2023年9月9日に東京・新国立劇場 小劇場にて舞台『マーク・トウェインと不思議な少年』が開幕した。初日前日に囲み取材と公開ゲネプロが行われ、別所哲也、平埜生成、筧美和子、白石隼也が登壇した。
「トム・ソーヤの冒険」「ハックルベリー・フィンの冒険」などの小説や世界旅行記、エッセーの数々と、アメリカでは今もなお全集が毎年のように出版されている文豪マーク・トウェイン。そんなトウェインが晩年、亡くなるまで何度も改稿を重ね、死後、遺稿を元に出版されたファンタジックなストーリー「不思議な少年」は、16世紀のオーストリアの小村を舞台に、突然現れたサタンと名乗る美少年の巧みな口車に乗せられて不思議な世界へと誘われる少年たちの物語だ。
本作では、劇作家であり演出家であるG2が、トウェイン自らが作家人生を賭けて描こうとしたこの「不思議な少年」をトウェイン自身の人生と交錯させ、オリジナルストーリーとして描いている。
物語の語り部であり、サム・クレメンズ(マーク・トウェインの本名)を演じるのは別所。小説「不思議な少年」の登場人物としての少年役を演じるのは平埜。サムの妻オリヴィアを演じるのは筧。サムが執筆する自叙伝に登場する若き日のマーク・トウェインを演じるのは白石と、実力派キャストが顔を揃える。
囲み取材では、まず別所が「稽古を重ね、つい先ほどまで舞台稽古をやってまいりました。早くお客様に観ていただきたいという気持ちです」と挨拶。
初日を迎えることについて、平埜は「舞台稽古でG2さんとスタッフの皆さんが最後の最後まで粘って、より完成度の高いものを作ろうという熱量がビシビシ伝わってきています。あとは俳優次第というか、そのプレッシャーもあるんですけど、楽しんで真剣に臨んでいけたらきっといい作品になるんじゃないかと思います」と期待を寄せた。
本作が初舞台となる筧は「少しでも気を抜くと緊張感に襲われそうになったりするんですが、皆さんとたくさん稽古を重ねてきましたし、思いも重ねてきたので、自信を持って楽しめたらと思います」と思いを吐露した。
本作の稽古がドラマの撮影と被っていたという筧は「舞台の現場でも、先輩たちがいろいろ教えてくださって、ドラマの現場でも舞台の経験がある方が多かったので、アドバイスを頂いて、支えられながら安心して乗り切ることができました」と振り返りつつ、「ただ、舞台の稽古後に撮影に行ったら、声が大きくなりすぎていて、マネージャーさんとか周りの人から『美和子ちゃんだけうるさかったよ』と言われて(笑)。ここで発声して、それを持っていけたのかも。いい影響でした」とはにかんだ。
白石は「この芝居はすごく場面転換が多いお芝居なのでシーン数が多いんです。なので、我々が頭の切り替えが重要な芝居で、それに追いつくのにすごく時間がかかったんですけど、それでも1か月の稽古を重ねて、今は自信を持って初日を迎えられると思っています」と胸を張った。
稽古場エピソードについて、稽古中に誕生日を祝ってもらったという別所は「通し稽古があって、生の演奏のピアノが入るんですけど、それがいつの間にかバースデーソングになったんです。それで、みんなにお祝いしていただいて、非常に嬉しかったです」と思い返し、笑顔を見せた。
続いて、平埜も稽古場をのエピソードとして「稽古の小休止の時間に、筧さんがカバンの中からおもむろに干し芋を出してパクパク食べていたのがすごい印象的でした(笑)。毎日のように干し芋をパクパク食べていらっしゃって、しかも毎回種類が違っていて、僕の中で筧美和子イコール干し芋という方程式ができていました」と披露すると、干し芋を食べていたことについて、筧は「役作りです(笑)」とボケて笑いを誘った。
そんな筧は、稽古について「カーテンコールの挨拶が1人2小節と決まっているんですが、リズム感がないのか何回やってもできなくて。それができた時に、カーテンコールの練習なのに皆さんから拍手が起こったんです(笑)。温かい方たちに囲まれてそんなところまで練習させていただいてありがたいです」とカンパニーのみんなへ感謝を述べた。
