“5人の女たち”が時代を越えて交差するサスペンスコメディ。舞台『フローズン・ビーチ』が7月12日(金)より上演される。それに先駆けて、公開稽古と囲み会見がおこなわれた。
『フローズン・ビーチ』は、1998年にKERAの作・演出で、劇団ナイロン100℃が初演した作品であり、同作は第43回岸田國士戯曲賞を受賞。今回は、KERAの作品をさまざまな演出家が上演する新シリーズ“KERA CROSS(ケラクロス)”の第1弾として、鈴木裕美が演出を担当する。
公開シーンは、<第一場>。1987年、夏のある日の深夜。大西洋とカリブ海の間に浮かぶリゾート・アイランドにある別荘に、女たちが集う。そこは、双子の姉妹・萌と愛(花乃まりあ二役)の父親が所有する建物。そこに、旧友の千津(鈴木杏)が、親友の市子(ブルゾンちえみ)とともにバカンスにきていた。
資産家の娘・愛と、気遣い屋の千津、マイペースで個性的な市子、病弱で部屋で寝ている萌、と性格の違う4人。同世代の女性たちだけで楽しく過ごす夏休みかと思いきや・・・。
そこに、双子の継母・咲恵(シルビア・グラブ)が、予定より早く旅行先から帰ってくる。盲目の咲恵は明るくあっけらかんとした性格だが、咲恵のせいで母が自殺したと思っている愛は不快さを隠さない。そんな攻撃的な愛に対し、咲恵は「愛ちゃんワインくれる?」とあっけらかんとしたもの。さらに冗談を飛ばしながら大きな声で笑うが、愛はぶすっと動かない・・・そんな険悪な二人の間に挟まれる、千津と市子。
咲恵役のシルビアは自身の役を「基本は楽観的で、笑っている。明るい方に持っていこうとしているオトボケキャラ。楽観的なのは、目が見えないからかも?」と分析。たしかに、どんな場面でも相手と睨み合ったりしないことで、場の雰囲気をすこし軽くしているように見えた。
居合わせた二人が対照的だ。千津は気をつかいすぎてオドオドし、痛々しさが際立つ。演じる鈴木杏は「(千津は)小者。自分の器以上の思いが溢れて、空回りしている。それがいじらしい一面でもある」とコメント。言葉のとおり、場を和まそうと明るく振る舞うけれど、ちょっとキツく言われるとしゅんとしてしまう。上目遣いの鈴木の目が不安そうに動くので、見ているこちらもいたたまれなくなってしまう。
ブルゾンちえみ演じる市子は対照的で、困ったような態度をとりながらも実際には困ってない様子。なんだかんだ楽しそうに過ごしている。むしろ陽気な市子がいてくれることでほっとする。けれども、この市子がとても曲者で・・・。
ブルゾン本人は「ちょっとわけがわからない。論理的でなく、本能で動いている女性だな」と最初は役にとまどったそうだ。しかし、稽古を重ねるうちに「憎めないんじゃないかな?可愛い性格なんじゃないかな?と、愛着が湧いてきました」と役との距離が近くなってきたことを語る。初舞台ということもあり緊張も感じているようだが「この役を活かしきれるようにがんばらなきゃな」と意気込みを語った。
双子の二役を演じる花乃まりあは、急きょ代役として遅れて稽古に参加した。しかしその時間差は感じさせず、咲恵に笑って流されても、どんどん険悪な発言を切り込んでいく。「愛は、周りのキャラが強烈すぎて(自分の)運びたいふうに運べない、惜しい人。お客さんに『やれやれ楽しいな』と思ってもらえたら」と見どころを明かした。
また、今回の公開稽古では登場しなかった病弱な姉・萌の性格は「開き直りの強さ、可愛らしさがある」とのこと。どんな演じ分けになるのか、本番が楽しみだ。
まったく個性の違う4人がそこにいるだけで、スリリングだ。台詞そのものが軽快でおもしろいので、彼女たちの会話を楽しんでいるうちにふと、これからどうなるのだろうか、と興味をそそられ、引き込まれていく。
KERA作品に2度出演経験のある鈴木杏は「KERAさんの本はやっぱり難しい。いくら稽古しても稽古できちゃう。やろうと思えばいくらでも詰め込める」とその奥行きのある脚本を読み込むことへの好奇心を覗かせた。
演出の鈴木裕美は「誰かが誰かを殺そうと思ったりもする。でも、救ったり救われたりもする不思議な本。まずは出演者4人がおもしろいので、4人のファンなら観てほしい」と見どころを説明した。
鈴木杏がブルゾンについて「すごくおもしろい。真剣にやるほどおもしろい。笑っちゃって稽古にならない瞬間がある」と話すと、キャスト全員が何度も頷き、和気あいあいとした現場の空気が伝わってきた。それに対しブルゾン本人は「もともとKERAさんの本がおもしろいからですよ」と謙遜した。
個性豊かな登場人物らが集まる舞台だが、出演者4人はどうやら「似ている」らしい。演出の鈴木は「みんな頭が良くて、他人を受け入れる。そして『おもしろくするためなら何でもやります!』という気持ちがありますね」と共通点をあげる。作品をより良くするために邁進する風通しのよい現場だということは、一体感のある会見の雰囲気からも感じられた。
鈴木の演出については「何でも受け止めてくださる」と花乃。またシルビアは「自分(俳優)が読むより深く考えてる」と、信頼感を見せる。また、初めて舞台演出家の仕事に触れたブルゾンは「日々、はぁ~なるほどね〜。演出っていう仕事はそういうところまで気づく仕事なのか~」とその奥深さを新鮮に感じているようだ。
とても人気のある作品を演出するプレッシャーは大きいだろうが「やっとKERAさんや、ファンの方や、初演を観た方の呪縛のようなものから抜け、自分達の『フローズン・ビーチ』になってきました」と手応えを見せた。KERA自身も「女性ばかりの芝居を女性が演出すると、僕にはわからない色々な女性像が見えてくるんじゃないんでしょうか」と期待を寄せており、この座組によってどんな舞台ができあがるのか、迫る本番が楽しみで仕方ない!
KERA CROSS第一弾『フローズン・ビーチ』は、以下の日程で上演される。
【神奈川・橋本プレビュー公演】7月12日(金)~7月14日(日) 杜のホールはしもと・ホール
【新潟公演】7月25 日(木) 長岡市立劇場 大ホール
【福島公演】7月28 日(日) いわき芸術文化交流館アリオス 大ホール
【東京公演】7月31日(水)~8月11日(日) シアタークリエ
【大阪公演】8月16日(金)~8月18日(日) 大阪・サンケイホールブリーゼ
【静岡公演】8月21日(水) 静岡市清水文化会館マリナート
【愛知公演】8月23日(金) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【高知公演】8月28日(水) 須崎市立市民文化会館 大ホール
【高松公演】8月31日(土) レクザムホール(香川県県民ホール)小ホール
(取材・文・撮影/河野桃子)