2020年11月から12月にかけて上演されるKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オレステスとピュラデス』の出演者が発表され、鈴木仁、濱田龍臣、趣里、大鶴義丹、内田淳子、高山のえみ、中上サツキ、前原麻希、川飛舞花、大久保祥太郎、武居卓、猪俣三四郎、天宮良、外山誠二らが出演することが分かった。本作は『オイディプス REXXX』『グリークス』に続く、杉原邦生のギリシャ悲劇シリーズ最終章で、二人の青年の旅路を描く、スリリングで壮大な“ロードムービーとなっている。
若手演出家のトップランナー杉原邦生は、2016年『ルーツ』(脚本:松井周)を皮切りに、KAAT白井晃芸術監督の委嘱で数々の話題作を発表、特に、2018年以降はギリシャ悲劇の上演に果敢に取り組んできた。2018年『オイディプスREXXX』(オイディプス王)では、3名のメイン俳優がコロス以外の8役を演じ分けるという、ギリシャ悲劇が演じられた当時のスタイルに則った上演が話題を呼び、さらにコロスの歌をラップに変換するなど斬新なアイデアの数々を見せた。2019年には、上演時間10時間に及ぶ大作『グリークス』に挑み、トロイ戦争をめぐり人間の愛憎が渦巻く17年間の壮大な絵巻物を、スピーディーかつスタイリッシュに描き出し、こちらも話題になった。
そして2020年、そんな杉原がギリシャ悲劇シリーズの最終として新たな挑戦に挑むことに。『グリークス』で物語の主軸となったトロイ戦争において、ギリシャ軍の総大将であったアガメムノン。その息子オレステスが、太陽神アポロンの信託を受け、姉エレクトラと従兄弟で親友のピュラデスの力を借り、母親殺しを行った後の「失われた」(現存していない)物語を創造していく。
オレステスは母親殺害直後より、復讐の女神たちの呪いに苛まれ、その呪縛から解放されるべく、再びアポロンの神託に従い、ピュラデスとともに遠いタウリケに向かう旅に出かけ、そして、ようやく辿り着いたタウリケで、死んだはずのオレステスのもう一人の姉イピゲネイアに出会うという結末を迎るが、二人の道中についての物語は現存していない。そんな二人の空白の時間、その時の二人の想いに興味を持ち想像を巡らせ、この二人の若者の物語を新たなギリシャ悲劇として現代に蘇らせる。
二人の若者の冒険と成長を描いた“ロードムービー”的ギリシャ悲劇の創作。この意欲的なギリシャ悲劇の翻案創作を委嘱したのは、今、最も次回作が期待されている劇作家・演出家
の瀬戸山美咲だ。「オレステスとピュラデスという二人のキャラクターを軸に新たな作品を創りたい」という杉原の想いを受けとめ、「オレステスとピュラデスの“空白の時間”を考えたい。新しいギリシャ悲劇を書くという壮大な挑戦をしたい」と意気込みを語っている。
そんな注目作に、若手注目株の鈴木仁と濱田龍臣、そして、趣里・大鶴義丹ら個性豊かなキャストが出演することに。鈴木はオレステスを務め、濱田がピュラデスを演じる。ギリシャ劇では英雄や超人的な人物が主人公になることが多い中、オレステスもピュラデスもどこか普通の青年らしさを感じさせるキャラクターで、「その普通さが新たなギリシャ悲劇を創作する突破口になると思った」という杉原は、「鈴木仁の真っ直ぐさと透明感、濱田龍臣の素朴さと柔らかさ、そして若き青年たちから匂い立つ刹那的な危うさこそがこの物語に必要」と語っている。
以下、杉原のコメント全文を紹介。
◆杉原邦生
誰も観たことのない新しいギリシャ悲劇をつくりたい。2018年『オイディプス REXXX』、翌2019年『グリークス』と、二つのギリシャ悲劇を創作する中で、この想いが揺るぎないものになっていきました。その理由は何よりも、僕自身が日増しにギリシャ悲劇に深く魅せられていったからに他なりません。そして、ギリシャ悲劇がまさに〈演劇〉の原点であるという絶対的事実を、身を以て感じたからです。
今回の物語は、オレステスとピュラデスという二人の青年のロードムービーです。自らの手で母を殺したオレステスと、その殺しの手助けをしたピュラデス。彼らは幼い頃から共に育てられた従兄弟同士であり、親友であり、愛情という固い絆で結ばれています。そんな二人がアポロンの神託を受け、オレステスの罪を償うため、ギリシャはアルゴスから遠いタウリケを目指すその道中を描きます。彼らが旅のなかで、だれと出会い、なにを見て、どんな想いを巡らせていったのか。未だ見ぬ彼らの物語を、古代ギリシャ劇の構造や文脈を踏まえながら、瀬戸山美咲さんとともに〈新しいギリシャ悲劇〉として立ち上げていきたいと思っています。そして、演劇の原点に立ち戻り、そこからまた新たな演劇を生み出すというこの創作こそ、いま、演劇の《再生》を宣言するものになると確信しています。
◆公演情報
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オレステスとピュラデス』
2020年11月28日(土)〜12月13日(日) KAAT神奈川芸術劇場<ホール>にて上演
【作】瀬戸山美咲
【演出】杉原邦生
【出演】
鈴木仁、濱田龍臣、
趣里、大鶴義丹、
内田淳子、高山のえみ、中上サツキ、前原麻希、川飛舞花、
大久保祥太郎、武居卓、猪俣三四郎、天宮良、外山誠二