出かけた1980年代はどうだったのか。なにせ1985年のプラザ合意で、1ドル240円だった為替相場は、数年後には倍の120円に高騰した。バブル経済を生む原因になったとはいえ、この円高でツアー料金は安くなり、買い物もお得感が満載。
『Suka-suka aja de!』は、インドネシア語で「私の好きにさせてよ!」の意味だそうで、急に“金持ち”になり、ウキウキ気分の日本人旅行者が海外で巻き起こすエピソードをオムニバスで綴っている。
『ハナコケイコ』は、東南アジアにやってきた二人のOLが、冒険心から民泊オプショナルツアーに参加したものの予想外の展開に。「貴重品はホテルに預けて」と注意され、貴金属類は持ってこなかったが、大事な“貴重品”に気づくことになる・・・。
砂漠の真ん中で車が故障し、オアシスの町まで歩くことになったビジネスマンを描いた『井戸のほとり』。本社からやってきたエラソーな部長と、早く東京に帰りたい若い現地駐在員の会話に引き込まれる。ノスタルジアに浸る部長、スレカラシの駐在員の対比には、意外性があっておもしろい。
ある時はシニカルに、ある時はブラックユーモアたっぷりにと、それぞれのエピソードの展開は多彩。作・演出の倉田がバブルの頃、実際に東南アジアを旅行した体験を元に構成したとか。それから25年、日本人の海外旅行はどう変化したのか。農協ツアー時代よりルールを守るようになり、街歩きをしたり文化を楽しんだりする人が増えたことは間違いない。さらに、カンボジアで小学校建設に汗を流したり、地雷撤去のボランティアに参加したりと、旅の目的も多様化している。さて、次はどんな旅物語が生まれるだろうか。
本公演は、文化庁・日本劇団協議会主催の新進演劇人育成公演で、スタジオライフの育成対象者である若林健吾、田中俊裕、千葉健玖、江口翔平をはじめ、中野亮輔(青年座)、大塚庸介(イッツフォーリーズ)、甲津拓平(流山児★事務所)などが参加している。
『Suka-suka aja de!』は、7月15日(金)から7月25日(月)まで東京・ウエストエンドスタジオにて上演。