2021年1月16日(土)に神奈川・KAAT神奈川芸術劇場<大スタジオ>にて『アーリントン』〔ラブ・ストーリー〕が開幕した。本作は、2018年に上演された『バリーターク』(主演:草なぎ剛)の作者でもあるアイルランド生まれの劇作家・脚本家エンダ・ウォルシュの作品で、これが日本初演。演出を白井晃が手掛け、南沢奈央、平埜生成、入手杏奈が管理社会の恐怖と、そこに生まれる小さなラブ・ストーリーを見せる。
なお、本作は当初昨年4月の上演を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響による政府の「緊急事態宣言」の発令に基づき公演中止に。その後、改めて2021年1月に延期を決め、上演を行う運びとなった。
物語の舞台は、時も場所もわからない、ある待合室の中。そこで自分の名前が呼ばれるのを待つ若い女アイーラと、隣の部屋でモニター越しにアイーラを見ている“若い男”。アイーラは、そこでずっと自分の番号が呼ばれるのを待っている。モニター越しに隣の部屋からアイーラを見ている“若い男”は、今日初めてそこへ仕事にやって来た。壁を隔てて、2人の心が静かに揺れる。やがてアイーラは自分の運命を知る。そして彼女の番号がきた時、男はとほうもない決断をする・・・。
ウォルシュが「人間の魂と、耐える力への頌歌(しょうか)」と語った、不思議でいとおしいラブ・ストーリーを、主人公アイーラを演じる南沢と、若い男を演じる平埜、そして、重要な役どころを担うダンサー・振付家の入手が、丁寧に紐解いていく。
コロナ禍で管理社会や抑圧のストレスに晒される今、本作の描く理不尽な社会と、それでも生まれる人間的な感情や忘れられない記憶の物語。人間の力を改めて知ることができる作品と言えるだろう。
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『アーリントン』〔ラブ・ストーリー〕は、1月31日(日)まで神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場 <大スタジオ>にて上演。上演時間は約2時間を予定。
コメント紹介
◆白井晃(演出)
2020年4月に新型コロナウィルス感染拡大を受けて中止になった本作が、改めて上演の機会を作れたことに心から喜びを感じています。私にとってエンダ・ウォルシュほど刺激的な作家はいません。『バリーターク』を上演したのが3年前。その不条理かつ摩訶不思議な世界に魅せられ、彼の作品の虜になりました。人間存在の不確かさに対する不安と、その恐れに対する優しいまなざし。『アーリントン』の舞台となる密室の中には今という世界があります。孤立主義、全体主義の風潮が蔓延する中、人々は異質なものを排除しようとする。監視者と被監視者のいる部屋の存在は、あたかもこの間大きく変化してしまった世界を予見したかのようです。 そして、そんな世界に生まれた小さなラブ・ストーリーにこの上ない愛おしさを覚えるのです。
公演情報
KAAT 神奈川芸術劇場プロデュース『アーリントン』〔ラブ・ストーリー〕
2021年1月16日(土)~1月31日(日) KAAT 神奈川芸術劇場 <大スタジオ>
【作】エンダ・ウォルシュ
【翻訳】小宮山智津子
【演出】白井晃
【出演】南沢奈央 平埜生成 入手杏奈
【声の出演】川平慈英 霧矢大夢 那須佐代子 伊達暁
チケット情報など:https://enterstage.jp/wp/database/2021/01/80570.html
(撮影/岡千里)