2023年12月9日(土)に、TOKYO ART&LIVE CITY 2023年度主催事業、イマーシブシアター『Anima』が開幕した。本作は東宝株式会社演劇部による制作協力のもと、イマーシブシアター制作チームdaisydoze(デイジードーズ)が、2022年に上演したイマーシブシアター『Dancing in the Nightmare -ユメとウツツのハザマ-』をブラッシュアップし制作する新作公演。
「イマーシブシアター」とは、観客が演者と同じ空間に同居し、物語の一部として作品に参加する没入型演劇。本記事では、12月8日(金)に行われたゲネプロ(総通し舞台稽古)の模様から、その一部をレポートする。
会場となるアートホテル・BnA_WALLは、新日本橋駅や人形町駅から徒歩圏内にあるが、大通り沿いではなく、やや奥まった通りのビルにある。受付を済ませると、手荷物を預け、部屋の番号が書かれたルームキーをもらう。そして、靴を履き替え、青白い光に怪しげに照らされたラウンジへ。
ここでは、作品に登場する人物のプロフィールが閲覧できるほか、カンパリベースのお酒を飲むことができる(別料金)。“ホテルの学芸員”によればより夢の世界に入り込めるそうなので、お酒が苦手でなければ、観劇前に一杯飲むことをおすすめしたい。
他の観客の来場を待ちながら、ラウンジでくつろいでいると、本作のキャストが数人ラウンジに顔を出し、ルームキーの番号に基づいて作品世界へと案内される。イマーシブシアターには観客が自由に回遊できる形式と、キャストが誘導する形式とがあるが、本作は後者。言葉を介して誘導されるパターンもあれば、時に手招きされたり、時に肩を叩かれたり。誘導の方法自体はさまざまだが、キャストが作品世界に誘ってくれるので、初心者でも心配しないで欲しい。
この物語の主人公は、心理学者であり夢分析を専門とするユング。ユングは「宿泊者の夢が現れて浮かぶホテル」に助手と共に滞在していた。夢に出てくる人物たちには、夢見る本人のまだ気づいていない感情が投影されているという。つまり、夢を読み解くことで「魂の声」(=アニマの声)に気づくことができるわけだ。
ホテルのマネージャー、リネンの女らは、ホテルの宿泊者たちの様子を記録し、宿泊者が深い眠りにつけるよう、子守唄であるララバイや安眠酒を提供する。ユングは、自分自身も夢を見るようになり、「夜の海神(闇)」「誘惑」らに出会う。不思議なことに、ユングにはその自己が日本橋に伝わる「浦島」に姿を変えて見えて――というストーリー。
実際に体験してみて、まず何よりも感じたのは「場所」へのこだわりだ。BnA_WALLは、空間そのものを一からアーティストと創作しているという変わったホテルで、設計開始から完成まで2年を要したという。アートルーム(宿泊する各部屋)の雰囲気は一つ一つ全く異なるのだが、本作ではそのアートルームにあった内容の場面が展開され、会場の持ち味を存分に生かそうとする意図が見えたし、逆に言えばここでしかできない作品だと感じた。
また「本作は実在した研究者であるカール・グスタフ・ユングの研究を元に、この日本橋の土地に残る浦島伝説を掛け合わせました」と作・演出の竹島唯が語っているように、内容に関しても場所へのこだわりが感じられた。
そして、キャストとの物理的な距離が非常に近く、その息遣いや表情、頭の先から足の先まで、間近で観賞することができるのもイマーシブシアターの面白いところ。13人のキャストのほとんどはダンサーで、ノンバーバルながら身体や表情で物語を紡ぐ。あまりの美しさに息を呑んだり、その思いを想像してきゅっと胸が締め付けられたり・・・。
進行は15秒ごと(!)に刻まれている上に、(誘導はあるものの)想像しているよりも複雑な経路を移動するので、そのちょっとした“混乱”もまるで旅をしているようで楽しい。1回の観劇で全員のキャラクターの物語をすべて把握することはできないけれど、それらを想像する余白があるのもいい。
また、個人的には、アートディレクターの近藤香による衣装が細やかで見応えがあった。「実在した人物、日本の昔話、感情など役柄のバリエーションが豊富なので、ひと目で記憶に残るシンボリックなデザインでありながらも、飛びすぎないバランス感覚も大切にしました」(近藤)という衣装は必見だろう。
上演時間は約90分。イマーシブシアターに初めて参加する人も、過去に参加したことのある人も十二分に楽しめるはずなので、ぜひお見逃しなく。そして再演や新作にも期待していよう。
(取材・文/五月女菜穂、Photo by Momoko Maruyama)
コメント紹介
作・演出:竹島唯(daisydoze)
イマーシブシアター『Anima』開幕しました!
