『良い子はみんなご褒美がもらえる』が、2019年4月20日(土)に東京・TBS 赤坂ACTシアターにて開幕した。本作は、舞台『アルカディア』、映画『恋に落ちたシェークスピア』など、日本でも人気の高い英国の劇作家トム・ストッパードが“俳優とオーケストラのために書き下ろした”作品。初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、W主演の堤真一と橋本良亮(A.B.C-Z)、小手伸也、シム・ウンギョン、外山誠二、斎藤由貴、演出のウィル・タケットの7名が登壇した。
開幕に迎えるにあたり、タケットは「この作品は世界で上演されるのは今回で3回目。素晴らしいトム・ストッパードの戯曲とアンドレ・プレヴィンの音楽、そして様々なパフォーマンスが組み合わさった作品となっています。かなり政治的でありながらおもしろく、世界共通に伝わる実に優れた作品です」と力強く語った。
「少しでもいい作品にしていきたい」という堤に、橋本も「このメンバー、アンサンブルの皆さん、オーケストラ35人、みんなで力を合わせてがんばっていきたいです」と続く。
本作の最大の見どころは、オーケストラ35人が舞台上で演奏し、俳優と共演することだ。珍しい形式のため、外山は「オーケストラは大変なパワーがありますので、それに負けないようにしなければ」と感じたという。
小手も「このような経験は初めて」と言い、「音楽劇でもなくミュージカルでもない、オーケストラが一つの装置であり、共演者でもあるというのはすごく刺激的です。僕も劇中で何度かオーケストラに混ざって一緒にバイオリンを弾くのですが、そういう意味でも本当に貴重な経験をさせていただいていますし、滅多に観られない演劇体験を皆さんにお届けできるのではないかという自信があります」と今までにない感覚を抱いている様子だった。
斎藤は「ボーカルとして歌を歌うわけではないですけれども、一つの意思や命を持ってオーケストラ全部で感情を歌のように表現する、そんな風に私は感じて素晴らしい経験をしています」と表現。シムも「音楽が素晴らしいです。音楽があることで役に気持ちを乗せられます。(お客様にとっても)すごく楽しい経験だと思います」。
橋本が演じる役は、“自分はオーケストラを連れている”という妄想に囚われた男。オーケストラとの稽古が2日間だけだったため、焦りを感じたそうだが、「オーケストラは実際にはお客様にも見えているわけですから、それをどう芝居に活かせるかと毎日考えています。毎日オーケストラの音を聞いて気持ち良くなったりしてきたので、すごく楽しみです」と、本番での“セッション”を心待ちにしているようだ。
海外演出家との作品づくりを多く経験している堤は、タケットについて「今までで一番よくしゃべる演出家で楽しい人です。稽古場を和ませてくれますし、芝居の部分でも細かく根気よく付き合ってくださいます。(橋本に向けて)こんなに丁寧に付き合ってくれる演出家に会ったこと、まだないでしょ?ただ、イギリスで話題のジョークを言うのですが、通訳されても訳が分からない。通訳する人がかわいそう(笑)」と言うと、タケットは大笑い。
橋本は「英語と日本語だと感情のやり取りが分からないので、言葉の壁が難しかったです。でもウィルさんが僕のことを信じてくれて、最後まで引っ張ってくれました」と感謝の気持ちを伝え、作品タイトルにちなみ、「舞台が終わってから、ウィルさんのお褒めの言葉が欲しいです」と“ごほうび”をリクエストしていた。
W主演の堤と橋本は、本作の前に映画『決算!忠臣蔵』で一緒になり、本作の話をしたという。その際のエピソードとして、堤が「撮影の時に一緒に飲みながら、今回の作品は難しい役だから大変だという話をしたら(橋本が)泣き出して。ホテルに戻っても、僕の部屋に入ってきて『がんばりますから!」と言ってきたんですよ。『まだ飲む気なのかな?』と思っていたら、急に『帰ります!』と言い出して・・・大丈夫かな、コイツと思いました(笑)」と暴露。それを受け、橋本は「ご心配をおかけしました・・・!」と少々恥ずかしそうにしていた。
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物語の舞台は、ソビエトと思われる独裁国家の精神病院の一室。政治犯として送りこまれた2人のアレクサンドル・イワノフ(堤と橋本の役名が同性同名のため、以下、堤の役をアレクサンドル、橋本をイワノフとする)。自身がオーケストラを引き連れていると信じて疑わないイワノフ(橋本)は、同部屋となったアレクサンドル(堤)に対して、思い通りに演奏をしないオーケストラへのいら立ちや、どんな楽器を演奏できるのかと執拗に質問する。訳の分からないことを言うイワノフを呆然と眺めるアレクサンドルは「楽器は演奏しない!」と言いながら絶望的な表情を見せる。滑稽なほど自分を信じて疑わない楽観的なイワノフの表情とは対照的だ。
そんな二人を治療する医師(小手)は、一見何でも話を聞いてくれそうな明るい雰囲気を持ちながらも、医師としての使命より自分自身を守ることに一生懸命な人間性を醸し出している。「私は病気ではない。意見を持っているだけだ」と言うアレクサンドルに対し、「その意見が病気なんです」と諭すところは、一つのことを信じ込まされる社会の恐ろしさを醸す。アレクサンドルの息子であるサーシャ(シム)を教育する教師(斎藤)も同様で、うつろな表情でサーシャに対して何かを刷り込む教師の姿に寒いものを感じた。
それぞれの会話の合間に演奏されるオーケストラの存在が、思っていた以上にインパクトがあった。登場人物の感情やシーンごとの状況を音楽で上手く表現しているため、話の中により一層深く入っていくことができる。出演者がオーケストラの団員たちの横を歩き回り、最後に大佐(外山)が登場する時には、オーケストラ団員が全員起立して迎えるなど“俳優とオーケストラ”の共演とは、こういうことかと思わせる演出だった。
アレクサンドルとイワノフがどうなるのか、観る人によって解釈は異なるだろう。濃密なストレートプレイの中で、何を感じるか。『良い子はみんなご褒美がもらえる』というタイトルが示す意味と、それぞれの心に落ちる感情を噛み締めてほしい作品だ。
『良い子はみんなご褒美がもらえる』は5月7日(火)まで東京・TBS赤坂ACTシアターにて、5月11日(土)・5月12日(日)まで大阪・フェスティバルホールで上演。上演時間は約75分(休憩なし)を予定。
【公式HP】http://www.parco-play.com/s/program/egbdf2019/
(取材・文・撮影/咲田真菜)