関西で立ち上げ、いまや関東で大きな人気を博す劇団鹿殺し。その結成15周年の第一作『キルミーアゲイン』が、2016年1月9日(土)から本多劇場にて幕を開けた。主宰・演出の菜月チョビは昨年末、エンタステージのインタビューで「この先、鹿殺しを解散することはないと覚悟を決めました。劇団員とお互いにもっと可能性を広げ合って成長していくぞ、と肝がすわった第一作です」と意気込みを語った。その言葉どおり、今までとは違う新たな可能性を見せる鹿殺し公演となっている。
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物語は、セミプロの劇作家・薮中(大東駿介)が東京から田舎の村に帰ってくるところから始まる。しかし、村はダム開発されることになっていた。村人たちは、村に伝わる「人魚伝説」をモチーフにした演劇で反対運動をしようと立ち上がる。
演劇素人の村人がつくる劇中劇はとにかくハチャメチャだ。ダンスあり、歌あり、ギャグあり。これでもかと、いつもの鹿殺しの勢いあるパフォーマンスが炸裂する。
また、ストーリーの展開とともに村の過去が描かれる。15年前、薮中は学校の吹奏楽部を辞め、演劇にのめり込んでいた。しかしある日……悲劇が起こった。
現代の村人たちによる劇中劇が完成に近づくにつれ、現在と過去は交差し、15年前の悲しい事件が明らかになっていく。後悔、無情、後ろめたさ……村人たちがこの15年、どんな思いを抱えて生きてきたのかが浮き彫りになる。
吹奏楽部の学生が楽器を演奏するなか、ゲスト出演である大東もチューバに挑戦。女装や被り物、ダンスを全力で披露する様は、鹿殺しの劇団員のようにしっくりくる。
鹿殺しは本作で、あえて今までのエンターテインメント要素を抑え、人間関係を深堀りしている。薮中の視線を中心に物語が進むが、登場人物それぞれの抱える思いが露わになる。過去の悲劇とそれを巡る人々の思惑を丁寧に描くことで、鹿殺しならではの“土臭さ”“人間臭さ”がより鮮明になっていた。
15年前の大阪で、演出の菜月チョビが大学の先輩である丸尾丸一郎を誘って劇団鹿殺しを作った。そして『キルミーアゲイン』では、15年前に薮中健が大倉聡(丸尾丸一郎)たちと劇団を作った。実際の事実と、物語が重なる。
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鹿殺しには、結成15周年という節目に「“お芝居”のことを物語にしたい」という思いがあったそうだ。劇場のロビーには「活動15周年寄せ書きコーナー」が設けられ、公演を重ねるごとに長年のファンや初見の観客による思い思いのコメントで埋め尽くされていく。舞台に乗せられた作品だけでなく、客席・ロビー含め劇場全体で『キルミーアゲイン』は成長している。
今公演は、これまで演劇と向き合い、今後も演劇を続けていくと決意した鹿殺しからの、演劇へのラブレターなのではないだろうか。
本多劇場での公演は1月20日(水)まで。その後大阪・ABCホールにて1月28日(木)~30日(土)まで上演する。
写真:和田咲子