Kバレエカンパニー『カルメン』公演レポート!熊川哲也が描くドラマティックな恋物語

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Kバレエカンパニー『カルメン』

2022年6月1日(水)から6 月5日(日)にかけて、東京・渋谷BunkamuraオーチャードホールにてKバレエカンパニー『カルメン』が上演された。熊川哲也の手によってジョルジュ・ビゼーの名作オペラをグランドバレエの形で生まれ変わらせた本作。今回の公演では、カルメン役に浅川紫織、日高世菜、小林美奈、成田紗弥、ドン・ホセ役に高橋裕哉、堀内將平、山本雅也、石橋奨也らが名を連ねた。この記事では、6月3日(金)の公演(カルメン:小林美奈/ドン・ホセ:堀内將平)の模様をレポートする。

目次

Kバレエカンパニー『カルメン』レポート

オーケストラによるあまりに有名な前奏曲が流れると、会場の空気は一気に期待と興奮に包まれる。幕が上がり、先に物語のエピローグを見せるようなドラマティックな演出があり、いよいよKバレエカンパニー『カルメン』の物語が始まる。

第1幕1場、煙草工場前の広場では衛兵や街の人々が戯れている。その中に、吉田早織扮する娼婦が気ままに男性にちょっかいを出す姿が。彼女の醸し出す少しやさぐれているような気怠げな雰囲気が、物語が繰り広げられる街の背景のスパイスとして一役買っていた。ホセを訪ねてやってきた幼馴染で婚約者のミカエラを演じたのは山田夏生。衛兵たちにからかわれて戸惑う彼女の所作には、他のキャラクターにはない清純さや爽やかさが弾けるよう。そんなソリストの二人の活躍を中心に、主役が登場する前の舞台が徐々に熱を帯びていく。

そしてお待ちかね、ホセが颯爽と登場すると会場は大きな拍手に包まれる。きちっと撫でつけた髪にびしっと着こなした制服。娼婦の誘惑にも一切動じず、てきぱきと仕事をこなしていくお堅い青年。高いジャンプや安定感のある回転を次々繰り出す堀内は、テクニック面でも主役としての威厳を発揮した。

「ハバネラ」の妖艶な旋律と共に、真っ白な衣装に身を包んだ小林扮するカルメンが登場。先日、本公演の公開リハーサルを取材した際は、他のキャストたちと比べてどことなく大人しい印象だった彼女だが、本番では“野の鳥”がさえずるような軽やかな踊りを披露して、カルメンという女性の自由奔放さを見事に描き出していた。

Kバレエカンパニー『カルメン』

喧嘩騒ぎで兵に捕らえられ、両手を拘束されたカルメンと彼女の見張りを任されたホセ。縄で繋がった二人の踊りはとても印象的で、ここからホセの恋情がむくむくと湧き上がっていく。くるくると縄に巻かれてお互いが近づいたり、かと思えば、解けて離れてしまったり。最初は全く取り合わなかったホセなのに、いったいいつの間に恋の手綱をカルメンに握られてしまったのか・・・。

第1幕2場、リーリャス・パスティアの酒場。ギターや銃などの武器を持って踊る密輸業者たちの賑やかな踊りが陽気で楽しい場面だが、ここでの注目はやはり闘牛士のエスカミーリョだ。キザでコミカルな演技でこのシーンを大いに盛り上げたのは杉野慧。真面目で真っ直ぐが故に少し陰湿な印象を受ける堀内のホセとは対照的に、彼の醸し出す底抜けに楽観的な空気感が、きっとカルメンの目にも新鮮で魅力的に見えたことだろう。

第2幕1場、密輸業者のアジト。踊りよりも演技が中心となるこの場面。すっかりホセへの興味を失っている様子のカルメンと、そんな態度に苛立ちを隠せないホセ。小林演じるカルメンの適当に受け流す冷たさと、堀内のホセの束縛と嫉妬の鬱陶しさ。両者の演技が光り、二人の未来に暗雲が立ち込める様が見事だった。

くすんだ色の衣装に身を包んだ密輸業者たちの中に、鮮やかなブルーの衣装を着たミカエラが登場。怯えながら全く場違いのところにやってきて、必死にホセを連れ戻そうとする彼女の健気さが際立つほど、ホセがどうしても消し去ることのできないカルメンへの思いが切なく浮き上がってくる。

第2幕2場、闘牛場の前。大道芸人やエスカミーリョら闘牛士たちが競い合うように派手な踊りを披露する。カルメンは街の人々と共に高揚感に包まれる闘牛場に入っていくが、どこからともなく姿を現したホセに引っ張り出される。このシーンのホセについて「傷ついたイメージを持って演じている」と話していた堀内。寂しさや喪失感があふれ出て、頼りない子どものような弱さも感じられる彼の表現力には引き込まれるものがあった。

Kバレエカンパニー『カルメン』

公開リハーサルでは二人の演技のドラマティックさは際立っていたものの「綺麗にまとめている」という印象も少なからず残っていたこのシーン。それが本番では、より荒々しく、より両者の感情がむき出しとなり、胸に突き刺さるような強烈な表現へと進化。小林がポアントで力強く地面を踏みつける動き、堀内が跪いて訴える動き、そこには強いエネルギーが宿っていた。

ぐったりとしたカルメンを抱きかかえて舞台奥に歩いていくホセの後ろ姿を見て、なんだかこっちまでぐったりと疲れ(もちろん良い意味で)、充実感でいっぱいな気持ちに。なかなか鳴りやまない拍手に応えるように、何度も何度もカーテンコールは繰り返された。

(文・取材/エンタステージ編集部 写真/©K-BALLET COMPANY)

次回の全幕公演は『クレオパトラ』

そんな素晴らしい『カルメン』を終えたKバレエカンパニーが贈る次なる全幕公演は、4年ぶり3度目となる『クレオパトラ』。10月26日(水)から10月30日(日)まで東京・Bunkamuraオーチャードホール、11月3日(木・祝)に大阪・フェスティバルホール、11月7日(月)に北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruにて上演される。東京公演のチケット一般発売は6月18日(土)10:00より。

Kバレエカンパニー『クレオパトラ』
(C)Toru Hiraiwa

Kバレエカンパニー『カルメン』

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