お笑いコンビ「インパルス」の板倉俊之が2012年に発表した小説「蟻地獄」原作とする舞台『蟻地獄』が2021年6月4日(金)に東京・よみうり大手町ホールで開幕した。原作者の板倉自身が脚本・演出も務める本作は、昨年7月に上演が予定されていたものの新型コロナウイルスの影響で中止に。今回が“復活公演”となる。
主人公の二村孝次郎役を演じる髙橋祐理は、2019年に結成された男性ダンス&ボーカルグループ「Zero PLANET」のリーダーで、2020年上演の『27 -7ORDER-』で舞台デビュー。その後は『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage -track.3-』茜ヶ久保遼太郎 役、舞台『青空ハイライト』~from主役の椅子はオレの椅子 海空役、舞台『FAKE MOTION-THE SUPER STAGE-』上杉天真役など話題作に次々出演し、注目を集めている。
孝次郎の親友・大塚修平 役の近藤廉は、エイベックスの俳優グループ「イケ家!」のメンバーで、人懐こい笑顔と“ぽっちゃり”体型を生かした癒し系キャラで注目を集める存在。実は全国高校総体インターハイ円盤投げで優勝経験もあるという意外な経歴でも話題だ。
カシワギ役は『仮面ライダーゼロワン』雷 役やドラマ『24 JAPAN』のテロリスト役など多くの映像作品や舞台でも活躍する山口大地が演じ、カジノオーナーの表の顔と冷酷無情なインテリヤクザの裏の顔を、スイッチを切り替えるように瞬時にして自在に入れ替え、その怪演っぷりに思わず息をのむ一幕も。
集団自殺の発起人・宮内役を演じるのは『仮面ライダー剣』仮面ライダーギャレン役でブレイク後も多くの『仮面ライダー』作品に登場する天野浩成。自身の命を絶つことで自分を裏切った人に復讐を果たすことにしたという宮内を演じる天野の独白は、胸が締め付けるような苦しみがにじみ出ていた。
マフユ役の向井葉月はセンシティブな難役を体当たりで熱演。怯えたような表情や全てを拒絶するキツイ口調は、乃木坂46でキュートな魅力を振りまいている彼女からは想像できないピリピリとした空気感が客席まで伝わってきた。
ケイタ役には8歳でミュージカル『王様と私』でデビュー後、得意の歌とダンスを生かしスタンダードから2.5次元まで多くの作品に引っ張りだこの古賀瑠。口数は少ないものの哀愁漂う笑顔や身を縮めるような佇まいで10代の少年の繊細さや孤独感を表現していた。
フジシロ役を演じるお笑いコンビ「天津」の向清太朗は「ロン毛」「バンダナ」「チェックシャツ」「指無しグローブ」というステレオタイプのオタク・スタイルや場の空気を読まない飄々とした口調で、ほかの4人とは違う温度差で芝居をかき回し、シリアスな場面に笑いをもたらす役をコミカルに演じる。
そして、孝次郎を罠にはめる謎の男・杉田役には多くの舞台やドラマで活躍するベテラン迫英雄をキャスティングするなど、バラエティに富んだ実力派俳優を配して挑むノンストップサスペンスとなっている。
物語は、二村孝次郎(髙橋)と親友の大塚修平(近藤)が裏カジノに向かうところから始まる。ディーラーの目を盗み早業でカードをすり替えて一攫千金大成功!――と思ったのもつかの間、彼らを手引きした謎の男・杉田(迫)の裏切りによってイカサマが裏カジノのオーナー・カシワギ(山口)にバレてしまう。
修平を人質に取られた孝次郎は「5日で300万円を支払う」という条件を突きつけられるが、無職で実家も裕福ではない彼が短期間で大金を集める方法はなく、代わりに人間の眼球を収集して売買する案をカシワギに持ちかけるのだった。