ずっと作りたかった、現実と夢が交差する世界。
ホテルの中を歩いていると、この土地に眠る人の記憶と気配が、ふわっと現れ、ふわっと消えていきます。
言葉にできない感情が、ダンスや歌、セリフを通して、多角的に訴えかけてきます。
本番を迎え、作品自体が作り手の手を離れ、独自に成長し、変化しているように感じ、毎公演驚くことばかりです。
ぜひ、これからご観劇いただく皆様には、この夢の世界に没入いただければ嬉しいです。
なお、開場時間からお越しいただくと、きっと楽しいと思うので、おすすめです!
アートディレクション・演出:近藤香(daisydoze)
約一年間の準備期間を経て、ついに『Anima』の幕が開けました。
気づけば、ダンス、歌、芝居の要素に留まらず、ウォールアートや特製ドリンクなど、『Anima』を中心に様々な要素が複雑に絡み合い、それらが影響しあいながら形づくる、立体的な作品になったと感じています。
シュミレーションを重ね、稽古を積んでいた場所に実際に人が入ったとき、ついに作品に命が宿った様に感じたことは言うまでもありません!
これからは、どんな夢を彷徨う旅になっていくのかは、お客様次第。是非貴方だけの『Anima』を見つけ、お愉しみください。
イマーシブシアター『Anima』公演情報
上演スケジュール
2023年12月9日(土) 11:30/14:00/18:00/20:30
2023年12月10日(日) 11:30/14:00/18:00/20:30
2023年12月16日(土) 11:30/14:00/18:00/20:30
2023年12月17日(日) 11:30/14:00/18:00/20:30
BnA_WALL(東京都中央区日本橋大伝馬町1-1)
【チケット料金】8,500円(税込)
【上演時間】約90分(予定)
スタッフ・キャスト
【作・演出】竹島唯(daisydoze)
【アートディレクション・演出】近藤香(daisydoze)
【出演】
iona いのまいこ Kurumi Shiina 新藤静香 Jenes
Hagri Mitsuki YOH UENO Rion Watley RYOSUKE.
藤岡義樹 中村翼 大塚瑞季
あらすじ
宿泊者の夢が現れて浮かぶホテル。
夢に出てくる人物には、夢を見る本人がまだ気づいていない感情が映し出されているという。
夢から覚めなくなった妻に責任を感じ、心を閉ざした心理学者のユングは、宿泊者の夢を分析するうちに、やがて自分自身も不思議な夢へと潜り込んでいく。
夢の中で出逢う心の闇の感情たちがユングに襲い掛かる。「魂の声(=アニマ)」を奪われたユングは、旅人・浦島に出逢う。
「葬りの儀式にかけられる前に、夢の底に眠るアニマを探し出せば、この夢から出られるはず」
一方、現実世界ではユングの助手が、ユングと妻、そして同じく夢から覚めない妹を助けるべく研究に没頭し、夢の秘密を解く鍵に辿り着こうとしていた。ユングは果たして、この夢から覚めることができるのだろうか――。
公式サイト
【作品公式サイト】https://www.daisydoze-immersive.com/anima
【公式X(Twitter)】@daisydoze_