2025年5月16日(金)に、ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise(通称:モリミュ)が、新たなキャストを迎えて幕を開けた。エンタステージでは、今回新キャストとしてセバスチャン・モラン役の佐々木崇と、マイクロフト・ホームズ役の伊藤裕一にインタビューを行った。
佐々木と伊藤は、知る人ぞ知る10年来の付き合いがありながら、意外にも本格的な共演は本作が初めて。俳優としての互いへのリスペクト、刺激的な稽古場の様子、そして10年という歳月が育んだ絆の深さについて、時に笑いを交えながら、熱く語ってくれた。

「モリミュ」再演に向けた新キャストの想い
――まず、ミュージカル『憂国のモリアーティ』という作品へ出演することになった際のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。
佐々木: 僕がミュージカル『憂国のモリアーティ』に初めて触れたのは、SNSにアップされていたダイジェスト映像でした。短い映像ながら、すごく見入ってしまいました。ピアノとヴァイオリンの生演奏に乗せて表現される歌と心情に衝撃を受けて。歌もお芝居も本当にクオリティが高くて・・・なので、今回この作品に参加できると決まった時は心底喜びました。しかも、以前セバスチャン・モランを演じていた井澤勇貴とは共演経験もあり、プライベートでも親しくさせてもらっているので、個人的にとても楽しみでした。
伊藤: 僕は元々、原作を読んでいたんです。海外ドラマの『SHERLOCK(シャーロック)』なども観るぐらい、シャーロック・ホームズが大好きでして。『憂国のモリアーティ』がミュージカル化されると発表になった時のことももちろん覚えていますが、当時はどこか遠くで起きているビッグニュース、というような印象でした。ですから、マイクロフト・ホームズという役を任せていただけると知った時は、大変光栄に思うと同時に、大きなプレッシャーも感じたというのが正直なところです。
――お稽古は順調でした?
佐々木: 非常に順調でした。Op.2の再構成ということもあり、演出の西森(英行)さんが表現したいイメージが、Op.2から参加されているキャストやスタッフの方々とも深く共有されているのを肌で感じました。音楽のただすけさんも、「前回はこうだったけれど、今回はもっとこうしたい」という点をブラッシュアップされていて、作品全体がいい意味でどんどん研ぎ澄まされていくのを実感しています。より細部にまでこだわって創り上げているという手応えがありますね。
伊藤: 僕が演じるマイクロフトは、物語の進行上、他のキャラクターたちとは少し異なる流れで稽古が進む部分もあって・・・率直に言うと、周りのシーンが出来上がっていくスピードを目の当たりにして、「あれ?本当に大丈夫かな?」と思ったりもしました(笑)。稽古の途中で、演出助手の方が各日の稽古シーンを繋ぎ合わせて「疑似通し」みたいな動画を作ってくださったんですが、自分が不在の日の稽古シーンもたくさんあるので「えっ、僕がいない間にこんなにも進んでいるの!?」と、良い意味で衝撃を受けていました。でもそれも、スタッフさんを含めたカンパニーの皆さんが積み重ねてきたものがあるからこそできること。たぶん、新しく加わった僕ら以外の方々は、早々に「通し稽古できる」と思っていたかもしれない(笑)。
佐々木:その気持ち、すごくよく分かります(笑)。
伊藤:ブラッシュアップしていける強度と魅力が「モリミュ」という作品にはあるんだなと、日々強く感じていますね。
出会いは10年前――「会うたびにドキドキする」
――お二人には10年来のご縁があるんですよね。初めてお会いになった時のことを覚えていらっしゃいますか?