死体を探して自殺名所の樹海を彷徨うものの簡単に見つかるはずもなく、刻一刻とタイムリミットが近づいてくる。窮地に追い込まれた孝次郎はネットで集団自殺志願者と連絡を取り合い、死亡した彼らから眼球を取り出す計画を立てる。集団自殺の発起人・宮内(天野)、マフユ(向井)、ケイタ(古賀)、フジシロ(向)と合流し、廃墟へと向かう孝次郎。しかし、そこにはさらなる最悪の罠が待ち受けていた・・・。
パチンコやギャンブルで日銭を稼ぎ、毎日面白おかしく過ごしていた若者が、ある日突然陥った地獄。悪ぶっていても心底“ワル”になり切れない孝次郎を、高橋が粗削りながら熱量にあふれる芝居でキャラクターの輪郭を創り上げていく。
髙橋にとって初めての主演作品、主人公の目線で語られる膨大な台詞に加え、最初から最後までほぼ出ずっぱりというギリギリの緊張感の中、次第に精悍さを増して目をギラつかせる高橋の表情と、親友の命を救うためになりふりかまわず奔走する孝次郎の姿とがリンクし、観る者をグイグイと引き込む魅力に溢れていた。
そんな孝次郎を追い詰めるカシワギを演じる山口の“イッてしまっている芝居”は、本作において重要なファクター。許しを請う孝次郎の髪を掴み、バタフライナイフを片手に容赦なくののしり、自身に向けられる反抗的な視線に対して笑顔を浮かべながらさらなる地獄へと突き落とす。絶対的なヒールとしてカシワギが大きな存在であればあるほど、ちっぽけな蟻のような存在の孝次郎が、最後の瞬間まで目を離せない、手に汗握るドンデン返しの連続の中で“あがく”様子が際立っていた。
舞台『蟻地獄』は、2021年6月4日(金)から6月10日(木)まで東京・よみうり大手町ホールにて上演。上演時間は約2時間15分(休憩なし)。
なお、髙橋は公演期間中の6月8日(火)に21歳の誕生日を迎える。当日の13:00公演と18:00公演では髙橋のバースデーカーテンコールが行われるほか、6月9日(水)14:00公演の終演後に原作・脚本・演出の板倉俊之とメインキャストと板倉俊之が登壇するスペシャルアフタートーク、6月10日(木)13:00公演の千秋楽公演後には原作・脚本・演出の板倉俊之が登場するスペシャルカーテンコールの開催が決定。
また、6月9日(水)18:30と、6月10日(木)13:00の公演はPIA LIVE STREAMにてオンライン生配信も行われる(※6月13日23:59までアーカイブ配信視聴可能)。
視聴先:PIA LIVE STREAM
(取材・文・撮影/近藤明子)
『蟻地獄』公演情報
上演スケジュール
2021年6月4日(金)~6月10日(木) 東京・よみうり大手町ホール
スタッフ・キャスト
【原作】板倉俊之「蟻地獄」(単行本:リトルモア/文庫本:新潮社)
【脚本・演出】板倉俊之
【出演】
髙橋祐理 天野浩成 向井葉月 古賀瑠 向清太朗 佐藤恵一(プロレスラー/エスワン) 安川里奈 中野裕斗 三木美加子
近藤廉 迫英雄
山口大地
<アンサンブル>
ヒラノショウダイ 富山バラハス 古家由依
配信情報
6月9日(水)18:30
※6月9日(水)14:00終演後に行われるスペシャルトークショーの収録映像付き
6月10日(木)13:00
※スペシャルカーテンコールまでしっかりお届け
【アーカイブ配信】
いずれの配信も6月13日(日)23:59までアーカイブ配信が視聴可能
【チケット料金(税込)】
パンフレット付き配信視聴チケット:5,000円
※別途決済時パンフレット発送料770円発生
一般配信視聴チケット:3,500円
【チケット販売期間】6月13日(日)21:00まで
視聴先:PIA LIVE STREAM
【公式サイト】https://arijigoku-stage.com/
【公式Twitter】@arijigoku_st
(C) 板倉俊之/SET