平野良×赤澤ムック『羽州の狐』に向けて――演出×脚本のクリエイター対談

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2024年10月に上演が決定した舞台『羽州の狐』。本作は、今年3月に上演された歴史オムニバスストーリー『時をかけ・る~LOSER~』(通称:時る)のスピンオフ公演で、「最上義光」の人生を“哀しくも美しい幽霊譚”として描く。

『時をかけ・る~LOSER~』の中で上演された2.5次元風舞台『ラブミュ★北の関ケ原』の中では、可愛らしいモブキャラクターとなっていた最上義光。安西慎太郎がシャケを背負い、ポップでかわいらしく演じる姿が観客の間で話題となっていたが、今回は一転し、ダークファンタジーの主人公となる。

仲良くあり続けられなかった弟との関係、領地を守るため友とは戦となり、最愛の娘は天下人・豊臣秀吉に殺された――まったく毛色の違う「スピンオフ」作品がどのように作られていくのか?

『時をかけ・る~LOSER~』『羽州の狐』と両作で演出を手掛け、今回は出演もする平野良と、脚本を担当する赤澤ムックに、『時る』ができるまでの話も交えながら、『羽州の狐』の展望や、クリエイターとしての考えなどを聞いた。

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平野良×赤澤ムック『羽州の狐』に向けて――演出×脚本のクリエイター対談

目次

『羽州の狐』を前に『時をかけ・る~LOSER~』を振り返る

――今回は、クリエイター対談としてお話を伺いたいと思います。『時をかけ・る~LOSER~』は、オムニバスで5本ともまったく毛色が違うおもしろい取り組みでしたね。

平野:本の段階から、かなりはっきり色が違いましたよね。

赤澤:企画の段階から「5本バラバラで」というのがプロデューサーさんの要望だったんですよ。どういうジャンルの5本にしようかなと考えていたんですが、平野さんと話していて一番変わったのは小早川秀秋 の『被告人 ヒデトシ』でした。

もともと、安国寺恵瓊の『嗤う怪僧』がストレートプレイ、『被告人 ヒデトシ』が裁判劇ということで、脚本の段階ではあんまり違いが明確にならなかったんですよ。どうしようか・・・と話していた時に、平野さんがある演出プランの話をしてくれたんです。「ある映画を観て、それを参考にしたいんだけど」と教えてくださって。その2~3日後に書き上げることができましたね。

平野:早かった~。

赤澤:すぐ観まして。プロットはできていたので、それを台詞にしていくきっかけをいただきましたね。

平野:偶然なんですけど、小早川秀秋役のみね(木ノ本嶺浩)が、僕が観たその映画の監督のファンだったんです。だから、演出プラン自体もみねに合っていたのかも。

赤澤:最初から参考になるかな?と思って観たんですか?天啓ですか?

平野:いや、ほんとにたまたま観たばかりで。何を観ていても、頭のどこかでなんとなく「使えるものないかな」って探すじゃないですか。その映画を観た時も「これ、どこかで取り入れたいな」とぼんやり思っていたら、そのタイミングがすぐ来たという感じで。

赤澤:その映画を観ようと思ったきっかけは何かあったんですか?

平野:いや、おすすめで出てきたから「これ見よう」ってなっただけで。

赤澤:じゃあ、みねさんが監督を好きというのもご存じなく?

平野:全然知らなかったです。

赤澤:へぇ~、すごい偶然だったんだ・・・。

――今回は、その5本のうちの一つだった直江兼続 『ラブミュ☆北の関ケ原』のスピンオフ作品となりますが、発表を拝見して、印象が違うものすぎて驚きました(笑)。

赤澤:ですよね~。シャケを背負っていたあの方(安西慎太郎が演じた最上義光)の話を、シリアスで?るひまさんのプロデューサーさんからお話をいただく時、毎回そうなんですけど「・・・何をおっしゃっているの?」と(笑)。

平野:あははは(笑)!

