2019年3月29日(金)の開幕に向けて稽古が進む『BLUE/ORANGE』。2010年に初演され、出演していた成河が第18回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞するなどして評価された本作は、これが9年ぶりの再演となる。出演者は、前回も出演していた成河、千葉哲也が役を変え、新たに章平を迎えて上演。本番に向け、緊張感の高まる稽古場を取材した。
【あらすじ】
ロンドンの精神病院。境界性人格障害のために入院していたアフリカ系の青年クリストファー(章平)は、研修医ブルース(成河)による治療を終えて退院を迎えようとしている。しかしブルースには気がかりなことがあり、退院させるのは危険だと主張していた。上司のロバート医師(千葉)はそれに強く反対し、高圧的な態度で彼をなじる。納得のいかないブルースはクリスへの査定を続け、器に盛られたオレンジの色を問う。彼はそのオレンジを「青い」と答えた――。
取材日は、まずミーティングから始まった。『BLUE/ORANGE』の舞台は、精神病院の診察室。対面舞台となっている。台詞量が膨大なので、上演時間がどれくらいの長さになるか、試行錯誤。良いものになるよう、ギリギリまで挑戦し続ける姿勢を見せていた。
稽古は2幕からスタート。ここまで1幕に稽古を費やしてきたため「2幕をどんな展開にするのか、考えてきたプランを試してみたい」と、千葉は言った。
2幕の始まりは、ベテランの精神科医ロバート(千葉)と患者のクリストファー(章平)、探り合うような二人のシーンから。クリストファー役の章平は、千葉の出方を受け止めながら、感情の流れを確かめるように台詞を口にする。この場面に出演していない成河は、前のめりの姿勢で二人の応酬を見つめていた。
ある程度まで進むと、机を囲んでみんなが集まる。「この流れはありなんじゃないか?」「こういうふうにやってみたらどうだろう?」・・・互いに案を出し合い、流れを整理し、共有する。
章平が演じるクリストファーは、精神病の疑いのある役。突然激高したり、意味の通らないことを言ったりする。2010年にクリストファー役を演じた成河から「ここ良かったよ」「こういう考え方もあるんじゃないかな?」と声をかけられ、頷きながら耳を傾ける。
成河曰く「章平は真面目で、ちゃんとした演技ができる良い俳優。だからこそ、クリストファーという会話が成り立たない役を演じることに難しさを感じているのかもしれません。相手ときちんと会話をしようとするから」。章平もそれは自覚しているようで、真剣な表情で、台本を繰り返しめくっていた。
稽古は、1幕の冒頭に戻る。「どこまでやりますか?」という質問に、千葉がニヤリと笑い、「一幕の最後までやろう」と発言。成河が驚いて「全部ですか(笑)?!」と声をあげると、千葉は「やってみないと(感情や流れが)繋がるかどうか分からないから、通してみよう」と席を立った。
1幕冒頭は、精神病院から退院が決まったクリストファーに、若い研修医ブルース(成河)が懸念を抱いているシーンから始まる。退院を延長させるため、ブルースは上司であるロバート医師(千葉)を部屋に呼び、クリストファーの症状を鑑定してもらおうとするのだが・・・。
2幕で悩んでいた章平が、1幕は台詞も身体に馴染んでいるようで、生き生きと動き出す。思いきり癇癪をおこし、小馬鹿にしたように笑う。まともなことを言っているようで、次の感情が読めないクリストファーは、病気なのか?そうでないのか?分からないことが恐ろしく、しかし、時々キラリと輝く目に惹きつけられてしまう。
そもそも、今回の舞台が実現したのは章平の存在が大きかった。成河は、2018年の舞台『テイク・ミー・アウト2018』を観て、章平に惚れ込んだという。「彼がいなければ『BLUE/ORANGE』の再演はなかった。むしろ、彼の芝居を観たからこの作品をやろうという話になったんです」。
千葉も「成河が言うなら良いだろう、と、章平に会う前から出演を決めました」と言う。二人の言葉を聞いた章平は、照れとプレッシャーが混ざったような複雑な笑顔を浮かべていたが、劇場でその姿を見れば、成河と千葉の言葉にみんな納得するだろう。
成河が演じるブルースは、社会や患者を思う青臭さを持つ、若き研修医。「クリストファーを退院させるのは危険だ」と心配し、退院を熱望するクリストファーを説き伏せようとする。成河のキレが良く真っ直ぐな演技は、クリストファーとの間に生まれる、会話が伝わらないもどかしさを高い熱量で表現する。そして、常に本気で、理屈にのっとって、相手を説得しているかに見える。彼の正義感に共感するのは心地よい。だからこそ、正義感など皆無で支離滅裂なクリストファーや、腹に一物ありそうなロバートとのやりとりに興奮させられるのだ。
2010年の初演、千葉はブルース医師を演じていた。当時、ロバート医師を演じていたのは、故・中嶋しゅうだった。千葉と成河は、前回を振り返り「初演は人生4周したような男(ロバート)と、人生2周したような男(ブルース)のやりとりだった。今回は、人生を何周もしたような男と、初々しい青年医師という雰囲気」と違いを説明する。また、配役が変わったことだけでなく、翻訳の違いも初演との変化に影響している。今回の翻訳を担当した小川絵梨子が推敲を重ね、新たに翻訳したそうだ。
千葉の集中力はとても高く、感情の鋭さが漂う。今ここで起きている心の揺れは、リアルなのだと、ゾクリとさせられる。感情と脳みそが別々にフル回転しているような、集中と緊張。加えて、本心が読めないロバートの老獪さを魅力的に見せる色気が漂う。
互いの腹を探る会話。誰が真実で、誰が正義なのか・・・3人の主張は重ならない。そのうちに、権力や差別、偏見などをめぐる矛盾までも浮かび上がってくる。張りつめた空気に飲まれ、一挙手一投足に目を奪われ、いつの間にか前のめりで見入ってしまった。照明も衣裳もない稽古場で、これほどおもしろいとは。本番の完成度に期待が高まる。
1幕を通し終え、「疲れた~!」と腰を下ろした3人。まるで全力疾走したような疲れと快感が見てとれた。打ち合せをしていた時には神妙な様子だった3人の表情は、ひとたび舞台に立てば、好奇心の固まりのように、楽しそうに輝く。みんな芝居が好きなんだな、と強く伝わる稽古場だった。
舞台『BLUE/ORANGE』は2019年3月29日(金)から4月28日(日)まで東京・DDD青山クロスシアターにて上演される。
◆『BLUE/ORANGE』アフタートークショー開催
【開催公演】
4月7日(日)13:00開演
4月14日(日)13:00開演
4月21日(日)13:00開演
【登壇者】
成河 千葉哲也 章平
※該当開催日時のチケットを持っている方は誰でも参加可能
※参加の際は必ずご自身の席で観覧を
※登壇者は予告なく変更になる可能性あり
(取材・文・撮影/河野桃子)