演劇の毛利さん-The Entertainment Theater Vol.1『天使は桜に舞い降りて』が、2022年1月6日(木)に東京・サンシャイン劇場にて開幕する。舞台だけに留まらず、映画、テレビドラマ、アニメなど、様々なプロジェクトで引っ張りだこの脚本家・演出家である毛利亘宏(少年社中)が「よりやりたいことをやるための演劇ユニット」としてコロナ禍で立ち上げた新ユニットに込めた想いとは?2021年のプロジェクト立ち上げから、本格始動となる『天使は桜に舞い降りて』について、話を聞いた。
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部 1号)
自分の名前を冠し、個人に立ち返って見えた演劇への矜持
――「演劇の毛利さん」いよいよ、本格始動ですね。昨年の「Vol.0」公演は大変な情勢の中でスタートされましたが・・・。
状況も状況でしたし、お試し公演として前回は「0」としてナンバリングしたんです。
――たくさんの作品に関わられる毛利さんですが、改めてソロプロジェクトをやろうと思われたきっかけは?
もちろんたくさんのプロジェクトに関わらせていただいておりますし、少年社中という劇団もずっと続けております。25周年が間近に迫っている少年社中は、やっぱり僕にとって特別な存在です。でも、劇団は毛利個人のものではなく、少年社中のメンバー全員で作ってきたものです。劇団は劇団として、毛利は毛利として、もう少し自由度高く、毛利の名前を前に出した制作をしてみたいという思いから始まりました。
――なるほど。だから、ユニット名も「演劇の毛利さん」とお名前を入れられたんですね。
そうですね。毛利の演劇作っていくぞ!という決意を込めました。
――この活動は、いつくらいからやりたいなと思われていたんでしょうか?
3年前ぐらいですかね・・・。少年社中で規模の大きな作品をやるようになってから、いろいろみんなで話すようにしてきたんですが、少年社中にとっていいことも悪いこともあったんです。商業性を出せば劇団性が失われていくとか、もっと濃い劇団性を打ち出したいとか。自分の中で、バランスを取らないといけない部分が出てきまして。だからいっそのこと、僕が思うエンターテインメントの部分を劇団とは切り離して、個人のユニットにできればと思ったんです。東映さんのお力を借りて、それを実行できる運びになりました。
――時期的に、コロナ禍でのスタートとなったのは?
それは偶然なんです。予期せぬ災難でした。
――そうだったんですね。でも、演劇が厳しい状態に立たされる中での毛利さんの新しい挑戦だったので、演劇への思いがすごく伝わってきました。
感染症対策へのご協力のお願いや、お願い事が多い中、劇場にお越し頂いたお客様には感謝の気持ちでいっぱいです。配信も本当に多くの方々に観ていただけました。改めて、皆さん、その節はありがとうございました。困難は多かったですが、逆に、初心に立ち返れることができた気がしています。劇団を立ち上げた当初、お客さん集めに苦労したりしたことも思い出しました。ここからもう一度スタートを切るんだ、という気持ちでおります。
――実際にプロジェクトが始まって、少年社中さんとも、プロデュース公演とも違う、「演劇の毛利さん」としての矜持は見えましたか?
今回の「Vol.1」公演に向けて準備していく中で、結局、自分の作品のエッセンスの濃いところを出していけばいいんだと気づきました。先ほどお話ししたように、少年社中とは違うことをしようと考えてスタートしたんですが、少年社中としてやってきたことのもっと濃いところ、自分の個性の濃い部分をストレートに出して勝負をする。それが「演劇の毛利さん」の大事なところになるんじゃないかなと思いました。
もちろん、少年社中の中で毛利の色の中で薄れているというわけではなく、少年社中は劇団みんなの色でできているので。そのパッケージではできない、もっと毛利個人としての濃いエッセンスをお見せできたらなというのが一番の思いです。
――昨年、『星の飛行士』を拝見した時に「ザ・毛利さん!な作品だな」と思って拝見したのですが、間違いじゃなかったですね。
他のプロジェクトで書かせていただく場合も自分の筆は変わらないんですが、どう表現したらいいかな・・・自分らしさ、自分の芯をそれぞれのプロジェクトに寄せていくような感じなんですよ。「メサイア」しかり、「東映特撮」しかり。ありがたいことに挙げはじめたらキリがないぐらい多くの作品に携わっていますが、どのプロジェクトも自分らしさはあるとは思っています。少年社中も、少年社中という「団体」に自分を合わせにいく。
ネガティブな意味ではなく、25年続けていると「劇団員の良さはこうだから」みたいなことをどうしても考えてしまうので、それを一回全部取っ払って、本当に純粋な毛利亘宏を出せる場所を作りたかったんです。Vol.0公演の『星の飛行士』も、今回の『桜の天使は桜に舞い降りて』も、そういう作品になっていると思います。
『桜の天使は桜に舞い降りて』を書くきっかけは「お花見ができなかったこと」
――『桜の天使は桜に舞い降りて』の台本を拝見させていただいたんですが、今のお話のとおり、毛利さんてんこ盛りだなと(笑)。本作の着想はどこから得られたんですか?
