霧矢大夢×多和田任益インタビュー!三島由紀夫の『薔薇と海賊』は「ファンタジックだけど苦い」

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2022年3月4日(金)より、unrato#8『薔薇と海賊』が上演される。本作は、1958年に発表された三島由紀夫作品。思想的で高尚なイメージを持ちがちな三島由紀夫だが、この『薔薇と海賊』は虚実の夢と純愛が詰め込まれたファンタジックな風合いで、三島作品としては少々異色なテイストだ。

霧矢大夢と多和田任益は、女流童話作家と白痴の青年の“純愛”を演じる。本作が初共演となる二人に、公演に向けた意気込みなどを聞いた。

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)

目次

「虚妄の世界に何か真実がある」という終わり方は、今の時代にほしいテーマ

――『薔薇と海賊』は三島由紀夫作品ということで、まず率直に作品の最初の印象はいかがでしたか?

霧矢:三島由紀夫さんの作品は、日本の演劇人ならいつか足を踏み入れなければいけない世界だと思っていました。三島さんは独特な世界観を持っていらっしゃる方なので、舞台で作品を拝見したことはありましたが、自ら足を踏み入れるのはなかなか覚悟がいったもので、「ついにその時が来たか・・・!」という気がしました。

多和田:僕は、そもそも本を読むことがあまり得意な方ではなく、どっちかというと苦手で。三島由紀夫さんというお名前は知っているけど、なんか理由つけて避けてしまっていました。役者としては恥ずかしいことなんですけど。だから、僕もお話をいただいた時は「来た・・・!」という気持ちになりました。

30代ぐらいで機会が巡ってくるかなと想像していたんですが、まだ28!もちろん今の自分にできるかな?という不安もあったんですけど、30代に向けていっぱい経験をしなければならない時期だから、必要なタイミングで巡ってきた機会なんだと思ってがんばりたいです。

――三島さんは、虚妄の世界に何か真実があるという終わり方で本作を描いています。演出の大河内直子さんは、それが今の時代にほしいテーマだと思って、今回の上演に選んだとおっしゃっていました。

霧矢:コロナ禍で、人と気軽にコミュニケーションが取れない世の中になって、我々のようなクリエイトしていく職業の人たちは力を試されていると思うんですよね。人間の想像する力をどれだけ引き出せるか。この『薔薇と海賊』には、極端な人たちがいっぱい出てくる。こんな夫婦いるわけない、こんな親子関係あるわけない。そんな現実的ではない人たちの中にも、大事なものが絶対ある。内にこもって偏りがちな今の人たちの想像力を解放できるように、「正解がない」、「答えを求めようとしすぎなくていい」など、そういうことを感じてもらえたら、今上演する意味がとってもあるんだと思います。

多和田:今って、やりたかった公演ができなかったり、中止になってそのままになってしまったり、演劇ってお客さんいてなんぼなのに、見に来れなくなった人が圧倒的に増えてしまいましたよね。実際、ファンの方からもそういうメッセージをいただいたりもします。「しばらく行けません」と言わざるを得ない人の言葉を見ると、すごく苦しいです。自分が好きなもの、したいことを制限されるということは、生きることをがんばろうと思う力も奪っていく気がして。

例えば、久しぶり、もしくは数年演劇を観たくても観れていない人がこの作品を観たら、「うわ、演劇浴びた・・・!」って感じがすると思うんですよ。観てくださったお客さんが帰り道に「やっぱり舞台っていいな」と思ってもらえたら、一人でもそう思わせたら、成功なんじゃないかなと。僕自身も、ストレートプレイをやらせていただくのは半年以上空いているので、自分の中に表現したい欲が溜まっています。僕自身も演劇を浴びたいし、お客さんにもいっぱい浴びていってほしいです。

――ファンタジーが必要というのは、今を生きる人の心にとってすごく大切なことかもしれません。お二人が演じられる役もまた、ファンタジーな設定ですよね。

霧矢:私は童話作家の阿里子という女性を演じさせていただくのですが、波乱万丈な人生を歩まれていて・・・。初めて読んだ時は噛み砕けなかったんです。ハテナがたくさん。何回も読み進めていくうちに、最後の台詞を「え?どういうこと?」って消化する稽古になるんだろうなと思っています。