赤澤:以前、年末の“祭”シリーズで伊達政宗の物語を書かせていただいたことがあり、あの辺りの時代情勢の知識が結構蓄えとしてあったもので、物語を“思いつきやすい”とは言えませんでした。最上義光って名君だったんですよ。とってもいいお殿様って、物語の題材にするのがすごく難しいんです。やっぱり、復讐心があったり、下剋上でのし上がったりしていく方が物語も生まれやすくて。

私、安西さんの屈辱や恨みを持っているお芝居がとっても素敵だと思うんです。そういう感情を物語に乗せていこうと書いていったら、ダークファンタジーになりました。

平野:僕も、お話を聞いた時「ピックアップするのそこ(ラブミュの最上義光)なの?」って思いましたよ(笑)。でも、改めて最上義光の人生を聞いて、それをしんちゃん(安西慎太郎)がやるっていう時点でもうおもしろそうだし、同じくラブミュに出ていた松田岳とみねが出てくれるということで、この二人が演じる役もまた違う見え方になるのはおもしろいだろうなと思いました。

赤澤:松田さんが演じる伊達政宗、とても素敵でしたもんね。

平野:僕も大好き。ご覧になった方は分かると思うんですが、彼、名乗りをあげる前に刀をぐるぐるぶん回していたんですよ。勝手に(笑)。

赤澤:勝手に?!

平野:そう、本番始まって途中から急にやり始めたんですけど、それがむちゃくちゃおもしろくて。彼はなんなんですかね、本能の人なのか・・・。直接は言ってないですけど、あのシーン観るの楽しみだったんですよ。今回も何かやってくれるのか。

赤澤:脚本の時点で5本とも色はバラバラだったんですけど、演出で平野さんがそれにどんどん上乗せしてくださっていて。たぶん、それによって何でもできるという信頼関係ができていたんだと思います。だから、テイストがバラバラなだけでなく、過剰なぐらいもりもりに(笑)。

――平野さんは、前回はどういうことを考えて作られたんでしょうか?

平野:囲み舞台、しかもセットが開閉する動くものという点が、まず悩んだところでした。1本の中であんまり動かしすぎてもよくないし。目に楽しいバランスについては、すごく考えましたね。僕は「こういう感じで・・・」って抽象的なオーダーをするだけで、スタッフワークのプロたちが見事にその世界を作り上げてくれました。

赤澤:クリエイティブチームにはそのオーダーが大事なんですよ。台本に安国寺恵瓊 『嗤う怪僧』の台本で、「始まりは闇」と書いたんですが、本当にほぼ真っ暗から始めてくださったんです。「闇」と一言で言っても、どこまでやっていいのか迷うものなんですが、演出家が断言してくれることで、役者だけじゃなくスタッフも、みんな信じて突き進めるんですよ。

――赤澤さんから見て、平野さんの演出をどうご覧になっていましたか?

赤澤:平野さんの演出は、役者が稽古最終日にどれだけ出来ているかを想像して、1から始めているのではないかと思ったんですよ。役者を100%信じた上で「ここまで来てください」と投げかけているというか。

そして、レイヤーが1つ多いんだなと感じます。脚本って「何がやりたいか」が書いてあるじゃないですか。演出家はそれを形にする。脚本に書かれていること・伝えたいことを、役者だけじゃなく観客にどう伝えるかを考えていくんですが、平野さんはお客様がどう感じて、どう持って帰るかまでを見据えていらっしゃるんじゃないかと勝手に想像していて多分それはずっと役者の看板を背負ってこられたからなのではないかと思います。

平野:ありがとうございます。

『羽州の狐』の展望はどうなる?

――平野さんは、赤澤さんの脚本に役者としてもたくさん接してこられたと思うのですが、赤澤さんが書く脚本についてどう感じていらっしゃいますか?

