たった、2年と3か月前。彼は“ただの大学生”でした。それが今は23歳にして、吉原光夫ら帝国劇場に出てもおかしくない役者・スタッフを揃える、カンパニーのプロデューサー。今月11月14日には、堂々の初演を迎えます。
そんな、ファンタジー作品並みの夢物語を叶えたのが、ファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」のプロデューサー瀬戸口祐太さん。
2019年8月、「キングコング」西野亮廣さんの会社に参加。その2ヶ月後にはパリ・エッフェル塔での個展責任者を務め、その後も数々のプロジェクトを担当。その奇跡的な経験をもとに、幾多の挑戦を繰り返しています。
夢を描きにくくなった、この世の中で、次代を担う彼が学んだものとは何か。西野亮廣さん・周囲の協力者に導かれ、未来を切り開いてきた彼に、同世代の若者、コロナによって深傷をおった演劇業界は、どう映ったのか。その感じ取ったものを聞きました。
幾多の困難を経てたどり着いた日本版ミュージカル「えんとつ町のプペル」
――今回、11月14日に初演を迎えるミュージカル「えんとつ町のプペル」ですが、舞台化されるまで大変だったと聞いています。経緯を教えてください。
現在アシスタントプロデューサーを務める小野功司が、劇団四季を退団して、ニューヨークで「えんとつ町のプペル」のミュージカルを作りたいと言ったのが始まりでした。その後、西野(亮廣)さん自身が脚本を書く流れになったのですが、コロナの影響で2020年9月にオフブロードウェイで予定していた初演ができなくなって…。一度、日本でミュージカルを開催して、仕切り直してニューヨークにまた挑戦しようというのが、今回のプロジェクトです。
――キャスティングがそのまま帝国劇場に出られるような豪華さです。吉原光夫さん、笠井日向さん、岡幸二郎さんなど錚々たるメンバーですが、キャスティングで意識したのはどういう点ですか?
よくプペルを受けてくださったなと、今でも感謝しかありません。一つあるのは、僕たちは、初めてミュージカルをやるカンパニーなので、いい意味で何も忖度する必要がなかった。だから、集客やビジネス面に関係なく、“実力とそのキャラに合っているか”だけを見て「この人だ!」と思った方に真っ直ぐお願いしに行きました。
その上で、お金の問題から逃げない。ということも最初から決めていて、カンパニーとして新しい予算作りともしっかり向き合いながら、観に来てくださったお客様に『圧倒的なエンターテイメント』を届けたい。というのが僕たちの想いです。
――クセの強い作品だけにNGも多かったんじゃないですか
スケジュールが近くてNGはめちゃくちゃありましたね。ただ、お話しには意外と興味を持ってくださいました。新しいことに挑戦していきたいと、最初からみんなに話していて、「MV(ミュージックビデオ)も作りたいし、稽古も公開したい」みたいな話を、「これ怒られるだろうなぁ」と思いながら話しましたね(笑)。でも、そういうのも想像より面白がってくれるんだないうのは、感じたことです。
初本読み有料配信など新たな取り組みがもたらすもの
――取り組みとして、初本読みの有料配信(初の台本読み合わせを10月10日にオンライン配信)がありました。役者の方々の反発は強くなかったですか?
僕も最初怖くてビビってたんです(笑)。みつおさん(吉原光夫)は、本読み配信の日まで「セトちゃん、配信やめたほうがいいんじゃない」ってずっと言ってましたね。でも、最後は結局「新しい価値の追求だからやったほうがいいよ」と言って、ツイートまでして、背中を押してくれた。みつおさん、本当はめちゃくちゃ優しいんですよ(笑)
――今回の場所が東京キネマ倶楽部です。趣ある劇場で雰囲気がすごく良いですが、演劇で使われるのは数えるほどです。選んだ理由を教えてください。
いくつか劇場をピックアップした上で、演出の西野の意向でここに決めました。その意図は僕も理解していて、すごく会場が「えんとつ町」っぽいんですよね。僕たちは舞台上だけでなく、会場全体を「えんとつ町」にしたい。その意向を踏まえて、東京キネマ倶楽部がいいなと思ったんです。
あとすごく“不便”なんですよ。演劇で使う場所じゃないからバトンも少ないし、袖も狭いからセット転換できなかったりする。ただ、「ここでミュージカルができればどこでもできるだろうな。」というのはあって、実は今後、ニューヨークだけじゃなくて、普段から支援しているラオスやフィリピンの子供達にもミュージカルを届けたいと思っているんです。そうなってくると場合によっては、ストリートなどでやる必要も出てくるわけで、そのときに「設備が、、」とかって言ってられないわけじゃないですか。そんなことも意識しながら、今初演を作っています。
批判されても信じ続ける、僕たちの挑戦自体が「えんとつ町のプペル」
――ミュージカル「えんとつ町のプペル」に込めたメッセージとはどんなものですか?
一番は、『まっすぐ信じ続ければ叶う』。臭いセリフですけど、僕たちはエンターテイメントを通して、ハッピーエンドを届けたいというのがベースにある。それを真正面からやっていきたいです。
――批判や風当たりも強いと思いますが、信じ続けられていますか?
今回、初めて演劇界に入って、すごく感じました。僕だけじゃなくて、キャストやスタッフさんに対しても批判はある。ただ、新しいことをやるときは仕方ないんだな、と思います。それに、「えんとつ町のプペル」を作っている人たちが上を見上げてなかったら、どうするんだよ(笑)ってチームでもよく話すんです。今はまだ理解されないけど、僕たちが新しいことをやれば何かが前に進むって信じています。
本読み配信とかもそうですよね。間違いなく価値があるし、何年後かにスタンダードになっている気もする。1歩目って守るべきものが多い人が踏み込めないのはすごくわかるので、守るものが少ない僕たちのカンパニーがやってみて、少しでも広がっていったらいいなとは思っています。
――見てもらえるお客さんには何を感じ取って欲しいですか?