共感できないことが多かったですね。演じる時って、どこか自分の中に持っているものと近いものを探すのですが、阿里子には全然それが見つからなくて。過去の傷と共に生きていくことを選んで、傷と一緒に生活する。私にとっては、なかなか共感できることじゃなかった。でも、楽しい。これは演劇だからできることなので、稽古を重ねる中で、自分なりの阿里子像が見つけようとまっさらな気持ちで役と向き合っています。

多和田:僕が演じるのは、帝一という青年です。阿里子が書く童話のファンで、自分が童話の中の主人公だと信じて疑わない知的障害を持っているんですけど、すごく強いなと思えたんです。真っ直ぐ一つのことを信じて、揺るがないものがあるのって、すごく強い。

役って、霧矢さんがおっしゃったように「やばい、自分と全然違う!でも演劇だから楽しい」と思えるものと、「これ、僕のこと書いたのかな・・・」と思うような当て書きに近いものがあるんです。今回の帝一は、始めての境地だけど、なんか分かる。「僕もこういう状況に置かれたら、こう言いそう」と思うような言い回しがあったり、共感できる部分もあったので、わりと最初からずっと帝一の目線で読めたのが印象的でした。

初共演の霧矢大夢と多和田任益、お互いに「思っていたより・・・」

――お二人は初共演になりますが、最初の印象はどうでした?

霧矢:第一印象は「イメージしていたよりも大きい人だった・・・」でした(笑)。でも、人柄を知るうちに少年性が見えてくるというか、ピュアで素直に帝一という役をやらはるんやろうなとひしひし伝わってきました。大きい子どもみたいな感じ。

帝一をどんな人が演じるかによって、阿里子の見え方がすごく変わると思っていたんです。三島さんは、阿里子を妙齢だけど夫や弟が「きれいだな」と言ってくださる人物として描いていらっしゃるので、阿里子と帝一の関係がお母さんと息子に見えてしまうと成り立たない。でも多和田さんのような大きな青年が無邪気さを持って大人の女性と並ぶ姿は、観ている側としてはドキドキしていただけるのではないかなと。

多和田:ありがとうございます、そう見えるといいな・・・。僕の霧矢さんの第一印象は「想像より関西人やった!」でした(笑)。

霧矢:(爆笑)!

多和田:心地いい関西人の会話のテンポを持っていらっしゃったので、緊張しいの僕としてはとてもありがたかったですよ。大らかなお人柄でもあるので、帝一いう役柄としても、多和田としても、何でも受け止めてくれそうだと、安心して懐に飛び込んでいける気がしております。

下世話な言い方をすると「昼ドラ」感ありません?

――下世話な言い方になってしまうんですが、この物語、あらすじとしては「昼ドラ」感ありますよね?

多和田:めっちゃ分かります(笑)。

霧矢:ブラックユーモアというか、見方によってはコメディですよね。「ここ笑っていいの?」って思うシーンがいっぱいあって(笑)。若い女の子に大人たちがいいように操られていくところや、愛人と正妻が対立する場面とか、ニマニマしちゃう。女のバトルとか大好きなので、やるのが楽しみです。

それから、複雑な状況で生まれた娘との憎み合っているようで愛し合っている感じとか、どうしようもない夫との関係性とか。私、ドロドロしたことを表現するのが大好きなのですごく好みかもしれない。できればツッコミながら観ていただきたいです。よくよく考えると帝一さんが一番まともなので、そんな人たちが帝一さんのことを「頭おかしい!」とか言っていたら、「いやいや、あんたの方がおかしいで?」って(笑)。

多和田:演劇って、観ていく中で自分の意見や感想が個々に湧くのがおもしろいところですよね。そういうものを掻き立てる作品なんじゃないかなと思います。

――巧みな役者さん揃いなので、業の深い人間たちをどう見せてくださるのか、楽しみです。

多和田:今回、共演者の方はほぼ初めましてなんですが、同世代の役者仲間には「ええやろ~」って自慢したいです(笑)。僕はまだまだ道半ばで、こういうすごい役者さんたちの中でやることで、自分はまだまだダメだって思いたいし、自分の可能性を発見したいんです。