平野:役者を始めたばかりの人には結構難しい本を書かれるなと思っています。例えば、ワークショップで使うテキストなどを見ると、台詞に「喜怒哀楽」から「行動原理」まで全部書いてあるんですよ。でも、言葉にしない、できない想いってあるじゃないですか。日本語の場合だと特に。

ムックさんの本は、それを余白として残してくれているから、すごくおもしろいんです。ここは言葉にするけど、ここはしない。言葉にしないけれど、「きっとこうだ」が伝わったら、お客さんはよりおもしろいと思うだろうし、考えること込みでおもしろいと思ってくれる。そういう余白のロマンが台本の時点でしっかりあるから、ムックさんの本はおもしろいんだとずっと思っています。

赤澤:ありがとうございます。そこまで俯瞰で考えてくださると、書く方としては非常に助かります。例えば、ただ「ふーん」と一言書いただけでも、そのあとに繋がる感情への解釈をお持ちになっているから、演出してくださる時も、役者として演じてくださる時も作品としてブレないんでしょうね。

平野良×赤澤ムック『羽州の狐』に向けて――演出×脚本のクリエイター対談

――文章を読むと脳内に映像が浮かぶという人と、まったく浮かばないという人がいると聞きますが、お二人はどちらですか?

平野:僕は読みながらイメージしちゃうかも。小説とかも全部そうだ。たまに想像しづらいものもあるけど、それは物語の転がり方が自分の思う方向と違うだけだから・・・基本は、読んだらそのビジョンが浮かぶなあ。

赤澤:私は、映像というか「音」です。興奮状態の時は、ちょっとしゃべりながら書いてるんですよ。たまにカフェでやってしまったり。

平野:それ、「執筆中の脚本家」ってタイトルでYouTube配信したらめっちゃおもしろいんじゃない(笑)。

――ちなみに、赤澤さんにとって『時をかけ・る~LOSER~』は想像していたとおりでしたか?

赤澤:全部想像を超えていました。全て自分の脳内より面白かったので、ほぼ毎公演見てました。稽古場にもほぼ毎日いました(笑)。平野さんが演出家としてプランを出される様から、それを受け取った役者が返す様まで全部がおもしろくて。脚本家いらないのに!観たいから!

平野:あははは(笑)。

――そして『羽州の狐』ですが、赤澤さんが書かれたこの「ダークファンタジー」を読んで、平野さんの率直な感想は?

平野:それこそ、出演する役者陣の姿で再生されました。もちろん、前回の『ラブミュ』とは全然キャラクターが違いますけど、やっぱり本を読んだ時点でおもしろくなるだろうなと。ただ一つ、これをCBGKシブゲキ!!という「劇場」でどうやろうかなと考えましたね。内容や役者陣のお芝居には何も不安はないんですが、やっぱり作品と劇場の相性ってあるので。

赤澤:この公演をCBGKシブゲキ!!でやると聞いて、そう言えば行ったことがなかったと思い、HPを見てみたんです。舞台図面をちょっと見て、それ以上調べるのやめました。劇作に無用な縛りができちゃいそうで。その違和感がいいノッキングを起こしてくれたらいいなと思います。

平野:確かに。劇場という空間と、そこから一歩出た時の違和感も醍醐味ですしね。渋谷というごちゃごちゃした街にあって、隣はライブハウスっていう環境の中で、歴史モノをやる。見終わって劇場の下にあるユニクロを見た時に、お客さんがはっとするぐらいのものを作れたらいいなと思いますね。

赤澤:私、お客様が帰りにコンビニとかに寄って、シャケのおにぎりの前で立ち尽くす、みたいなことが起きるといいなと思っています。

――安西慎太郎さんが演じた『ラブミュ』の最上義光は「シャケ様」と呼ばれていましたが(シャケを背負っていたため)、もとからシャケを背負う構想はあったんでしょうか?

平野:なかったです。台本に書いてあった?

