2022年7月9日(土)に東京グローブ座にて『ダディ』が開幕する。初日前日には公開ゲネプロ及び取材会が行われ、主演の中山優馬のほか、大場泰正、原嘉孝、前島亜美、そして本作の生みの親である劇作家ジェレミー・O・ハリスが登壇した。
ジェレミー・O・ハリスは、昨年のトニー賞で12部門という最多ノミネートを得た「Slave Play」でも知られるアメリカの劇作家。ダディは、彼の日本初上演作となる。2019年にオフ・ブロードウェイのヴィンヤード劇場で初演が行われ、人種やセクシュアリティなど様々なテーマが描かれた本作は大きな話題になった。日本語版の演出は新国立劇場の演劇芸術監督も務める小川絵梨子が手掛ける。
主演のアフリカ系アメリカ人のアーティストであるフランクリン役を中山、フランクリンのパトロンで年上の美術コレクターのアンドレ役を大場、フランクリンの友人で青年俳優マックス役を原、SNSインフルエンサーのベラミーを前島、そして敬虔なクリスチャンでありフランクリンの母親・ゾラ役を神野三鈴が演じる。
(以下、物語の内容に触れています)
あらすじ・公演レポート
物語は、若きアーティスト・フランクリン(中山)と、LAに住むセレブの初老アートコレクター・アンドレ(大場)の出会いから始まる。舞台上に設けられたプールの中からフランクリンが登場すると、別荘から出てきたアンドレがタオルを持って出迎える。生き生きと若さ溢れるフランクリンにキスをするアンドレ。戸惑うフランクリンだったが、アンドレの胸に飛び込んでいく。
プールサイドベッドには若い3人が寝そべっている。フランクリンの友人マックス(原)とベラミー(前島)だ。アンドレというパトロンを得たことで豪華な別荘に住み、ハイブランドのプレゼントをもらうフランクリンを2人は黙認していく。
夜のプールで語らうフランクリンとアンドレ。フランクリンは、性的な関係を持つのはアンドレが初めてであると告白する。2人はプールサイドでじゃれあいながら、アンドレはフランクリンがふと呼んだ「ダディ」という言葉に喜ぶのだった。
フランクリンの母親・ゾラ(神野)はシングルマザーである。敬虔なクリスチャンで息子をとても心配しているが電話に出ないので留守番電話にメッセージを残していく。
そして、アートディーラーのアレッシア(長野)がフランクリンの作品を見にやってくる。フランクリンは黒人の赤ちゃん人形を作成している。フランクリンは個展のタイトルを「ダディ」と名付ける。
個展のためにゾラもLAにやってくる。ゾラは自分の息子が危険にさらされていると疑問を持ち2人の関係を崩そうとアンドレを追い詰めていくのだが・・・。
個展タイトルに「ダディ」と付けた意味とは、二人の関係は、それぞれが求める愛の形の行方は――。
主演の中山は若さと才能を持ちながら不安な様子のフランクリンを好演。自分の抱えている悩みを秘めながら進んでいる姿は役の年齢からもどんどん幼く見えてくる。不安定で張りつめた姿に、アンドレのように手を差し伸べたくなってしまうだろう。
舞台上にあるプールがとても印象的な本作ではあるが、ストーリーが進むにつれて自分も水の中に深く深く沈んでいるような気持ちにさせられる。リアルな会話で進むので一見すると平和で華やかにも見えるが、どんどん増していく閉塞感。しかし、その気持ちをリセットしてくれるのもまた水であった。
取材会
取材会で、フランクリン役の中山は「いよいよ開幕ということで、ワクワクとドキドキとした気持ちを劇場に来てくださる皆さんと共有できたらなと思います。ここからスタートなのでもっともっと高めていきたいです」と挨拶。
アンドレ役の大場は「描かれていることが遠いものだと思っていたが自分のこととしてだんだんと捉えられるようになってきました。舞台上で出会うことを明日からも続けていきたいです」と語った。
また、マックス役の原は「通し稽古より深いことを掘り下げる作業を多く行ったことで、ゲネプロでも新鮮な気持ちで相手の台詞から発見できることも多かった。1公演1公演楽しみながら挑みたいと思います」とコメント。
ベラミー役の前島も「演出の小川さん、カンパニー一同で『とにかく飛び込んでみる』をテーマにし挑戦し続けた稽古期間でした。お客様に観ていただいてより深まる作品だと思いますので、明日からも冒険する気持ちを忘れずがんばってきたいと思います」と意気込みを述べた。
そして、劇作家のジェレミー・O・ハリスは、自作の日本版を観て「日本人キャストの皆さんが作品に飛び込んでくれて素晴らしい作品となりました。『ダディ』は自分にとっても個人的なストーリーでもあるが日本人キャストが演じることで描かれるテーマの普遍性を感じました」とコメント。ゲネプロを観て「泣いてしまった」と明かした。
ちなみにプールがあり濡れた姿のままで話が進んでいくためキャストの健康面が心配になるが、温度は暖かく設定され裏でもスタッフがとても気を付けているため安心していただきたいとのこと。原はコロナ禍でプールに入ることがなくなったが、舞台上では一日に2回も入れると楽しそうに語った。
キャストのコメントからも今作は挑戦に満ちた作品であることがわかる。様々なテーマや問題が描かれる作品で日本人には馴染みがないものもあるかもしれないが、家族や愛など普遍的で共感できる部分も多い。登場人物たちの痛みを多く受け取りつつも、愛について考えさせられる作品だった。
『ダディ』は、7月9日(土)から7月27日(水)まで東京グローブ座、8月5日(金)から8月7日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて上演。上演時間は約2時間40分(休憩15分含)を予定。
(取材・文・撮影/一本柳歌織)
『ダディ』公演情報
上演スケジュール
【東京公演】2022年7月9日(土)~7月27日(水) 東京グローブ座
【大阪公演】2022年8月5日(金)~8月7日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
スタッフ・キャスト
【作】ジェレミー・O・ハリス
【演出】小川絵梨子
【出演】
中山優馬
大場泰正 原嘉孝 前島亜美
谷口あかり 菜々香/長野里美
神野三鈴
【公式サイト】https://www.daddy-stage.jp/
【公式Twitter】@daddy_stage