ドイツの著名映画監督で、鬼才と呼ばれるライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1970年代に書き遺した演劇のための戯曲『ゴミ、都市そして死』『猫の首に血』が、作家・演出家の千木良悠子を中心とする劇団SWANNYによって、東京・世田谷パブリックシアターにて二本同時上演されている。本作はどちらも女性が主人公。月面上の都市に生きる美貌の娼婦と、地球に落ちてきた宇宙人の女の子の物語だ。
関連記事:世田谷パブリックシアターの公演情報はこちら。かなり素敵な作品が盛りだくさんです!
『ゴミ、都市そして死』(Der Müll, die Stadt und der Tod)の舞台は、ナチスと第二次大戦を経た、冷戦下のドイツの都市フランクフルト。しかしながら、そこは月面上でもあり、台本の冒頭には「…というのも月は地球のとりわけ都市部と同じく、人の住めないところだから」というト書きがあるという。
主人公の娼婦「ローマ・B」は、恋人フランツ・B に日々暴力をふるわれ、抑圧的な関係を強いられている。ローマが街頭でなかなか客が取れずにいるところに、資産家のユダヤ人男性が現れ、多額の報酬で彼女を買い取る。ローマは突然裕福になるが、一方、恋人フランツとの関係のバランスが崩れていき――。
『愛は死より冷酷』というタイトルの映画を撮っているファスビンダーは、最も素晴らしい愛すらも、個々の人間どうしの抑圧的な関係性の中にしか生まれ得ない惨めなものであると語っている。人間の卑小さと残酷性を、スクリーンにあふれこぼれる美しい光と不思議な陶酔との中に描くファスビンダー作品の特性が、際立って顕現しているのが、この『ゴミ、都市、そして死』という作品だ。
出演は、緒川たまき、若松武史、仁科貴、渚ようこ、伊藤ヨタロウ、顔田顔彦 ほか。
そしてもう1作。『猫の首に血』(Blut am Hals der Katze)の舞台は、どこかの街の大通り。宇宙の遠い星から、人間の社会がどれほど民主主義的かを査察するために送り込まれてきた美少女、フェーベ・ツァイトガイストは、人間の言語を単語だけまるまる暗記してきたのだが、意味は理解していない。
彼女の前にやがて現れるのは、警察官、肉屋、教師、兵士、ヒモ、少女、モデル、女主人、兵士の未亡人といった街の人々。初めは一人ずつの独白、次に二名ずつペアになって、さまざまなシチュエーションに応じて会話を始める。万引き犯人の少女とそれを見咎める大人、借金を背負って諍いする夫婦、子どもに体罰を与えるべきだと主張する教師と母親、娼婦に金をせびるヒモ、洗車機を売りつけようとする営業マンとその客、などなど….。人生の苦みや愛の虚しさに絶望した彼らの交わす言葉は、互いを利用しようと躍起になり、罵り合い、非常に醜悪なものとなる。フェーベは彼らの台詞を覚えたそばから発声してゆく。そして、全員が一同に会するパーティーのようなラストシーンでは――。
出演は、朝比奈かず、辻田暁、山田キヌヲ、鬼頭典子、小林麻子、宮崎吐夢 ほか。
SWANNY Vol.7 ファスビンダーの『ゴミ、都市そして死』 『猫の首に血』は東京・世田谷パブリックシアターにて以下の日程で上演中。
(A『ゴミ、都市そして死』 B『猫の首に血』)
6月27日(土) 13:00→A 19:00→B
6月28日(日) 12:00→B 16:00→B