てんこ盛りです(笑)。もちろん、コロナ禍を経験しているということが一番影響していると思うんですが、救いを求めてたというか・・・。絶望感溢れる世の中への救い、それに対する願いを込めた作品を作るかを考えた時に、自分の中で一番に過ぎったのが、春に「お花見ができなかった」という出来事だったんですよね。
桜は、日本人にとってすごく身近にあるものであり、象徴的なもので。お花見ができないという状況になって、「桜を愛でることって、すごく大事だったんだな」って思ったんです。四季を感じるということは、日本で生きるということと切り離せないところなので。それをモチーフとして、「人間」というものを描いてみたい。再び桜の下に集まれたら、それは今も我々の中にある絶望感が終結する時かなと思ったところから、考えていきました。
――毛利さんはファンタジーの名手でありますが、最近の作風を拝見していると、地に根を張った上でのファンタジーを描かれるようになってきたように感じることが多かったんです。今のお話をきいて、すごく腑に落ちました。
夏くらいに、今バシバシ発表されている案件が一通り落ち着いて、なんか・・・疲れたなあと思ったんですよね。この状態の自分をもう1回アップデートするためには何をしたらいいか。実は、そこから生まれたのがこの作品なんです。脚本家としても、演出家としても成長したいという思いがすごく強くなって、新しい書き方とかにもチャレンジしてみました。
――新しい書き方、というのは?
大したことではないんですが、設計図をしっかり作るというのが一番近い表現かな。今まで自分がやらなかったことをやっていく、それを心がけていくという感じです。
忙しすぎる毛利さん・・・!でも、仕事を「減らさずに中身を濃くしたい」チャレンジ
――毛利さんのキャリアにしても、まだまだ挑戦すべきことがたくさんあるんですね。
もう一度、自分を作り変えたいという思いが強くて。たくさんお仕事をさせていただく中で、いつもこれでいいのか?と自問自答しながらやっているんですが、クオリティを上げていくためには二つ手段があると思ったんですよ。
一つは、消極的ですが仕事を減らす。もう一つは、減らさずに中身を濃くする。僕は後者に挑戦してみたいと思いました。むしろ、増やしても中身を濃いものにしていくにはどうしたらいいか。それを、自分をリニューアルする上でのチャレンジとして掲げてみたんです。
減らすのは簡単でしょう。でも毛利を選んでいただいたからには、一つ一つをより良くファンの皆様にお届けしたい。いろんな方といっしょにモノづくりに、チャレンジしていくつもりです。
――きっと「演劇の毛利さん」は、毛利さんの総決算とアップデートと一緒に見れる場ですね。1年に1回ぐらいのペースで続けられる予定ですか?
