2016年1月7日(木)より、東京・Bunkamura シアターコクーンにて『元禄港歌-千年の恋の森-』が開幕した。1980年に作・秋元松代、演出・蜷川幸雄のタッグで生み出され、1984年、1998年、1999年と上演が重ねられる度に、多くの観客を魅了してきた作品が、蜷川の手により再び蘇る。出演は、市川猿之助、宮沢りえ、高橋一生、鈴木杏、市川猿弥、新橋耐子、段田安則、ほか。
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開幕前日には、マスコミ向けにフォトコールが行われ、舞台の一部が公開された。本作の舞台となっているのは、活気溢れる元禄の時代。大店筑前屋を舞台に、結ばれない男女、哀しき秘密を背負った親子の姿を、情感溢れる台詞と陰影ある人物造形で美しく描きだしている。
光の中に浮かび上がるお座敷で、盲目の女芸人・瞽女たちのによって三味線演奏されているのは「葛の葉子別れ」。千年の森の奥から恋しい男のため白虎となり逢いに来た女が、人里の男に恋をした罰に生まれたばかりの子と別れて再び森に帰らねばならぬという物語が哀しく響く。満開の寒椿がぽとり、ぽとりと落ちる様子と相まって、得も言われぬ美しい光景に目を奪われる。
瞽女の母親・糸栄を演じる市川は、“母親”という役どころについて「糸栄という役は、白い狐が化けたような、どこか非現実的で、幻想的な存在です。だから女形という特異性と役の特異性が呼応しているように感じています」と語る。これまで、嵐徳三郎や藤間紫といった名優たちが演じてきたこの役に、市川がどのような情感を与えるのか、注目だ。
また、糸栄の長女・初音を演じる宮沢は「初音の“罪深う生まれてきたとも知らいで、あなたと逢うてしもうた。”という台詞がとても好きです。生まれながらの罪をしっかり受け止めて、それでも愛することを止めない女。自分の存在を蔑み、原罪を受け止め、でも溢れ出る想いに揺れる。その姿にものすごく色気を感じますね。今回は“惜しまない表現”を目指します」と意気込みを見せていた。
また、本作の音楽は「ふりむけばヨコハマ」「おふくろさん」などで知られる作曲家・猪俣公章が手がけ、劇中唄には美空ひばりの楽曲が使われている。演出を手がける蜷川は、今回の上演に関し、以下のコメントを寄せている。
◆蜷川幸雄(演出)
秋元松代さんの作品に登場する女たちは、いつも激しく、ストイックだ。その希求の激しさとストイックさは、どこかで破滅的な不幸とつながってゆき、我々の近代が何を犠牲にし、何を捨ててきたのかを証明している。
もし、ぼくに演出というものがあるなら、祖母や母や妻たちへの痛恨を込めた鎮魂歌を、誠実に伝えることだと思っている。父=男の目でしかとらえられてこなかった世界を、父+母、男+女としてとらえなおしていく、正当なる要求だ。
そこに、美空ひばりさんの歌声が必要だと思った。
市川猿之助さんが、ひばりさんの歌で『元禄港歌』をやりたいと言ってくれた。猿之助さんの糸栄なら見てみたい。久々にあらたな気持ちでこの作品をやってみたいと思った。宮澤りえさん、段田安則さんといった鈴れた俳優たちとの仕事も、ぼくにとって大きな喜びだ。きっと彼らなら、ひばりさんの歌声に拮抗してくれるだろう。
初演から36年・・・“出会えなかった観客たち”に今、蜷川が贈る渾身の舞台『元禄港歌-千年の恋の森-』は、1月31日(日)まで東京・Bunkamura シアターコクーンにて上演。その後、2月6日(土)から2月14日(日)には、大阪・シアターBRAVA!にて大阪公演が行われる。