稽古初日にG2からあだ名で呼び合うこと提案されたというカンパニー。G2は「Gちゃん」、別所は「哲にい」、平埜は「きなり」、筧は「みいこ」、白石は「しゅん」というあだ名になったという。そのことについて、白石は「初日からGちゃんとか、哲にいとか言えなくて、1週間ぐらい経ってようやく僕は哲にいと言えたんですけど、いまだにGちゃんは1回も言えてないです。そのルールはありがたい反面、すごく迷惑でした(笑)」と本音を明かすと、登壇者たちも爆笑。和気あいあいとしたカンパニーの仲の良さを見せつけていた。
本作の見どころについて、別所は「本作は多重構造で、僕が演じるサムというのはペンネームがマーク・トウェインで、きなりくんがマーク・トウェインの作り出す作品の中の不思議な少年で、みいこがサムの最愛の妻オリヴィアと、これはラブストーリーとして捉えてもらいたいところもあって、そこが見どころです。それに生演奏のピアノもすごく良くて、しゅんのマーク・トウェインとサムとオリヴィアとの三角関係みたいなものを美しいトライアングルとして奏でられたらと思いますし、そこが見どころだと思っています」と挙げた。
平埜も別所の言葉に同調し、「大ベテランで百戦錬磨の別所さんと、そして初舞台の筧さんの掛け合いにすごくキュンとくるし、そこに切れ味抜群の白石さんという、この3人のバランス感というのが観ていて好きで面白いので、この三角のバランスにぜひ注目してほしいです」と訴えると、別所は「きなりの素敵な不思議な少年も、本当に不思議感を出しまくっていますよ」と褒め称えた。さらに、本作の注目ポイントとして、平埜は「時間や空間を越えたり、物語の中に入ったり、物語の登場人物が飛び出てきたりとすごくファンタジックな要素も詰まったポップな作品に仕上がっていると思います」と語った。
筧は、見どころとして「稽古を重ねるたびに、この物語の印象が変わっていくのが新鮮でした。1人の男性の人生の戦いのように思えたり、ラブストーリーに思えたりとか、稽古のたびに感覚が違って、きっと観る人によっても注目するポイントとか、どんな風に感じるかが違うと思います」と挙げ、「キャストの方が本作を“飛び出す絵本”のような作品と言っていて、絵本のページをめくるように展開が変わっていくので、そこもぜひ子供心に戻ったような感覚で楽しんでいただきたいです」とアピールした。
別所と同一人物を演じる白石は、「同一人物を2人で演じるといことは初めての経験です。若い時と年を取った時の2つの年齢軸で二人一役というのはあるんですけど、今回、そういう要素もあるんですが、それとは別にこの同じ人物の中で、自分自身が人間として生きているサム・クレメンズと、作家としてのマーク・トウェインが対決するという構図がこの舞台の一つの魅力だと思うし、ほかにはない構図で見どころだと思います」と魅力として語った。
囲み取材の最後に、別所は「いろいろな舞台に立たせていただいていますが、今回は新たな発見がありました。そして、新国立劇 小劇場という本当にお客様と近い場所で皆さんと接することができる、そんな場になっています。この作品を通じて、大切な人のことを思ったり、自分自身がどう成長していくか、みんな悩むことがあると思うんですけど、あの文豪マーク・トウェインもいろんな悩みを抱えていたというのを感じていただきながら元気になってほしいです。そして、最後に素敵なシャボン玉が舞うシーンを皆さんと分かちあいたいですし、初舞台のみいこの可憐な姿をぜひご覧ください」と呼びかけて締めた。
物語は、69歳のサムが秘書に自叙伝の口述筆記をさせているところから始まる。しかし、サムは自分の自叙伝ではなく、マーク・トウェインの自叙伝を書こうとしていた。疑問に思う秘書に、サムは、なぜ自分の自伝ではなく、マーク・トウェインの自伝を書こうとしているのか、そして、「不思議な少年」を執筆し始めたことで出会ったサタンと名乗る少年について語り始めるのだった・・・。
老いたサムがマーク・トウェインとしての半生を回顧させながら、「マーク・トウェインの人生」というノンフィクションと、彼の書いた小説「不思議な少年」というフィクションが、舞台上で交錯するオリジナルストーリーとなっている本作。特筆すべきは、サムとマーク・トウェインが時間と空間を超越して同時に存在し、オリヴィアも含めた数々の登場人物たちが2人と違和感なくやり取りを交わしていくところだろう。