佐々木:初めてお会いしたのは、2014年頃でしたよね。
伊藤: そうだね、ちょうど10年くらい前だ。
佐々木:当時の僕は、俳優としてのキャリアはまだ1年目くらいで、知識も経験もほとんどない状態でした。そんな中で、伊藤さんが一つの作品、一つの役に対して、ゼロから創り上げていくことに精力的に取り組まれている姿を目の当たりにしまして。自分の持っている教科書には載っていないようなアプローチをたくさん見て、強烈な衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。本当にたくさんのアドバイスもいただきました。
伊藤: 今振り返ると、知り合った当時は僕自身がかなり尖っていた時期だったと思います(笑)。「経験者として、芝居で引っ張ってほしい」というような期待をかけていただくこともあり、周りの方にあれこれ口を出してしまっていましたね・・・今となっては反省しきりです(笑)。
佐々木くんは、当時はダンサーとしてのキャリアの方が長かったこともあり、素晴らしい才能や恵まれた容姿を持っていながら、それを芝居にどう活かしていくか、まだ模索している部分があるように感じていましたが、第一印象も非常に良かったですし、何よりも彼は人の言葉を素直に吸収できる才能があった。だから、「このまま真っ直ぐに成長していってほしいな」と、陰ながら、ずっと見守ってきました。
佐々木: 伊藤さんには「こういう時は、もっとこうした方がいいんじゃないか」という具体的なアドバイスはもちろん、もっと大きな視点で「役者として、こういうことを大切にしなければならない」という心構えのようなものをたくさん教えてもらいました。
実は今回も、稽古が本格的に始まる前に飲みに連れていってもらっていろいろ話したんですけど、伊藤さんの言葉は本当に心に刺さるんです。時には「あの時のあの芝居、どうだったの?」と核心を突く、心臓がキュッとなるような時もあって、いつもずっとドキドキします(笑)。
伊藤:ははは(笑)。
佐々木:でも、それは信頼関係が築けているからであって、家に帰って一人でその言葉をじっくり反芻すると「やっぱり伊藤さんの言っていることは正しいな」と、必ず腑に落ちるんですよ。
以前、お芝居のことで深く悩んでいた時期に相談させていただいた時も、本当に的確なアドバイスをいただいて。その時にかけてもらった言葉は、今でも僕が芝居をする上で非常に大切な指針になっていますし、実際に稽古をしていても「これって、あの時伊藤さんに言われたことだ!」とハッとさせられる瞬間がたくさんあります。本当に、ただただ感謝しかない、僕にとってはかけがえのない存在です。
まさかの初共演は「正直、嫌だった(笑)」――互いへの本音と高まる期待
――久しぶりの共演になりますが・・・。
伊藤:正直に言うと、「うわーっ!」と思いました(笑)。出会ってからしばらくは同じ作品に携わらせていただいていましたが、その後は活動するフィールドが少し異なっていたので、どちらかというと客観的に「最近どうしてるかな」「こんな大きな仕事をしているんだな」という視点で見ていました。
だからこそ、少し偉そうなことも言えていた部分があったと思うんです。でも、いざ同じ板の上に立つとなると、「以前言っていたことと全然違うじゃないか」とか、「あんなに偉そうなことを言っていたくせに、自分は全然できていないじゃないか」って思われるんじゃないかと・・・それがとにかく怖かった。本音を言うと、かなりの恐怖を感じていました。(笑)
佐々木: 実は僕も、正直に言うと「嫌だな」と思いました(笑)。もう、全部見られる!と。お芝居のやり方やパフォーマンスのクオリティはもちろんですが、それ以上に、役者としての稽古場での在り方や作品への向き合い方といった部分も、これまでたくさん教えていただいたので、それを間近でずっと見られることになるわけじゃないですか。
そうなると「あれ?いつもの自分って、稽古場でどうしてたっけな?」みたいに、妙に意識してしまいそうな予感がして。モリミュのプロデューサーさんにも、思わず「やだなぁ」って言ってしまった記憶があります(笑)。もちろんそれは、身が引き締まる思いから出た言葉なんですけどね。
伊藤:(笑)。
――ご一緒されてみた、現在の率直なご感想は?