そうですね。「演劇の毛利さん」があるというのは、自分の中ではすごく大きくて。劇団やプロジェクトにとっても、いいことに繋がると思うんです。定期的にはやっていこうと思っていますが、あとは「演劇の毛利さん」をお客様が観たいと望んでもらえれば・・・というところですかね(笑)。いろんな方々に観てもらえれば、うれしい限りです。

荒木宏文と夢咲ねねが天使役 演劇の毛利さん『天使は桜に舞い降りて』全出演者のイメージビジュアルを公開
「日常に戻る」という意味も込めて――先の見えない時期は、なかなか書けなかったお話
――キャスティングについても、「演劇の毛利さん」は新しい出会いを多く求める場なのかなと思いました。
今回、初めてご一緒する方が多いんですよね。いつもできるだけ新しい才能と出会って刺激をもらいたいなと思うんですけど、劇団の場合は固定メンバーですし、ある程度“型”もできてくるので、長く続けていると新しい出会いが先細りしてくるのは確かなことで。
今回みたいに新しい出会いが多い現場となると勝手が分からない分大変なことも出てきますが、そこに対してもう一度「自分の演劇とは何か」を自分に問いかけながら伝えていくことが、新しい発見に繋がるかなと思って、キャスティングについてはプロデューサーにお任せしました。
――中心となる天使役には、荒木宏文さんと夢咲ねねさんがキャスティングされましたが。
荒木とはミュージカル『黒執事』-地に燃えるリコリス2015-以来ですね。あれからお互いいろんなことをやってきたので、バージョンアップした状態でまた再会できたことが嬉しいです。僕がイメージしていたものを、荒木がどう解釈してどうぶつけてきたのか、稽古場でのセッションの結果を楽しみにしていてもらいたいですね。
夢咲さんはこの作品が始まるまでは直接お会いしたことがなかったんですが、周囲から「とっても素敵な方だよ」と聞いていたんです。かなり幅のある役を演じていただきます。せっかく初めてご一緒できるので、この作品への出演が夢咲さんにとってもチャレンジになっているといいなと思っています。
――物語の要となる「桜の精」役の安西慎太郎さんは、毛利さんが信頼を置かれる俳優さんの一人だと思いますが。
ここ数本、連続で一緒にやってもらっていますが、相変わらずお芝居のセンスが抜群にいいです。実は、「桜の精」に関しては、キャスティングしていただく際「男性でも女性でもどちらでもいいです」とお伝えしていたんです。結果、彼になって役が舞台上でどうなるのか、作品を押し上げるようにドライブをかけるラストがどう皆さんの目に映るのか、すごく楽しみです。
――ちなみに、この物語には古今東西“桜”にまつわるお話がたくさん出てくる構成になっていますが・・・。
実は最初、「桜の森の満開の下」をやろうかなと思っていたんです。でも最近、野田秀樹さんも再演されていらっしゃったりもしたのでどうしようかなと(笑)。それでもいいからやろうかとも思ったんですが、どうしても暗い話になっちゃうのが気になってしまって今の構想に落ち着きました。「暗い話はもういいだろう」と思うところもありましたし、明るく希望を持った終わり方をしたかったんです。だったら僕らしく、たくさんの作品を混ぜて、それをハッピーエンドに繋がるようにしたいなと思って、4作品を織り込む形で出来上がりました。また結果的に「桜の森の満開の下」はリーディングシアターと題して朗読劇でお客様にお届けすることになりました。片一方だけでももちろん楽しめるのですが、両方観ると、作品をより深く楽しめる仕掛けとなっています。
――「暗い話はもういいだろう」という毛利さんの気持ち、観る側としてもすごくよく分かります。
先の見えない時期は、僕自身もなかなか書けなかったお話でもあると思うんですよね。正直、まだ先々どうなるか分かりませんが、できるだけ皆さんに感じていただけるようにできたらと思っています。地方でも公演できますし、「日常に戻る」という意味も込めて、“桜”をモチーフにしたので。また、みんなで花見しようよって言えるのが、日常の象徴になるんじゃないかなと。
今回、僕の出身地でもある愛知で公演させていただけるんですが、実は、会場が実家からとても近いんですよ(笑)。そして、この公演には少年社中から川本裕之と井俣太良が出てくれますが、彼らとは同郷で、知り合って30年になるんです。劇団25年より長くて(笑)。そういう意味でも、僕にとってまさに日常を感じられるのが嬉しいし、僕自身も希望が持てるなと思っています。

演劇の毛利さん -The Entertainment Theater Vol.1『天使は桜に舞い降りて』
桜が満開に咲いたのを見た時、初めて完成する作品だと思います
――毛利さんが、上演発表時に寄せてくださった「演劇と桜は似ている」というコメントがとても印象的でした。
