2024年9月13日(金)より東京・シアター1010にて、舞台『甘美なる誘拐』が開幕する。初日前日には公開ゲネプロと囲み取材が行われ、藤井直樹、和田琢磨、波岡一喜、内博貴、脚本・演出・出演の岩崎う大(かもめんたる)が登壇した。
2021年の「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリ受賞作「甘美なる誘拐」
原作は、平居紀一による同名小説。2021年に宝島社主催、第19回「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリを受賞し、様々な人物や事件が衝撃のラストに帰結する、誘拐ミステリーの新機軸といわれる作品。
脚本・演出を、「キングオブコント2013」王者・かもめんたるのボケ担当として活動するかたわら、旗揚げした「劇団かもめんたる」で原作・脚本・演出を担い、岸田國士戯曲賞に2年連続でノミネートされるなど注目を集める岩崎が務める。
主演には「美 少年」のメンバーとして活躍する藤井を迎え、和田、波岡が出演。また、藤井の事務所の先輩でもある内が特別出演する。さらに、礒部花凜、馬場良馬、高畑結希、末永みゆ、土屋翔(劇団かもめんたる)、槙尾ユウスケ(かもめんたる)、そして岩崎自身も出演者に名を連ねている。
アイドルとしてのギラギラ感で役作りの「美 少年」藤井直樹とギャップで魅せる和田琢磨がバディに
囲み取材では、それぞれが役柄を紹介した。市岡真二役の藤井は「ヤクザの末端で、ちょっとクールなイメージがありつつ、ちょっと気だるさもあるんですけど、ヤクザとしてのギラギラ感も持っているんです」と説明し、「だるさもありつつ、ギラギラ感を出すというのはちょっと難しいなと思いながら頑張ってなんとか仕上げてこられたかなと思います」と役作りの苦労を明かした。
ヤクザのギラギラ感が自分には今までなかったということについて、藤井は「アイドルとして仕事に挑んでいる時の気持ちは、ある種のギラギラしてるところがあると思うので、ヤクザというところではあると思いますけど、そこをちょっと置き換えてやってみたら、なんとなくこんな感じなのかなみたいなものも少しずつ出てきたと思います」と手応えを感じている様子を見せた。
また、初の舞台単独主演ということに対して「めちゃくちゃ緊張して、ずっとそわそわしてるんですけど、本当に心強い皆様に支えていただきながら、ここまで来れたかなという感じはしています」と心境を明かした。
そして、ヤクザ役と初めて聞いた時のことについて「すごく想像がつきにくかったんですけど、小説を読ませていただいて、結構推理が好きなのかなとかというところとかは、僕も結構好きななので共感できるところもありました。ちょっと自分の中の似た要素とかを少しずつ出しながら、自分にない要素もう大さんとかにアドバイスを頂いて、ここまでやってきたかなという感じです」と振り返った。
真二の相棒である草塩悠人を演じる和田は、悠人の役どころについて「真二とは逆で、お調子者でおしゃべりという感じなんですけれども、物語の後半では意外なところを見せるというギャップと言ったらあれですけれども、真二と対象的なキャラクターだと思います」と解説。
石村堅志役の波岡は「古風な昔かたぎのヤクザという役をやらせていただいています。多面的というか、いろんな側面を持ってまして、そのことで楽しんでいただきたいです」とアピール。
アロハシャツの衣装で登壇した堀田正義役の内は「見てもらってわかる通り、チンピラを自由奔放にやらせていただいております」と挨拶し、役作りについて質問されると、「全くしてないです。もうそのまんまでやらせていただいております」と笑顔で答えた。
脚本・演出の岩崎は、登壇者たちのコメントについて「みんな歯切れの悪い感じですね」とのひと言に登壇者たちも爆笑。ミステリーな内容だけに役柄をあまり説明できない登壇者たちに対して「隠さなきゃいけないことがいろいろとあるんでね。皆さん演じていただいて、そのままお話の面白さに繋がってる部分があります」と語った。加えて、植草浩一役で出演することについて「僕の役はすごいシンプルで、悲劇に見舞われる哀れな初老という感じです。その辺はリラックスしながらやってます」と打ち明けた。
原作が「このミステリーがすごい!」で受賞し、人気のある作品ということもあって、舞台化することに関して岩崎は「叙述トリックという形のトリックという大きな要素ありまして、いわゆる映像化不可能とかいうところなんですが、演劇だったらギリギリできるというところで、今回この演劇でやることの大きな意味になってるなと思います」と説明した。