佐々木:稽古場でそれほど多くお互いのシーンを見れたわけではないのですが、伊藤さんの芝居への向き合い方、役者としての内側から燃え上がるようなエネルギーみたいなものはひしひしと感じます。伊藤さんが俳優として持っていらっしゃる武器は、僕が持っているものとはタイプが違うと思うんですが、だからこそ、そこがすごく魅力的に光っているのが分かります。
他の役者さんたちが伊藤さんにアドバイスを求めたり、質問したりしている姿を見ると「やっぱりそうだよな。伊藤さんって、周りから見ても何か気になる、何かを学びたくなる存在なんだな」ということを改めて実感しています。
伊藤:稽古場で彼の第一声を聞いた時、「役者だな」と感じ入るものがありました。
僕が知る「佐々木崇」は、個人の魅力が前面に出ていて、本人のビジュアルや立ち振る舞いにキャラクターを近づけていくようなアプローチが多かったように思います。それはそれで非常に魅力的だったんですが、今回、モランとしての第一声や、タバコを咥えながら台詞を発する自然な姿を見た時に、ハッとしたんです。
ちゃんとキャラクターとして、一人の人間としてそこに存在していた。単に「佐々木崇」という素材から出るものではなくなっている、と。その確かな変化に、本当にハッとさせられました。
佐々木:・・・そう言っていただけてものすごく嬉しいですけど、自分では何がどう変わったのか、正直あまり実感がないというのが本音です(笑)。
伊藤:それでいいんじゃないかな。きっと。ずっと一緒にいたら気づけなかったかもしれない、本当に微細な変化なんだと思います。でも、離れて見ていたからこそ、その成長がはっきりと分かる。10年という月日を努力し続けて、第一線で活躍し続けている役者だからこそ、ちゃんと積み重ねてきたものがあって、それが今の評価に繋がっているんだなということを、まざまざと見せつけられている気がします。これからは余計なことは一切言わないようにしようと、心に誓っていました(笑)。
佐々木: いやいや(笑)。でも、もし何か本当に大きな壁にぶつかったり、道に迷ったりした時には、伊藤さんはきっと的確な言葉を掛けてくださると信じているので、何も言われないということは、とりあえず今のこの方向性で進んで大丈夫なのかな?と、ある種の安心感もいただいています。
この10年間、俳優という仕事を続けられて、年々お芝居が楽しくなってきているなと感じています。伊藤さんのお芝居を拝見していると、緻密に計算された上での圧倒的な自由さや、その場で起こったアクシデントさえも楽しんでしまうような遊び心があるのが分かるようになってきました。僕自身はまだまだ硬くて、そんな域には達していませんが、それができるようになると、この俳優という仕事はもっともっと楽しくなっていくんだろうなと、今まさに体感している最中です。
複雑で奥深い「モリミュ」の楽曲の魅力
――複雑で奥深い楽曲は「モリミュ」の大きな魅力の一つになっていると思いますが、お二人は、この作品の楽曲に対してどのような印象をお持ちですか?