囲み取材で、別所が「本作は多重構造」、平埜が「時間や空間を越えたり、物語の中に入ったり、物語の登場人物が飛び出てきたりとすごくファンタジックな要素も詰まったポップな作品」とコメントしたように、時間だけでなく空間、そして、小説の世界だけでなく、ピアノの生演奏を披露している奏者までも芝居に参加してくるというノンフィクションとフィクションの融合、すべてが調和してステージ上に織りなされていく。
しかし、その脚本と演出も小難しいものではなく、その様はまるでサムの頭の中をのぞき込んでいるような不思議な世界観で、筧の言葉どおりに「飛び出す絵本」のようにファンタジックに描かれている。
その魅力にあふれる世界を彩るのが別所らキャストの面々だ。語り部であるサムを演じる別所はユーモラスでウィトに富み、そこに愚かさや滑稽さを交えつつ、大仰なオーバーアクションで貫禄たっぷりにサムを巧演。アメリカで尊敬されている作家で偉大な人物である文豪マーク・トウェインを演じる白石は、若く野心家で自信満々な姿でステージ上に存在感を見せながら、サムと数々の対立をする様を熱演。別所と白石によって、現実の存在と歴史上の文豪の同一人物となる2人が活き活きと存在し、繰り広げられる2人の演技合戦も見ものとなっている。
筧は、サムと出会った若き頃のオリヴィアを演じている時は令嬢としての優雅さとチャーミングさによって舞台に華やかさを振りまき、サムの全てを理解し、優しさに満ちた晩年のオリヴィアではしっとりしと落ち着きのある演技を見せるなど、初舞台とは思えぬほどの演じっぷりを披露している。そして異彩を放つのが、暗闇から現れ、不敵で美しい笑みを浮かべる平埜だ。彼のこの世ならぬ存在感を醸し出す姿はまさしく“不思議な少年”だと言えよう。
サムとマーク・トウェインの存在を多重構造で表現し、人間の愚かさと儚さ、情愛と悲哀を見事に描きながら、そこにエッセンスとしてユーモアをちりばめた脚本。ポップでファンタジックなビジュアルの美しさと人物の情念を丁寧に描き出し、暗転を極力抑えて上手下手と流れるように場面転換がもたらすピーディーな展開、その数々の要素をステージ上に無理なく実現するバランス感覚はG2演出ならでは。
ピアノの生演奏が奏でるラグタイムなどの旋律の数々が、サムとマーク・トウェインが存在した時代を観客の心に色づかせながら、別所が語る「最後に素敵なシャボン玉が舞うシーンを皆さんと分かちあいたい」という一つのラブストーリーの結末がその心を揺さぶり、そして刻み込む。歌舞伎からミュージカル、現代劇まで多岐にわたって手がけてきた、劇作家であり演出家であるG2によって新たな傑作オリジナル舞台が生み出された。
舞台『マーク・トウェインと不思議な少年』は9月24日(日)まで新国立劇場 小劇場、9月30日(土)から10月1日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにて上演される。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)
舞台『マーク・トウェインと不思議な少年』 公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2023年9月9日(土)~9月24日(日) 新国立劇場 小劇場
【大阪公演】2023年9月30日(土)~10月1日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
スタッフ・キャスト
【原作】マーク・トウェイン「不思議な少年」「不思議な少年44号」およびマーク・トゥエインの諸作品
【脚本・演出】G2
別所哲也、平埜生成、筧美和子、白石隼也
ほか
公式リンク
【公式サイト】 https://www.fushigina-shonen.jp/
【公式Twitter】@butai_fs