客席数2000を越える劇場で舞台を創ってきた二人が、2017年一発目に選んだのは、客席数150の下北沢・ザ・スズナリ。主演の宮崎秋人と演出の中屋敷法仁に話を聞くと「体温や息づかいが届く距離だから“俳優を観る”のではなく“俳優と一緒にいる”ことを感じてもらいたい」と語る。『柔道少年』は、韓国で4ヶ月のロングラン公演が行われるほどの人気作。宮崎は、すでに8月から柔道の稽古に臨んでいるという。そんな気合いの入る二人に話を聞いた。
『柔道少年』はチームで見せる芝居
――この作品の魅力はどんなところでしょう?
中屋敷:一番の魅力は、素直なところ。ひたむきに真っすぐお芝居にぶつかっている熱さがありますね。
宮崎:登場人物がみんな青くさいですよね。スポーツに全力で打ち込んでいる少年たちが、恋に対しても脇目も振らず突っ走る姿がすごくかわいらしいと思います。特に、僕の演じる役は圧倒的におバカ(笑)。今まで演じたことがないほど真っ直ぐなので、小手先ではお客様に届かないだろうし、やりがいがあるなと感じています。
中屋敷:この主人公って、バカなんだけどバカになりきれない部分も少しあるところが人間らしくて、秋人君に合ってると思う。バカなりにウジウジと悩んだり、言い訳したり、中途半端なところがいいんだよね。
宮崎:台本読んでて「んも~!」ってなりますよ(笑)。
中屋敷:僕は、青くさくがむしゃらに何かをやるのがすごく苦手なんだけど、唯一、演劇に関してはバカになれるし、お客様も劇場でそういう俳優さんの姿を観ることで、自分も少しだけ殻が破れたりするんじゃないかな。観劇中だけは、俳優さんと一緒にいろんな夢を見たり、青春を味わったりできるから。だから劇場にいる間は、お客様も一緒に少しの青くささを感じてもらえたらいいな。
――原作は韓国が舞台ですが、設定を日本に変えたんですね。
中屋敷:主人公の出身は青森にしました。原作では、韓国の田舎の高校生と首都ソウルの高校生の対立が描かれているので、それを日本に置き換えたんです。方言指導も入りますよ。方言って、書かれている言葉じゃなく人間の内部から出てくる言葉なので、上手く役者の発する言葉と交わるといいなと思っています。
宮崎:そもそも僕、方言のお芝居が初めてなんですよ。関西弁もやったことなくて・・・。
中屋敷:僕の出身は青森だけど、まあ、青森弁は大変かもしれないね(笑)。
――台本を再構築するとのことで、主演の宮崎さんに合わせた変更もあるんですか?
中屋敷:いや~、秋人くんは何でもできちゃいそうだから困ってるんですよ。実は主演って、一番共演者やお客様に甘えなきゃいけない立場なんです。皆に頼ったり、信頼されるんじゃなくて、自分が先に信頼して味方につけていくのが主演。
宮崎:2016年は、舞台ライブ・ファンタジー『FAIRY TAIL(フェアリーテイル)』で初主演をさせていただきましたが、その時は「主演だからこうしなきゃいけない」という焦りもあったんです。でも今は気負わずに、どんな役でも変わらず作品に向き合っていくのが肌に合っているなと思えるようになりました。『柔道少年』では、とにかくチームワークを大事にしたいと思っています。
中屋敷:僕は今回、お芝居に対して素直でひたむきな俳優さんを選んだよ。そして、秋人くんに限らず、今回のメンバーは全員うまいからね。だからこそ、このメンバーでしかできないものを追求したいな。
宮崎:(荒井)敦史も(池岡)亮介くんも三津谷(亮)くんも、物怖じせずにその場で思った事をボンボンと体現できる人たちだなという印象があるので、そこにうまく乗れたらいいな。敦史は馬力と瞬発力があるし、亮介はズレてるのに納得しちゃうおもしろさがあるし、三津谷くんは空気に敏感で自分の見せ方がずば抜けてうまい。そんなキャストなので、今回は中屋敷さんに「それはやりすぎ!」って何回言われるかが肝だなと思っています。人間関係が如実に反映されていく作品なので、普段から信頼関係のあるメンバーだからこそできる舞台が作れるんじゃないかと思います。