赤澤:いや・・・ぜんっぜん記憶にないです。

平野:なんでああなったんだ?確か、演出部さんがシャケを用意してくれたんだけど、最初はマイクぐらいの小さいサイズだったんだよね。それを見て、振付の大ちゃん(当銀大輔さん)が「もっとシャケ推しでいこうよ!」って言って、いろいろ試行錯誤した結果、もっと大きいシャケを・・・って話になっていった気がする。成り行きです(笑)。

――「シャケを背負う」というのがまた・・・。

平野:囲み舞台だったので、前を向いても後ろを向いてもシャケが見えるといいよねってことで、シャケを持つだけでなく、背負っていたんですよね。慎ちゃんの顔が見えない時は、ちゃんと大きなシャケが見えるように。

赤澤:なるほど。囲み舞台じゃなかったら、シャケ様はシャケ背負ってなかったんですね。

――『羽州の狐』では、シャケは・・・。

平野:持ってるイメージは湧かないな~。それだとダークがつかないファンタジー(笑)。

赤澤:観劇後に、改めて聞くシャケ様の歌は、そんな味わいになるんでしょうね。

――今回の配役についてはいかがでしょう?

赤澤:松田さんと木ノ本さんは、るひまさんでやったことのある役縛りの方がおもしろいかなと思いまして。松田さんが伊達政宗と大谷吉継を同時に演じるって、ちょっとお祭り感ありますよね。

平野:回も楽しい稽古場になりそうです。ムックさん、また毎日来ますか?

赤澤:多分行っちゃいそう。

平野:僕はそんなにがっつり出ないはず・・・ですよね?おいおい、誰よりも目立ってるじゃないか平野っていうのは恥ずかしいんですけど(笑)。

赤澤:4人芝居なので、全員が主役って言ってもいいぐらいだと思います。それぞれの得意分野を活かしていただきたいなと。安西慎太郎さんとはかつてとは逆の兄弟役をやっていただくので、役者としても腕をふるっていただきたいなと。

平野:プレシャーだ(笑)。

赤澤:役者・平野良さんを観たい方もご満足いただける本にしたいですね。私、個人的には稽古の一ヶ月前には必ず本をあげたいというポリシーでやっているんですけど。

平野:ムックさんは早いですよね。

赤澤:これは愚痴になってしまうんですが、『時る』は地獄でした・・・(笑)。短編5本だから軽いだろう!と思っていたら、結果的に年末の祭シリーズと同じぐらいのことを5本分調べなきゃいけなくて。

――赤澤さんは、もともと歴史物がお得意だったんでしょうか?

赤澤:全然詳しくなかったんですよ。るひまさんと出会うまでは。でも、史実にIFをかけあわせて物語にするのはとてもおもしろいもので、出会わせていただいて感謝しております。

――平野さんは、演出についてのアイデアはどのように考えていらっしゃるんですか?

平野:そのモードになっていないと、なかなか難しくて。役者で本番入っている時は、一切考えられないし、準備できないし。ちょっと落ち着いた時に、サウナに入りながら考えますね。

平野良×赤澤ムック『羽州の狐』に向けて――演出×脚本のクリエイター対談

――その結果を楽しみにしております!最後に公演に期待している皆様へメッセージをお願いします。

平野:『時る』のスピンオフ、しかも、しんちゃん(安西慎太郎)主演のダークファンタジーということですが、ただダークなだけじゃなく、その中に哀愁とか、いろんな感情がぎゅっと詰まったものになりそうな気がしていて、演出するのも演じるのもすごく楽しみです。演劇の楽しさを追求しつつも、芸術+エンタメ要素もしっかり入れられたらなと思っておりますので、ぜひ。渋谷は美味しいご飯屋さんもいっぱいありますね。食欲の秋、芸術の秋ということで、 秋を満喫しに来ていただけたら幸いでございます。

赤澤:メッセージは脚本に、と思っているので。観劇後、10年ぐらいはシャケを食べる度に思い出していただける舞台を作りたいと思います。よろしくお願いします。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

『羽州の狐』公演情報

<上演スケジュール>
2024年10月24日(木)~10月27日(日) CBGKシブゲキ!!

【演出】平野良
【脚本】赤澤ムック

【出演】
安西慎太郎、松田岳、木ノ本嶺浩、平野良

【配役】
最上義光:安西慎太郎
伊達政宗・大谷吉継:松田岳
伊達成実・上杉景勝:木ノ本嶺浩
中野義時・黒田官兵衛:平野良

『羽州の狐』公式サイト

【公式サイト】https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00702


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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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