2019年8月21日(水)より日本橋・三越劇場にて、舞台『上にいきたくないデパート』が開幕した。本作は、金曜ナイトドラマ『私のおじさん~WATAOJI~』(テレビ朝日)など、ドラマのメイン脚本も手がける新進気鋭の若手クリエイター・岸本鮎佳が脚本・演出を手がけるデパートを舞台とした群像喜劇。デパートのコンシェルジュを主人公とし、そこで働く人々の人間模様と八方美人な性格のコンシェルジュがトラブルに巻き込まれる様を実際の日本橋・三越本店の中にある三越劇場で描く。本記事では初日前に行われた公開ゲネプロの模様をレポートする。
主演は、元お笑い芸人で現在は俳優として活躍する今野浩喜。今野は、これが舞台初主演となる。さらに、舞台『刀剣乱舞』など数々の人気作に出演する猪野広樹、『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』などに出演した注目若手俳優の小松準弥、舞台『LADY OUT LAW!』で主演を務め、ドラマでも活躍する矢島舞美(元℃-ute)が出演。
さらに、舞台『少女革命ウテナ』などに出演し、2018年に乃木坂46を卒業した能條愛未、『おそ松さん on STAGE』などで人気を博す和合真一、2.5次元ダンスライブ『S.Q.S(スケアステージ)』に出演の日向野祥、本作の企画・プロデュースも務める西丸優子、『崩壊シリーズ』など数々の舞台に出演する伊藤裕一が作品を彩る。
そのほかにも、劇団そとばこまち出身の演技派女優みやなおこ、独特な存在感からジャンルを問わず活躍するモロ師岡、岸本が作・演出を務める演劇ユニット「艶∞ポリス」のレギュラーメンバーとなっている谷戸亮太、奥村佳代とバラエティ豊かな面々が顔をそろえている。
物語は、成富百貨店の上客・松金綾乃(岸本)が購入した商品の不備を訴えに乗り込んでくるところから始まる。松金の担当外商・海老沢弘樹(小松)が慌てる中、以前に松金を担当していた外商・神山樹(猪野)とコンシェルジュ・小木曽茂(今野)の対応により丸く収まりかけるが、海老沢の余計な一言により、松金は返金をしなければ成富百貨店に二度と来ないと言い放つ。
一方、小木曽は部長の中曽根聡(モロ師岡)に呼び出され、部長昇進への推薦に小木曽を考えていることを告げられる。八方美人で平穏な日々を望んでいた小木曽はなんとか自身の昇進を阻止しようと考える。そんな時、松金の返金対応を巡って、神山とアパレルの店長・真壁凜子(矢島)が対立し、小木曽も彼らのトラブルに巻き込まれて行く・・・。
人当たりがよく、誰からも好かれるデパートの「案内人」である主人公が自分の昇進を阻止しようと奮闘するが、阻止どころか次々と事態が好転。なぜか他人の人間関係にも巻き込まれてしまう小木曽の姿を滑稽に描き、OL・サラリーマン・主婦・学生など、すべての”嫌われないようについ愛想笑いをしてしまう”人々に送る、痛快・群像会話劇となっている。
自分の思いとは裏腹に物事が好転してしまい困惑する小木曽を、舞台初主演の今野が好演。小木曽の妄想シーンでの数々の笑いや、八方美人な性格が変化を見せていく様は必見だ。
そして、イケメンで仕事ができる完璧人間の神山という役柄を逆手に取ったネタで笑いを取る猪野と、空回りばかりしてしまう海老沢を演じてオフビートな笑いをもたらす小松、テナントの店長として顧客・デパート・店の従業員の間でゆれる大人な女性を、矢島が丁寧に表現。働く人たちの苦悩とその先の思いも見せながら物語を盛り上げる。
彼らだけでなく、演者たちによる一癖も二癖もあるデパートの関係者たちが織りなすドラマが、日本橋・三越本店の中にある劇場での上演ということもあり、「デパートの裏側にはこんな物語が本当にあるのでは?」と思わせる楽しい舞台となっている。
そして、エンタメジャズバンドのCalmera(カルメラ)が本作を全編にわたってジャズの生演奏で彩る。年間200本近くものライブをこなす実力派バンドが書き下ろしのメインテーマに加え、これまでに音源化されている曲も演奏。デパートの高級でお洒落な雰囲気を生演奏で演出している。また、演者たちがバンドをいじったり、逆にCalmeraが物語にさりげなく絡んできたりと単なるバックバンドにとどまらないところも見どころ。
軽快なジャズの生演奏と笑いと共にデパートで働く人々の人間模様が三越劇場だからこその物語として繰り広げられ、新たな音楽×会話劇が生み出されている。
舞台『上にいきたくないデパート』は、8月21日(水)から8月29日(木)まで東京・三越劇場にて上演。上演時間は、約1時間50分(休憩なし)を予定。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)