中屋敷:もともと、韓国の劇団で上演されていたものだから、チーム感が大事。キャスト同士や、僕とキャストの、濃密な関係がそのまま舞台になるといいな。
――舞台では柔道をどう表現するのか気になります。
中屋敷:僕は、バレーボールやバスケットボールを扱った舞台にも携わらせていただきましたが、柔道は本当に掴まないとできない競技ですよね。いくらスローモションにしようが、コマ送りにしようが、本当に相手を掴まないといけないから・・・どうなっちゃうんだろう(笑)。
宮崎:物理的に触れるかどうかは、大きなポイントですよね。殺陣ともアクションとも迫力が違うだろうな。
中屋敷:しかも今回は、体温や息遣いが客席に届く広さの劇場だから、汗がほとばしる感じも、より臨場感をもって伝わるんじゃないかな。その臨場感が、一番の魅力にでなるといいね。
お客様には、「俳優を見る」のではなく「俳優と一緒にいる」ということを感じてもらえたら嬉しいな。
宮崎:そうですね。スポーツを扱った作品だと舞台『弱虫ペダル』シリーズに出演させていただいてきましたが、この『柔道少年』は、お客様に見せるというより見られる舞台になりそうです。大きな劇場とはお客様の見方も違うと思うので、その違い楽しんで欲しいですね。
――そんなお二人は2015年夏以来二度目のタッグですが、お互いにどんな俳優であり、演出家だと感じていますか?
中屋敷:秋人くんは、舞台によってコロコロと印象が変わるんですよ。日々、作品と一緒に成長と変化を遂げていて、今、一番見逃せない時期じゃないかな。だからこそ今回の作品では、そんな伸び盛りの秋人くんじゃなくて「本当の秋人くんはどこにあるんだろう?」と探りたい。人間としてもっと素の部分が見えるといいなと思っています。
宮崎:中屋敷さんは、役者本人のことをすごく愛してくれますよね。だから役者も中屋敷さんのことを好きになります。「あれやって、こうやって」と指示するわけじゃなくて、役者が投げかけたものをすごく尊重もしてくれるし、一緒に作品を作っていく感じ。それなのに、知らない内にリードして、どんどん道をこじ開けていってくれる。そこに、僕ら俳優がどこまで喰らいついていけるかが勝負ですね。
僕たちが生きる場所は、演劇しかない
――『柔道少年』は部活動の青春物語ですが、お二人はどんな学生時代を?
中屋敷:ものすごく怖い高校生でしたよ!ポケットにシェイクスピアの本を入れていましたから。休み時間もずっと演劇の本を読んでいて、たまに友達からドラマの感想を聞かれると「あの俳優さんはこういう芝居をする人だから」とか「あの俳優さんは劇団出身の人」とか答えていたな。クラスの出し物では率先して監督をしたり、文化祭の露店の宣伝とかもものすごく稽古して、フリとかボケを仕込んで全校集会で発表したりしていましたね。「演劇をやってる人間は存在するんだよ」って、知らしめたかったんです。
宮崎:へえ~、すごい!
中屋敷:運動も勉強も平凡だったので、演劇で自分のキャラを立ててたの。高校時代のノートには、観たドラマのことを全部メモしていて「このシーンのここがよかった」「これはドラマの構成が悪い」とか書いてあって。自分で読み返して引いたもん(笑)。そんなヤツが青森の片田舎にいたんですよ!単純に演劇に憧れていたんじゃなく、気持ち悪いほど執着してました。
だから今は、同窓会に行って「演出家をしている」と言っても誰もビックリしない(笑)。
宮崎:すごい・・・僕なんかポケットに消しゴムとシャーペンしか入っていない学生だったのに(笑)。あとチョコレート。鞄も持たず手ぶらで学校に行っていたので、本当に何もしてなかったなあ・・・。
ギターは弾いてたけど、休み時間は何もしていなかったし、部活は高1でバスケを辞めちゃったし。
中屋敷:やりたいことを探してた?
宮崎:そうですね。真っ白でしたね。
・・・・・・自分でも驚くくらい記憶がないです(苦笑)。
――真逆ですね(笑)。そんなお二人がどっぷりはまった舞台の魅力を聞きたいです。なぜ演劇を続けているのですか?
