京極夏彦の傑作を新木宏典が怪演!舞台『死ねばいいのに』レポート

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京極夏彦の傑作を新木宏典が怪演!舞台『死ねばいいのに』レポート

2024年1月20日(土)、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて、舞台『死ねばいいのに』が開幕した。京極夏彦の傑作を舞台化した本作。脚本・演出をシライケイタ、主演を新木宏典が務める。

死ねばいいのに」は、「姑獲鳥の夏」で衝撃的なデビューを果たし、その後も「魍魎の匣」「百鬼夜行シリーズ」など数々のベストセラーを生み出してきた京極夏彦のミステリー小説。

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物語は、新木宏典演じる主人公・渡来健也と、6人の人物たちとの一対一の会話劇にて進行していく。渡来が彼らに尋ね回るのは、自宅マンションにて何者かに殺された女・鹿島亜佐美についてであり、対話の相手はみな、さまざまな形で亜佐美に関わりのある人物だ。

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礼を欠いたような態度・言動をみせる渡来だが、繕わぬ彼の言葉に、6人は自身の嘘と真実、深層にあるどろどろとしたものをあらわにしていく。やがて放たれる「死ねばいいのに」という言葉は、どのような意味を持ち、物語の終着をいかに導くのか。

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劇場に入り、まず目に飛び込んでくるステージに度肝を抜かれる。客席に傾斜が設けられていることはもちろん珍しくないが、この舞台ではステージにかなりきつめの傾斜が設けられている。いわゆる「八百屋舞台」である。このため、観客はステージの奥までよく観ることができるのだが、実際に演目がはじまると、これが余すことなく生かされていることがわかるだろう。

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舞台の傾斜だけではない。この舞台では、小道具を含めた舞台装置すべて、そして役者までもが、場面の転換や物語の展開に大いに活用される。舞台(セット)転換はほとんどないにもかかわらず、私たちは場面が変わるたび、舞台が転換したかのような錯覚に陥ってしまうのだ。

とくに秀逸だと感じたのは、回想への入り方だ。現在の時間軸と他の時間軸とをつなぐ契機に使われるのは、先に述べた小道具、舞台装置すべて、そして役者、おまけにワード。脚本・演出のシライケイタの舞台表現の妙に、感嘆せずにはいられない。京極夏彦の原作『死ねばいいのに』をおよそ忠実に再現しつつ、それでいて舞台表現の可能性と面白さとに満ち満ちたステージには、原作への、そして舞台芸術へのリスペクトと誠意のようなものを感じた。

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舞台の幕が上がると間もなく、「一人目。」との対話が始まる。
原作と同じく、主人公の渡来と6人の登場人物一人ひとりとの会話が「一人目。」「二人目。」…と重ねられ、物語は紡がれていく。尋ねることはひとつ、「死んだ女、鹿島亜佐美について」。言葉を交わすごとに、対話が為されるごとに、明らかになっていく人々の虚実と事の全貌に、思わず見入ってしまう。

いかにも軽く、やや無作法な調子で、そしてどの人物にもその態度を変えることなく接する渡来。彼の態度に6人は最初こそ顔を顰めるが、忌憚もなければ飾ることもない言葉たちに翻弄され、内面をむき出しにしていく。

新木宏典演じる渡来は、取るに足らない軽薄な若者にも思えれば、どこか浮世離れした人物のようにも思える。「渡来健也」という人間のわからなさ、底の見えなさのようなものを、新木が持ち前の演技力で見事に魅せる。「わからない」人物であるにも関わらず、演じているというよりは、生きているといった印象を抱かせるところに、新木の真髄を見た。相手の言葉に対し、詰まることなくぽんぽんと繰り出される渡来の言葉たちに翻弄されるのは、舞台上の6人だけではないかもしれない。

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「一人目。」こと亜佐美の上司・山崎を演じるのは津村知与支、「二人目。」こと亜佐美のマンションの隣人・篠宮佳織を演じるのは宮﨑香蓮、「三人目。」こと亜佐美を情婦にしていたヤクザ・佐久間淳一を演じるのは伊藤公一、「四人目。」こと亜佐美の母・鹿島尚子を演じるのは魏涼子、「五人目。」こと事件の担当刑事・山科を演じるのは阿岐之将一、「六人目。」こと弁護士・五條を演じるのは福本伸一。

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渡来と対峙する6人を演じる彼ら実力派俳優陣の芝居がまた素晴らしい。禅問答のような渡来とのやりとりに、徐々に焦り、余裕をなくし、綻びを見せていくそのさまを、表情、声色、振る舞い、その他すべてを以て表現する。感情のクレッシェンドが絶妙かつリアルで、痛いほどに「人間」をする彼らに、思わずこちらが苦虫をかみつぶしたような顔をしてしまうこともしばしば。6人と同じように、己がいかに「人間」をしているかに気付かされるような思いだ。

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開幕に際して主演の新木宏典は、「いよいよ幕が上がるのかと思うと、とても楽しみであり、また、怖くもあり、なんだか不思議で複雑な心地良い気持ちです。原作を読んだ時は静かで暗い夜の海のようなイメージでした。稽古を進めていく中で、感情の変化が大きく、とてもリズミカルな…、風の強い日の夜の海に、今は感じるようになりました。これは舞台というエンターテイメントで見せる上で生まれた世界に思います。原作をご覧になった方にも楽しんで頂けるよう、舞台を通して原作にも興味を持って頂ける舞台版の『死ねばいいのに』を精一杯お届けする所存です。」と決意をあらわにした。

また、脚本・演出のシライケイタは、「いよいよ開幕です。救いようのないタイトルの作品ですが、稽古場はとても明るく、楽しい現場でした。それは、「死ねばいいのに」というキーワードと背中合わせにある「精一杯生きなさいよ」というメッセージを、全てのキャストとスタッフが必死に体現しようとしていたからだと思います。そう、辛いことも多いけど、きっと楽しいものだと思うんです、生きるって。観ていただいた方にそう思って頂きたくて、精一杯作りました。舞台上で必死に生きる俳優達を、どうぞ目撃して下さい お待ちしています!!」とコメントを寄せた。

『死ねばいいのに』そう言葉を投げかけられた時、かくも泥にまみれ屈折した「普通」の「人間」たちは、そしてあなたは、どのような感情を抱き、どのような答えを己に見出すだろう。人間の、登場人物たちの、あなた自身の、奥深くに触れさせられるような感覚を、ぜひ劇場で味わってほしい。

京極夏彦の傑作を新木宏典が怪演!舞台『死ねばいいのに』レポート

舞台『死ねばいいのに』は、1月20日(土)から1月28日(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演。上演時間は約1時間50分を予定(休憩なし)。

(取材・文・撮影/矢島春花)

目次

舞台『死ねばいいのに』公演情報

上演スケジュール

2024年1月20日(土)~1月28日(日) 東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

スタッフ・キャスト

【原作】京極夏彦『死ねばいいのに』(講談社文庫)
【脚本・演出】シライケイタ

【出演】
新木宏典
津村知与支 宮﨑香蓮 伊藤公一 阿岐之将一 魏涼子 福本伸一

公式サイト

【公演公式サイト】http://stage-shinebaiinoni.jp/
【公式 X(Twitter)】@stshinebaiinoni

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