まさしくその言葉に凝縮されるように、瞬間的に咲いて、ぱっと散る。その下に人は集い、離れていく。1年後にまた桜は同じように美しく咲くけれど、自分は1年分の歳を取っている。これは10年後、30年後でも同じで。桜の美しさは何も変わらないけれど、自分は大きく変わっている。そこが日本的な感覚がある気がして。桜は、自分というものを記憶していく装置というか・・・。
この作品は、「桜の木の下には物語が埋まっている」という台詞から始まるんですが、多分、みんなの思い出、人類の記憶が埋まっていると思うんです。そんなことを、皆さんにも感じていただいて、自分なりの記憶とか、掘り返しながら未来に希望を持ってもらえたらなと思っています。上演時期は、まだ桜が咲くには早い時期ではありますが(笑)。
――この物語の記憶を持って今年の桜を見れたらいいなと、毛利さんのお話を伺って思いました。
僕もそういう気持ちでおります。もちろん、桜の咲く時期に上演するのもいいと思ったんですが、観てすぐ外に桜が咲いている状態だと少し情緒がない気がして。観終わってから、春を迎える頃にじわっとくるお芝居を作りたかったんです。
この物語の冒頭のように、劇場から出たらまだ枯れ木の桜を見て、自分の“今”を感じていただく。そして、3ヶ月経って桜が満開に咲いた時に初めて完成する・・・そんなロングスパンでお楽しみいただける作品になったと思います(笑)。
――演劇って記憶を楽しむものでもあると思うので、すごく素敵な仕掛けですね。
年を経て変わるものと変わらないものがあって。困難に直面する時は、自分をリセットする良い機会なんじゃないかなと思うんです。リセットして。再生して、また進み出す。僕自身も、改めて前を向いて、走り続けていきますので、皆さん着いてきていただけると嬉しいです。そして、今年こそは桜の下で皆さんが笑いあえる年になればいいなという想いを、作品に託しました。心を込めてお届けいたしますので、ぜひともご期待いただければと思っております。
演劇の毛利さん-The Entertainment Theater Vol.1
『天使は桜に舞い降りて』公演情報
上演スケジュール
2022年1月6日(木)~1月16日(日)東京:サンシャイン劇場
2022年1月22日(土)・23日(日)愛知:名古屋市公会堂 大ホール
2022年1月28日(金)~30日(日)大阪:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
スタッフ・キャスト
【脚本・演出】毛利亘宏(少年社中)
【配役・出演】
天使・ラウム:荒木宏文
天使・クロセル:夢咲ねね
桜の精:安西慎太郎
<坂口安吾「桜の森の満開の下」より>
山賊:三津谷亮
妖艶な女:エリザベス・マリー
白痴の女:ザンヨウコ
<梶井基次郎「櫻の樹の下には」より>
俺:伊崎龍次郎
お前:大薮丘
<「義経千本桜」より>
源九郎判官義経:相澤莉多
平知盛:井俣太良
いがみの権太:川本裕之
狐忠信:星元裕月
<小泉八雲「十六桜」より>
老侍:山本亨
アフタートーク実施日
【東京公演】
1月7日(金)19:00
登壇者:荒木宏文 夢咲ねね 安西慎太郎
1月8日(土)17:30
登壇者:三津谷亮 エリザベス・マリー ザンヨウコ
1月11日(火)19:00
登壇者:星元裕月 相澤莉多 川本裕之 井俣太良
1月12日(水)14:30
登壇者:伊崎龍次郎 星元裕月 相澤莉多
1月13日(木)19:00
登壇者:荒木宏文 伊崎龍次郎 大薮丘
1月14日(金)19:00
登壇者:夢咲ねね 安西慎太郎 三津谷亮
【愛知公演】
1月22日(土)18:00
登壇者:荒木宏文 川本裕之 井俣太良
1月23日(日)13:00
登壇者:三津谷亮 伊崎龍次郎 相澤莉多
【大阪公演】
1月28日(金)14:30
登壇者:荒木宏文 安西慎太郎 大薮丘
1月28日(金)19:00
登壇者:夢咲ねね 星元裕月 エリザベス・マリー ザンヨウコ
1月29日(土)13:00
登壇者:荒木宏文 夢咲ねね 山本亨
※全アフタートーク司会:毛利亘宏(少年社中)
※登壇者・内容等は予告なく変更となる場合あり
演劇の毛利さん –The Entertainment Theater Vol.1
リーディングシアター『天使は桜に舞い降りて』公演情報
【原作】坂口安吾「桜の森の満開の下」
【脚本・演出】毛利亘宏(少年社中)
【出演・日程】
東京・サンシャイン劇場
1月 9日(日)18:00 梅津瑞樹 ・ 諏訪彩花
1月10日(祝・月)18:00 納谷健 ・ 今泉佑唯
1月12日(水)19:00 竹内栄治 ・ 高森奈津美
1月15日(土)19:00 岡本信彦 ・ 豊田萌絵
大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
1月29日(土)18:00 浅沼晋太郎 ・ 本田礼生
【公演特設サイト】http://www.shachu.com/e_mouri01/
【公演Twitter】@e_mouri