宮崎:そもそも僕は、役者に向いてないと思うんです。小さな頃から勉強もスポーツもそこそこできたので、親からずっと「早く挫折に出会ったらいいね」って言われていて。初めて「できない!向いてない!」と思ったのが、演劇だったんです。「ああ、これは逃げずに一生向き合わなければいけないな」という思いが、今、舞台に立てている原動力ですね。どの公演でも毎回「大丈夫かな」と不安だからこそ、なりふり構わずぶつかっていくしかない。どう評価されるかは怖いけれど、「今の自分はこれです」って言うしかない。自信がないからこそ全開だし、これ以上止まりようがないんです。
中屋敷:僕は、劇場ってどこよりも無防備になれる場所だと思う。世の中には「こうしないといけない」というルールや他人の視線があるけれど、劇場では何をやっても許される。“劇場はイマジネーションの防空壕”だと思っているんです。たとえば『ピーターパン』が劇場内を飛んでも、誰も「あれはワイヤーで吊られてるんだ!」なんて言いませんよね。それはやっぱり、劇場のイリュージョン。『柔道少年』だって、秋人くんは高校生じゃないけど舞台では高校生でしょ。
宮崎:確かに。
中屋敷:劇場では自由になれるし、無防備でいられる。僕自身がそれを必要としているし、皆にも必要なんじゃないかという確信があるからやっています。
宮崎:劇場の中だと全てが許される・・・それは実感がありますね。自分が生きる空間はここなんだなって思います。
――2017年一発目の舞台への抱負を聞かせてください。
中屋敷:最近はいろんな作品が上演されていて、俳優さんに求められていることもすごく増えていますよね。芝居だけじゃなく、殺陣、歌、ダンス、トークもしなければいけないから大変で、演劇界全体として求められるものがどんどん高くなっている。バラエティに溢れているからこそ素直に作品を創る恐怖もあるので、『柔道少年』ではできるだけ素直に創りたい。男と男が投げ飛ばし合うだけで、どれくらいおもしろくできるかな、なんて考えています。
宮崎:演劇という一人の人間を作る作業と向き合った時に、『柔道少年』では基礎からまた地固めてしていって、おもしろい作品を創りたいです。2016年にいろんな事に挑戦して、前より固くなった自分の地盤を見せたいと思います。
――2月に上演ということで、終演後にはバレンタインにちなんだイベントもあるんですよね。
宮崎:そうなんです!登場人物は男子高校生なので、やっぱり男子高校生にとってのバレンタインは一年で一番ソワソワするイベントだろう!と。
中屋敷:きっとキャストが一番盛り上がってるよね。みんなソワソワして(笑)。
宮崎:そうです、僕たちが一番楽しみにしています(笑)!今年は、年末年始も節分も七夕もハロウィンもクリスマスも何にもないから、来年のバレンタインだけはソワソワしたいんですよ。
中屋敷:なるほど(笑)。
宮崎:せっかくのビッグイベントなので、一緒に楽しめたらいいなと思っています!
◆作品情報
『柔道少年』
【東京公演】2017年2月9日(木)~2月21日(火) ザ・スズナリ
【大阪公演】2017年2月24日(金)~2月26日(日) ABCホール
※これぞスポ根!? 追加公演として朝練公演が決定!なんと特製カイロ付!!
先行予約完売公演多数につき、追加公演が決定!
“朝練公演”という通り、日曜朝の10:30よりスタートするこの追加公演。
来場者全員に、寒い朝をホットに乗り切るための“柔道少年特製カイロ”もプレゼント。
朝練公演でも、キャストと一緒に青春の汗を流そう!
【追加公演】
2月12日(日)10:30開演
2月19日(日)10:30開演
◆プロフィール
宮崎秋人(みやざきしゅうと)
1990年東京都生まれ。2015年10月、俳優集団D-BOYSに加入。主な作品は、ミュージカル『薄桜鬼』、舞台『弱虫ペダル』『Messiah メサイア』シリーズ。舞台『東京喰種』、Dステ17th『夕陽伝』など。2016年には『FAIRY TAIL(フェアリーテイル)』で初主演を務める。
◆中屋敷法仁(なかやしきのりひと)
1984年青森県生まれ。高校在学中に発表した『贋作マクベス』にて、第49回全国高等学校演劇大会・最優秀創作脚本賞を受賞。2004年に柿喰う客の活動を開始し、全作品の脚本・構成・演出を手掛ける。劇団以外の主な舞台は、青山円劇カウンシル ファイナル『赤鬼』(演出)、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(脚本)、『「黒子のバスケ」THE ENCOUTER』(脚本・演出)など。