難しいですね。何を感じるかは、お客さん次第。自由に楽しんで欲しいのが1番です。その上で、「えんとつ町のプペル」って、どんな心情の人にも刺さるというか。例えば、アントニオというキャラの方が、もしかしたら主人公のルビッチより共感できる人が多いかもしれない。『信じ続ければ叶う』と言いましたが、それだけを持って帰って欲しいわけじゃないんです。それぞれの立場で、何か今より一歩前進するものを持ち帰ってもらえたら、すごく幸せです。
あとは、子供からおじいちゃんおばあちゃんにまで楽しんでもらえる作品を目指して作っているので、終わった後に家族で「あそこ、楽しかったねー!」みたいな会話が生まれたら、嬉しいですね。
僕たち世代が夢を見にくい世の中を変えなければいけない
――瀬戸口さん自身のことも教えていただきたいのですが、若くしてカンパニーのプロデューサーになるまでを振り返ってもらえますか。
今は23歳ですが、2年前までは“ただの大学生”でした。アメリカに留学中にエンタメの道に進むことを決意したのですが、ちょうど帰国した時に西野さんの会社のインターン募集を見て応募したんです。そしたら運良く合格して、2019年8月にキャリアが始まりました。ただ、初めて西野さんに会ったその日に、「今年の10月にパリで個展があるけどやる?」って言われて、「やります」って言ったら本当にやることになって。最初がパリのエッフェル塔の個展責任者だったので、僕はそこで感覚がけっこう麻痺してるんです(笑)。
その後も渋谷でグッズショップを立ち上げたり、オンラインで3000人の講演会をやったり、いろいろな流れがあって、ミュージカルのプロデューサーをやらせていただくことになった。ざっくりそんな感じです(笑)。
――演劇界にいきなり進出しましたが、ピュアな目で見てどんなことを感じますか?
演劇ってめちゃくちゃ魅力的ですよね!それが一番。
ただ、こんなに面白いエンタメなのに、普通に生きていたらあまり触れられないのは、もったいないなと思いました。
今回、プロデューサーをやるにあたって、ミュージカルや舞台を勉強でたくさん拝見しましたが、自分の感覚で言えば、やっぱり値段が高い。1万3000円です!と言われても、その面白さをまだ知らない人は、なかなかリスクを取って払えないなと。そして、それによって、新しい人が入って来づらい構造になっているのは残念だなと、純粋に思いました。
だから今回の「えんとつ町のプペル」のチケット代って、S席7000円、1番安い席で3500円なんです。ファミリーや、学生のときの僕でも払える金額を意識して設定したんですよね。
――批判を受けながらでも、新しいことにチャレンジしている理由は何ですか?
本当に面白いと思ったものをやる。その決意ですね。チームには、ずっと演劇界で働いてきた方々もたくさんいて、みんなとディスカッションしたら「本当はそれやりたい」「でも、ずっと踏み込めなかったんだよね」みたいなものがいっぱいある。そこで、「それじゃあ、僕がそれ言っちゃうのでやりましょうよ」とかって言う。だから僕一人のアイデアじゃなくて、チームで考えて、声を上げづらいところをみんなでやっていこうみたいな感じなんです。
その上で、結局誰を大事にするか。だと思っていて、今回で言うと、それは絶対にカンパニーのメンバーです。
例えば、今回、キャストの皆様には、稽古の段階からギャラを支払うことを決めたのですが、そのために、じゃあ、どういう風に追加でお金を作っていくのかを考える。
本読みを配信して批判を受けたとしても、僕にとってはそっちよりも、お金をちゃんと作ってキャスト・スタッフにお支払いできる方が大事で。そういった天秤で、一緒に戦ってくださっている方々をまず一番大事にしたい、というのが前を向いて進める理由ですね。その上で、批判をくださる人たちとも、いつかは一緒にできたらいいなっていう希望は持っています。
――今は夢を見にくい世の中ですが、同年代の若者にメッセージを贈るなら、どんな言葉になりますか?
いつも思っているのは、僕たち世代がそれを変えなければいけないということ。だから、「一緒に頑張りましょう」っていう感じですね。夢を語る人が一人でも増えたら世界は変わる。西野さんもみつおさんもそう。上の世代の方々が「生きにくい時代だけど批判されても頑張ろう」って、切り開いてくれている。その世界を、僕たちがもっと開かなきゃいけないって思っています。
【公式ホームページ】https://poupelle-musical.com/
関連商品案内
ミュージカル『えんとつ町のプペル』公演情報
上演スケジュール
2021年11月14日(日)~11月28日(日) 東京キネマ倶楽部
キャスト・スタッフ
プペル&ブルーノ 吉原光夫
ルビッチ 笠井日向
ベラール 岡幸二郎
ローラ 知念里奈
スコップ 藤森慎吾
レベッカ 田野優香
アントニオ 竹下瑠花
ダン 宮川浩
スーさん 乾直樹
ダンサー 杉原由梨乃
ダンサー 加賀谷一肇
【原作・脚本・演出】西野亮廣
【作曲・音楽監督】Ko Tanaka
【英歌詞】Jessica Wu
【オーケストレーター】August Eriksmoen
【訳詞】長島祥
【振付】SHOJIN