2019年7月6日(土)に舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~がいよいよ開幕。高橋よしひろが漫画(「週刊少年ジャンプ」/集英社)として描いた熊と戦う犬(おとこ)たちの熱き姿を、演劇として表現する。「“獣”たちの生き様を俳優の肉体を通して表現する」ということに、ビジュアル撮影時からこだわっていた本作。実際の稽古では、どのように表現を追求しているのか――その現場を取材した。
取材日に行われていたのは、振付と物語中盤シーンの動線確認。主人公・銀(佐奈宏紀)とリキ(坂元健児)の再会、打倒赤カブトを掲げる奥羽軍を鼓舞するベン(郷本直也)、リキと相対し圧倒されるジョン(安里勇哉)など、複数のシーンで試行錯誤が行われていた。稽古場には、脚本・演出の丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)のほか、振付を担当する辻本知彦の姿も。そして生み出される動きは・・・想像以上に獣的!
ミュージカルと銘打たれてはいないが、本作には音楽と歌がふんだんに使われており、信念を貫く戦いを、エモーショナルに彩る。さらに、そこに複雑な身体表現が加わるため、俳優たちに求められる条件はなかなかに過酷。限られた時間の中でより良いものを仕上げようとする俳優たちの目は、稽古時間中、常にギラギラと輝いていた。
その中心に立つ佐奈。佐奈というと何でもひょうひょうとこなしていくイメージがあったが、汗だくになりながらもがく姿を隠していなかった。より銀の心情を、深く表現できるようにと考えを巡らせる。一方で、辻本に振付の指導を受ける表情はとても無垢。
わずかな休憩中、談笑していた赤虎役の赤澤遼太郎と取材カメラにかわいい表情を向けてくれるサービス精神旺盛な佐奈らしさも忘れない。現在22歳の佐奈は、役者としてまだまだ伸び盛り。きっと銀と共に、公演を通してまた一回り成長した姿を見せてくれることだろう。
複雑な創作が進む稽古場だが、郷本は常に明るさを持って周囲を引っ張る。強烈なリーダーシップをとるわけではないのだが、スミス役の塩田康平、ハイエナ役の尾関陸、中虎役の岩城直弥、黒虎役の松井遥己らとコミュニケーションを取りながら、一つの場面を自らの元へ集約していく姿からは、郷本の俳優としてのキャリア成熟が感じられた。
奥羽軍が集まるシーンを、ぜひ楽しみにしていてほしい。高低差のある舞台セットの上から、役者たちはバンバン飛ぶし、激しく踊るし、遠吠えで呼応する。激しい動きを伴うが、モス役の千代田信一の申告で、セットに登りやすいよう段差が足されるなど、常に安全を確認しながら、山を駆ける犬たちの躍動感を、一丸となって迫力ある場面へと仕上げていた。
安里は、坂元とのデュエットシーンを入念に繰り返していた。当日に、新しくアレンジされた音楽が稽古場に到着したということもあり、歌い出しの部分を何度もチェック。そして、坂元の歌声の持つ力は、もう誰もが知るところだろう。鼻歌ですら、なぜこんなにも耳と心に届くのかと思わず聞き入ってしまう。
おもしろかったのが、段取りの確認のためさらっとシーンを通す場面。あくまでも全力ではないのだが、坂元の豊かな表現に引っ張られ、安里の歌声にもどんどん力が増していくのだ。安里だけではない。佐奈も、奥羽軍を演じる俳優陣の芝居や歌にも、坂元が登場するたびに引っ張られるように熱を高めていく。背中を見せるとは、こういうことなのだと感じる場面だった。
取材した時間には、甲賀忍犬の黒邪鬼(北代高士)や伊賀忍犬の赤目(荒木宏文)が登場するシーンはなかったが、彼らもこの濃密な空間の中で、個々に役を高めていることだろう。本番が楽しみだ。
本作を、擬人化作品と捉える人もいるかもしれない。しかし、丸尾と辻本がこだわっていたのは、あくまでも「犬」たちのドラマであり、“獣”が動く舞台であること。稽古場でイメージを膨らませ、言葉で伝え、頭の中のイメージを共有していく。俳優たちからも立ち位置の提案があったり、空き時間に自主練が始まったり、あちこちで同時多発的に作品として組み上げていく様は、非常にクリエイティブだった。
ちなみに、休憩のため稽古場の外に出た際、通りかかった男性が連れていた犬に思わず話しかけてしまう俳優たちの姿も見られた。どうやら親近感が湧いてしまうらしい。
舞台「銀牙 -流れ星 銀-」~絆編~は、7月6日(土)から7月15日(月・祝)まで東京・天王洲 銀河劇場にて、7月20日(土)・7月21日(日)に神戸・AiiA 2.5 Theater Kobeにて上演される。
【公式HP】https://www.ginga-stage.com/
【公式Twitter】@stage_ginga
※辻本知彦の「辻」は1点しんにょうが正式表記
(C)高橋よしひろ/集英社・舞台「銀牙 -流れ星 銀-」
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)