元ももいろクローバー・早見あかりが初舞台を踏む『夢の劇-ドリーム・プレイ-』が、2016年4月12日(火)に幕を開けた。共演には、田中圭、玉置玲央など注目の実力派俳優が並ぶ。イプセンとともに近代演劇の先駆者といわれるヨハン・アウグスト・ストリンドベリを原作に、演劇界を牽引する白井晃が演出、長塚圭史が脚本を担当。本作最大の見どころは、白井の得意とする暗く美しい不思議な空間を表現した、ダンス・生演奏・衣装・舞台美術の融合だ。劇場に一歩踏み入れれば、そこは夢の世界。出演者たちは、「今までに見たことがない舞台空間」と語る。本公演に先駆けて行われた会見の模様と、ゲネプロのレポートをお届けしたい。
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主演の早見は1月の製作発表で緊張のあまり涙をみせていたが、「もう緊張している場合ではない」と口にした。「ついにこの日が来るのか・・・って感じです。今は、なんとかなるんじゃないかって気持ちが強くなりました(笑)」と明るい表情を見せた。白井、長塚、田中は、「早見さんは度胸がある。熱心で勘が良く、初舞台とは思えない」と口をそろえて“舞台女優・早見あかり”に太鼓判を押す。白井は、今作の演出について「音楽、踊り、美術といろいろ楽しめる。とても色彩豊かに仕上がっています」と紹介。田中は「他では見られないような舞台空間になっているのは確実です」と断言していた。
劇場に入ると、まず、その空間がかもし出す不思議さに思わず立ち止まる。ステージを取り囲む三方囲みの客席。天井には、剥き出しの美術があちこちにぶら下がっている。そこは雲の上。物語は神インドラの娘・アグネス(早見)が雲の上から地球を見下ろしているところから始まる。父である神(白井)から「地上へ降りて人々の不満や嘆きを見聞きしてこい」と告げられたアグネスは、地上の人間たちに「あなたの不満を教えて」と聞いて回っていく。
演じる早見にとって、初めての舞台出演は「わからないことだらけ」。舞台の専門用語もわからず、演出の白井に何を指示されているかも理解できなかったという。1ヶ月半の稽古中、一つ一つ丁寧に、白井や共演者に教えてもらったという早見は「まさにアグネスのように、何も知らない赤ちゃんみたいだった」と振り返る。その言葉のとおり、アグネスも地上で、寿命のある“人間の生”について学んでいく。アグネスが出会うのは、名誉に執着した男、報われない恋をする若者たち、病を抱える人々、貧困と差別・・・。アグネスは人間の生活を知るほどに、何度も「人間って哀れだわ」と口にする。
ステージは低く、観客は出演者を見下ろすことになる。それはまさに、雲の上から地球の人間たちを眺めるアグネスの視点だ。舞台上で繰り広げられる人間の生活は、私たちの日常そのもの。しかし、客席からそれを見下ろし観察する立場になったからこそ、アグネスの「人間って哀れね」という台詞が跳ね返って、胸に突き刺さる。
長塚がこの作品の上演をイギリスの舞台関係者に告げた時、「なんて勇気があるんだ!」と驚かれたそう。そんな本作だが、白井の演出はまったく難解ではない。森山開次が振付を手がけ、バレエ、ポールダンス、コンテンポラリーダンスなどを交えながら、舞台の上の景色を次々と変えていく。
機械やからくりを得意とする小竹信節の舞台美術と、映画『繕い裁つ人』で注目を浴びたファッションデザイナー佐藤佐智子のレトロかつ近未来的なデザインの衣装が、不思議な空間を彩っている。さらに、舞台奥の楽隊が奏でる生演奏が力強い。
美術・衣装・音楽・照明・ダンス・・・すべての要素が融合する不思議な空間で、アグネスと共に地上の生活を体験する。120分間、ここが劇場だということを忘れてしまった。まるで“人間の生”という長い夢をさまよったような、まさに『夢の劇』だった。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『夢の劇-ドリーム・プレイ-』は、2016年4月12日(火)から4月30日(土)まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場<ホール内特設ステージ>にて上演。その後、長野、兵庫にて公演が行われる。日程は、下記のとおり。
4月12日(火)~4月30日(土) 神奈川・神奈川芸術劇場 <ホール内特設ステージ>
5月4日(水・祝)~5月5日(木・祝) 長野・まつもと市民芸術館 実験劇場
5月14日(土)~5月15日(日) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
(文・写真 河野桃子)