萩尾望都の不朽の名作×スタジオライフ『トーマの心臓』Legendeレポート

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萩尾望都の不朽の名作×スタジオライフ『トーマの心臓』Legendeリポ―ト

劇団スタジオライフの『トーマの心臓』が、2022年9月15日(木)に東京・シアターサンモールにて開幕した。本作は、萩尾望都原作による不朽の名作を舞台化した同劇団の代表作。1996年の初演以来、6年半ぶり10回目の上演となる。

今年は、初期からの黄金キャストである笠原浩夫、山本芳樹を中心としたLegende teamチームと、新鮮な布陣で再解釈するCool teamによるWキャスト。ここではLegende teamのゲネプロの模様をリポートする。

客電が落ち、『アヴェ・マリア』が流れると、いざなわれる先は1970年代ドイツのギムナジウム。舎監室の2台のベッドに見立てたベンチ、書棚、階段。極限までシンプルに造られた舞台の上は、主人公ユーリ(山本)の閉ざされた心を表すようにおしなべて薄暗く、それゆえ観る者のイマジネーションを無限に刺激する。

学校のアイドル的存在だったトーマという少年の自殺、そして彼に顔がそっくりな転入生・エーリク(松本慎也)が現れたことによって巻き起こる軋轢――。トーマの真意はどこにあったのか、ユーリの凍った心はいかにして救済されるのか。またユーリの苦しみに寄り添う親友・オスカー(笠原)やエーリクら、少年たちは様々な試練に行き当たりながら、愛を学び成長していく。

時の流れを止めてしまったのかと疑うほど少年の姿をとどめ続ける山本ユーリ。床に腰を下ろし果物のデッサンをする居ずまいの美しさだけでも、気を張り詰めたユーリの心と品格が伝わってくる。スタジオライフが作る『トーマの心臓』は、山本のユーリ像なしには語れないだろう。笠原はよく通る美しい声で、快活だが物寂しげなオスカーを圧倒的に体現。

同じく初演から携わっている藤原啓児ふんするミュラー校長とのシーンでは、この作品が持つ「親と子の愛」というもう一つのテーマを濃く浮かび上がらせるのだった。松本は愛さずにいられないやんちゃでピュアなエーリクそのもので、彼が言う「僕の翼じゃだめ?僕、片羽根きみにあげる」の言葉には、何度目の鑑賞であっても胸を締め付けられる。いずれも長年繰り返し演じている役柄だけに、深化するキャラクターたちの魅力は、実年齢を超越して魂のまま役をまとえるという舞台演劇の醍醐味を味わわせてくれた。

さらに、これまでユーリ、オスカー、ミュラーなどを幅広く演じてきた曽世海司が、今作では初の悪役・サイフリートに。これもスタジオライフファンにとっては見逃せないポイントだろう。

前回までの『トーマの心臓』と決定的に異なるのは、コロナ禍を経ての上演であることだ。スタジオライフは本作で、楽屋が密にならないよう出演者の数を最少限まで減らす、幕間を設けず一幕構成でまとめる、という2点をその予防対策として講じた。

演者数を絞ったため、アンサンブルは役の掛け持ちも多く大忙し。とりわけ初演から出演している楢原秀佳は、ブッシュ先生やシャールといった明るい役どころではコメディーセンスを光らせる一方、後半登場するトーマの父・ヴェルナー役としては、最も重要なシーンの一つである散歩シーンを滋味あふれる声とオーラで演じ切り、温かなインパクトを残した。

そんな楢原からシュヴァルツ役を引き継いだ緒方和也は、彼ならではの目の詰まった演技力で、エーリクに希望をもたらす大人の男を好演。作品随所に実力派の支えが光った。

幕間をなくすため、脚本・演出の倉田淳は尺をいかにして短くするかに心を砕いたという。結果、上演時間は過去最短の2時間20分。休日の外出シーンや部屋替えシーン、その他細かい台詞がカットされたりと、ファンにとって寂しい面は否めないが、しかし一幕構成にしたことで全体の勢いは増している。

限られた人数で役を回していることも手伝ってか、ある種のグルーヴが舞台上でうねり、テンションを途切れさせないままクライマックスまで駆け抜けた印象だった。短い一生を駆け抜けたトーマ、短い学校生活を駆け抜けた少年たちを描く上で、このグルーヴ感は決して不似合いではない。

多くの読者から「生涯忘れられない一作」と呼ばれる原作同様、この舞台は、観た人にとって生涯の特別な一本になる運命を背負っている。26年以上かけて育ててきたスタジオライフ版『トーマの心臓』の純度を、ぜひ劇場で確かめてみてほしい。

なお笠原がサイフリート、山本がレドヴィと、それぞれ初めての役柄に挑戦するCool teamにも注目。

『トーマの心臓』は、9月25日(日)まで東京・シアターサンモールにて上演。

(取材・文/上甲薫)

目次

『トーマの心臓』公演情報

上演スケジュール・チケット

2022年9月15日(水)~9月25日(日) 東京・シアターサンモール

スタッフ・キャスト

【原作】萩尾望都「トーマの心臓」(小学館文庫刊)
【脚本・演出】倉田淳

【出演】
笠原浩夫 山本芳樹 松本慎也 曽世海司 青木隆敏 関戸博一 緒方和也 宇佐見輝 牛島祥太 前木健太郎 伊藤清之 船戸慎士 大村浩司 楢原秀佳 藤原啓児

<配役>
※Wキャスト:Legendeチーム/Coolチーム

ユーリ:山本芳樹/青木隆敏
オスカー:笠原浩夫/曽世海司
エーリク:松本慎也/関戸博一
アンテ:宇佐見輝/伊藤清之
レドヴィ:青木隆敏/山本芳樹
バッカス:船戸慎士 緒方和也
サイフリート:曽世海司/笠原浩夫
ヘルベルト:関戸博一/松本慎也
リーベ:前木健太郎
イグー:牛島祥太
シャール:楢原秀佳/船戸慎士
クローネ:大村浩司/宇佐見輝
カイザー:伊藤清之/楢原秀佳
ヘニング:緒方和也/大村浩司
ブッシュ:楢原秀佳
シェリ―:伊藤清之/宇佐見輝
エリザ:緒方和也/大村浩司
シュヴァルツ:緒方和也/船戸慎士
ヴェルナー:楢原秀佳
アデール:大村浩司
ミュラー校長:藤原啓児

公式サイト

【公式サイト】http://www.studio-life.com/stage/thoma2022/
【公式Twitter】@_studiolife_



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