伊藤: おっしゃる通り、非常に「複雑」です。ただ、この『憂国のモリアーティ』という作品自体が、張り巡らされた謎や登場人物たちの言葉も複雑なので、その世界観と驚くほどマッチしていると感じます。まるで、犯罪の背後にある本当の意図を一つ一つ手繰り寄せていくような・・・そんな巧妙に編み込まれた楽曲群だなと。
思考のスピードが非常に速いキャラクターたちの心理描写に、聴いている側の感情を追いつかせようとすると、自然とあの独特のスピード感になる。そして、決して観客を置いてけぼりにしないという強い意志も、音楽そのものから提示されているように感じます。だから、すごく複雑でありながら、実は非常に丁寧で親切な音楽でもある。…ただ、いかんせん演者の技術がなかなか追いつかないというもどかしさは、常に感じていますけれども(笑)。
この「モリミュ」でしか聴くことのできない、唯一無二の楽曲がたくさんありますし、演出の西森さんや音楽のただすけさんが、そっと作品の中に忍ばせている何か特別なエッセンスのようなものを一つ一つ紐解いていく作業もまた、この作品の大きな楽しみの一つだと思います。
佐々木:本当に、伊藤さんのおっしゃる通りだなと思います。19世紀末のイギリスという時代背景もあり、ブロードウェイミュージカルのような華やかさや派手さとはまた違う、どこか曇り空のような色彩を抑えたトーンが全体を支配している。細かい心理描写や、繊細な感情のニュアンスのせめぎ合い、そして息をもつかせぬスピード感、さらにはコーラスのハモり方一つも、一瞬「どうなってるの!?」と思わせるような複雑な瞬間がありますよね。それがこの作品ならではの魅力になっていて。ただすけさんに、思わず「これからも、ただすけさんの創るミュージカルをたくさん観たいです!」とお伝えしてしまったくらい、作品と音楽の寄り添い方が本当に素晴らしいなと感動しています。
「10年分の成長と、新たなモリミュの衝撃を劇場で」
――最後に、公演を楽しみにされているお客様、お二人の共演を喜んでいる皆さんへ、お一人ずつメッセージをお願いいたします。
佐々木:僕のことを久しぶりに舞台でご覧になるというお客様には「佐々木崇、10年でこんな俳優になったんだな」という部分を少しでも感じていただけたら、それ以上に嬉しいことはありません。セバスチャン・モランという役には、自分の生きる意味や使命を改めて見出させてもらったような、そんな運命的な感覚を覚えています。心から尊敬し、頼りになる兄貴である伊藤さんと一緒に、作品の核となる種を丁寧に育てて、綺麗に咲かせて皆様にお届けできるように、全身全霊でがんばりますので、どうぞ、楽しみにご覧ください。
伊藤:「モリミュ」を深く愛していらっしゃる方がたくさんいらっしゃる中で、今回、新キャストとして僕たちがこのカンパニーに加わることがどんな化学反応を生み出すのか。カンパニー全員で、文字通り全力疾走で真摯に向き合ってきました。僕個人としても、ものすごいものが出来上がるだろうとすでに確信しています。劇場にいらしていただければ、皆様にとって忘れられない素敵な時間になることをお約束したいと思います。
ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise公演情報
【原作】三好 輝『憂国のモリアーティ』(集英社「ジャンプSQ.」連載)
【脚本・演出】西森英行
【音楽】ただすけ
【東京公演】2025年5月16日(金)~5月18日(日) シアターH(終了)
【京都公演】2025年5月23日(金)~5月25日(日) 京都劇場
【東京凱旋公演】2025年5月30日(金)~6月8日(日) 天王洲 銀河劇場
【出演】
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ: 鈴木勝吾
シャーロック・ホームズ: 平野良
アルバート・ジェームズ・モリアーティ: 廣瀬智紀
ルイス・ジェームズ・モリアーティ: 百名ヒロキ
セバスチャン・モラン: 佐々木崇
フレッド・ポーロック: 横山賀三
ジョン・H・ワトソン: 橋本真一
ミス・ハドソン: 能條愛未
マイクロフト・ホームズ: 伊藤裕一
アイリーン・アドラー: 彩凪翔
井口大地 伊佐旺起 伊地華鈴 梅原ことは 大澤信児 小山雲母
木村優希 熊田愛里 白崎誠也 Taichi 永咲友梨 若林佑太
Piano: 境田桃子
Violin: 林周雅
スウィング: 光由 小野伯月
チケット販売中!
6/8(日)大千秋楽公演 配信あり!
詳細は公式HPにて
【公式サイト】https://www.marv.jp/special/moriarty/
【公式X(Twitter)】@mu_moriarty
【公式Instagram】mu_moriarty