舞台上でバディを組む藤井と和田。お互いの印象を尋ねられると、藤井は「とにかく優しいです。それこそ僕がう大さんから、もっとこうしてほしいみたいなことを言われた時に、その感情をうまく向けられるように琢磨くんがリードしてくださって、すごく助けられました」と感謝を述べた。
その藤井に対して、和田は「稽古であるシーンの時に、普段こういう柔らかい感じで人当たりも優しい感じなんですけど、一瞬怖いと思った時があるんですよ」とヤクザと藤井がリンクした瞬間を挙げると、「『こういう一面もあるじゃない、藤井ちゃん!』と思って、そこからスッと真二の役がよくなった」と思い返すと、岩崎も「柄の悪さっていうのは、藤井ちゃんの中にやっぱないのかなって思ってた数日後だったね」と同調。そんな柄の悪さを褒められた藤井は「そうですね、見つけられた感じがあります。柄が悪いと言われて嬉しくなったことないですけど、唯一嬉しい瞬間です」と照れ笑いを浮かべた。
事務所の先輩として、単独主演を務める藤井の姿を問われた内は「稽古場でもすごくがんばってましたし、もう本当に見ててもすごく頑張ってるなという印象です」と答え、続いて藤井がヤクザになれていたか尋ねられると、「うーん、でも頑張ってますよ」と言いよどむ姿に藤井も大笑い。改めて、内は「一生懸命だなという印象は昔からあったので、本当にそのままの感じでした。もう何も心配もせず、ただわからないこととかあったらいつでも聞いてねという風にいつも言って、見守っていたような感じです」と述べた。
さらに、真二の舎弟という役どころでもある内は、舞台『少年たち』での藤井との共演を重ね、「あの時は僕が藤井くんのことをボコボコにしましたけども、今回は逆にボコボコにされちゃうんですよ。なので、そういうところもすごく楽しめるんじゃないかなと思っています。あの頃は美 少年ちゃんたちのファンからすると、僕のことが大嫌いだったと思うんですけど、今回のこの舞台を観ることによって僕のことが大好きになると思います(笑)」と見どころをアピールすると、藤井は「ここで伏線が回収されるんですね」と笑った。
そして最後に、藤井が「僕自身にとっても初挑戦のこともたくさんありますし、ミステリーというジャンルではあるんですけれども、いろいろと謎が生まれて、そして解決するところだったり、それこそう大さんが演出したからこその魅力というのもたくさん詰まってるので、ミステリーではありますけど、ちょっと楽しい気持ちでも観ていただけたら嬉しいなと思います」と会見を締めた。
【ゲネプロレポート】藤井と和田の対照的なコンビによるオフビートな笑いに包まれたピカレスクな痛快ミステリー
物語の中心となるのは、ヤクザの下っ端である真二(藤井)と悠人(和田)。人使いの荒い兄貴分の荒木田(馬場)にこき使われる彼らの冴えない日常は、一体の他殺体を見つけてから変わり始める。
同じ頃、調布で自動車部品店を営む植草浩一(岩崎)と娘の菜々美(礒部)は、地上げ屋の嫌がらせで廃業に追い込まれかけていた。一方、脱法行為で金を稼ぐ宗教団体・ニルヴァーナが牛耳ろうとする街へ、鬼小路組の石村(波岡)と会うようにと派遣された真二と悠人。2人はある仕事を荒木田から指示される・・・。
ほぼ暗転による転換のないセットを用いた演出とスピード感のあるストーリーが生み出す、ノンストップのピカレスクな痛快ミステリーとなっている本作。個性の塊のようなキャラクターたちによる群像劇の中で、う大の演出によるオフビートな笑いに包まれる舞台となっており、登場人物たちのセリフと行動がどのような伏線となっているのか目が離せない展開が繰り広げられる。
ギラギラとした柄の悪さの中にも優しさや知的さを醸し出し、単なるヤクザの下っ端ではない魅力を見せる藤井と、チャラくてお調子者でおバカな悠人を好演し、関西弁演技も目を引く和田。対照的な冴えないやさぐれバディが物語を引っ張る。
そんな2人を、リアル高倉健だが実は・・・な波岡、情けないダメ親父感満載の岩崎、インテリヤクザながらハイテンションな姿で笑わせる馬場、そして見た目とは裏腹のへたれっぷりが笑いを誘う内といった面々が盛り立てる。
一癖も二癖もある登場人物たちによって巻き起こる様々な事件が、どのように衝撃のラストへと帰結していくのか? いっときたりとも目が離せないノンストップのピカレスクな痛快ミステリーが幕を開ける。
舞台『甘美なる誘拐』は9月13日(金)から9月16日(月・祝)まで東京・シアター1010にて上演。上演時間は約2時間を予定。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)