世界三大喜劇王の一人として知られるチャールズ・チャップリン主演映画の代表作『ライムライト』は、落ちぶれた道化師・カルヴェロと美しいバレリーナ・テリーの恋物語を描いた作品だ。2015年に音楽劇『ライムライト』として日本で初演、石丸幹二がカルヴェロを好演し話題となった。チャップリン生誕130年の今年、待望の再演が決定。2019年4月9日(火)に東京・シアタークリエで初日を迎えた。その公演の模様をレポートする。
今回の再演では、石丸がカルヴェロ役に再び挑戦。さらに、テリー役として実咲凜音(初演は野々すみ花)、テリーに想いを寄せる作曲家・ネヴィル役として矢崎広(初演は良知真次)が参加。このほか、吉野圭吾、植本純米、保坂知寿、佐藤洋介、舞城のどかが出演。上演台本は大野裕之、音楽・編曲は荻野清子、演出は萩田浩一が手掛けている。
物語は、自殺を図ったテリーをカルヴェロが助け出し、自身の部屋で介抱するシーンから物語は始まる。映画を観たことがない人でも一度は耳にしたことがあるであろう『エターナリー』がオープニングで流れ、早くもセンチメンタルな気持ちに。心を頑なに閉ざすテリーをカルヴェロが時におどけながら親身になって励ましていくうちに、テリーは少しずつ生きる気力を取り戻していく・・・。
初演に引き続き、石丸は老いた道化師役を魅力的に演じきった。今となっては自分の居場所はないという自虐的な部分と、テリーを励ますために道化役に徹する姿には、胸が苦しくなるような切なさがある。酒に溺れ、ちゃらんぽらんに生きているように見えるカルヴェロだが、芯にある誠実さやテリーに対する愛情を、石丸は歌に乗せて丁寧に表現。
1幕ではほとんどベッドで横になっているテリー役の実咲は、2幕ではカルヴェロの励ましを胸に華麗なバレリーナ姿を取り戻していく。その輝かしい姿と相反して、落ちぶれていくカルヴェロの様子がなんとも悲しい。救いでもあり、より切なさを増していくのは、テリーのカルヴェロへの深い愛情が随所に見えるからだ。たとえ新進気鋭の作曲家ネヴィルに愛を告白されても揺るがない、カルヴェロへの想いを、実咲は真っ直ぐかつ純粋に表現していた。
ネヴィル役の矢崎は、テリーへの恋心を抑えられない一方で、カルヴェロとテリーの間にある誰にも引き裂けない絆を尊重する。その姿は、好青年そのもの。カルヴェロとはまた違った意味で切ない姿を、矢崎は情感たっぷりに演じていた。
落ち着いた照明と、カルヴェロとテリーを照らすひときわ明るい光。映画の持つ雰囲気と、第一次世界大戦へ突入していく暗い時代背景を、多くは語らずとも上手く表現していた。そして、カルヴェロが放つ一つ一つの言葉。観る人によって、きっと響く台詞は違うと思う。でも、誰もが心に一筋の光が灯るようなあたたかい気持ちで帰路につくことは、間違いないだろう。
音楽劇『ライムライト』は4月30日(土)まで、東京・シアタークリエで上演。上演時間は、一幕65分、休憩25分、2幕70分の計2時間40分を予定。
【公式HP】https://www.tohostage.com/limelight/
(取材・文・撮影/咲田真菜)