もちろん共演した方とまたご一緒できることはめちゃくちゃ嬉しいです。新しい役で繋がれたら最高!と思う反面、もっと自分の知らない角度からボコボコにしてくれるような先輩や後輩、魅力ある方とご一緒して、いい意味で焦りたい。本当に嬉しい現場に身を置けているので、いい意味で場を散らかしていって、自分を出していけたらいいなと思います。

霧矢:蜷川組でやってこられた方もいらっしゃるのでね。場を締めていただけると思いつつ、あのいいように翻弄される大人たちを、こんな素敵な方々がどう演じてくださるのだろうという楽しみがいっぱいです(笑)。

ぴったりくる言葉は“ファンタジックだけど苦い”

――三島由紀夫作品というと構えてしまう方もいらっしゃるかもしれないので、気楽に観に行ける誘い文句をお願いします。

霧矢:確かに、印象はちょっと硬いよね。『薔薇と海賊』、字画多いし。

多和田:字画(笑)。ドロドロの愛憎劇って、好きな方が一定層いますよね。僕もその一人なんですけど、ピュアさとドロドロのバランスがおもしろいので、その混ざり合いを楽しんでもらいたいですね。

霧矢:イメージとしては、素敵なお館がぐにゃあ・・・ってねじれ歪んでいくようなお話です。答えはこれだ!ってすっきりする爽快感ではなく、人間の頭の中がぐちゃぐちゃっとなる感覚を味わえたり、ファンタジーだけどこれもまた人間の持つ一面なんだよと思わせてくれる。

多和田:僕が出演していなかったら、たぶん2回観に行きます。

霧矢:あ~!確かに。

多和田:「うわ~、ちょっと待って・・・もう一回観たい」と癖になるというか、いい意味で後味が「あの味はなんや・・・」ってなる気がするので。

霧矢:“ファンタジックだけど苦い”。ぴったりくる言葉、見つかった!

多和田:人生、苦味も必要な要素ですから。

『薔薇と海賊』公演情報

上演スケジュール

【東京公演】2022年3月4日(金)~3月13日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
【大阪公演】2022年3月25日(金)・3月26日(土) 茨木クリエイトセンター

スタッフ・キャスト

【作】三島由紀夫
【演出】大河内直子

【出演】
霧矢大夢 多和田任益 田村芽実 須賀貴匡 鈴木裕樹
大石継太 飯田邦博 羽子田洋子 篠原初実 松平春香

あらすじ

童話作家の楓阿里子邸。そこに、阿里子の童話のファンで30歳の松山帝一が訪ねてくる。帝一は、自分を童話の中の主人公・ユーカリ少年だと信じている知的障害の青年で、後見人の額間に付き添われてやってきた。楓邸は童話の世界のように仕立てられ、阿里子は19歳の娘・千恵子にも登場人物のニッケル姫の扮装をさせていた。帝一はこの家にずっと住みたいと言い出し、阿里子と帝一の夢の世界のような純愛が始まる。
千恵子は額間と出会い、押し込めてした本音があふれ出て来る。帝一の登場で、阿里子の夫の重政、その弟の重巳との館での生活にもひずみが生まれていくのだが・・・。

【チケット発売プレイガイド(東京公演)】
■チケットぴあ https://w.pia.jp/t/baratokaizoku/
■東京芸術劇場ボックスオフィス https://www.geigeki.jp/t/
■イープラス https://eplus.jp/baratokaizoku/
■カンフェティ http://confetti-web.com/baratokaizoku
0120-240-540*通話料無料・オペレーター対応(平日10:00~18:00)

【公式サイト】
https://ae-on.co.jp/unrato/baratokaizoku/

<公演配信決定!>
3月10日(木)18:00~配信(アーカイブ:3月16日 23:59まで)

ぴあ:https://w.pia.jp/t/baratokaizoku/
イープラス:https://eplus.jp/baratokaizoku/

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この記事を書いた人

ひょんなことから演劇にハマり、いろんな方の芝居・演出を見たくてただだた客席に座り続けて〇年。年間250本ペースで観劇を続けていた結果、気がついたら「エンタステージ」に拾われていた成り上がり系編集部員です。舞台を作るすべての方にリスペクトを持って、いつまでも究極の観客であり続けたい。

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