2019年1月13日(日)に東京・EXシアター六本木にて『ミュージカル封神演義-目覚めの刻-』が開幕した。初日前日には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、橋本祥平、安里勇哉、輝山立、陳内将、石田安奈、大平峻也、畠中洋が登壇した。
安能務氏が翻訳した中国に伝わる怪奇小説を元に藤崎竜が漫画化した原作は、1996年から2000年にかけて集英社「週刊少年ジャンプ」にて連載され、累計発行部数が2200万部を超える大人気作品。現在は「集英社文庫<コミック版>」全12巻が発売されているほか、「週刊ヤングジャンプ」公式アプリ「ヤンジャン!」でも配信されるなど、根強い人気を誇っている。
初のミュージカルとなる本作は、主人公・太公望が仙人界より「封神計画」の命を受けて旅する中で仲間たちと出会い、悪政で人々を苦しめている仙女・妲己や殷に仕える聞仲と一戦交えるまでの原作序盤が描かれる。脚本は丸尾丸一郎、演出は吉谷光太郎。
会見で、太公望役の橋本は「いろんな世代に愛されて、根強いファンの方たちがいるからこそ、こうして舞台化となりました。めちゃめちゃおもしろい原作の素晴らしさを僕らでお届けしたいです」と意気込みを語った。
演じる役柄について、橋本は「のほほんとしているのか、真面目なのか、掴みにくい役ではあるんですが、人間界から仙人と導師を排除して安全な人間界を作ろうという一つの芯があります」とコメントし、「妲己との知能戦が見どころ。演じるにあたって、何手先も見据えてという考えでお芝居をしていかないといけないと意識しました」と役作りについて述べた。
時にハイテンションかつコミカルでありながら、人を思う気持ちと真面目さを併せ持つというギャップが魅力の太公望を、橋本が原作にもあるメタ要素も表現しつつ、“主人公らしくない”主人公として好演している。
その太公望を支える仲間として、天才道士・楊ゼン(安里)、宝貝(パオペエ)人間・ナタク(輝山)とナタクが生まれるきっかけを作った・太乙真人(荒木健太朗)、殷に仕える黄飛虎(高松潤)と彼の次男で崑崙山の道士・黄天化(陳内)、天然道士・武吉(宮本弘佑)が本作で登場する。
変化の天才である楊ゼンの見どころについて、安里は「変化シーンが何回も出てくるんですけれども、舞台ならではの変化があります」と挙げた。変化した後の姿は各キャストが演じることになるのだが、安里は「変化したときこそ、絶対に台詞を噛まないとか、絶対にミスらないというのを意識しました!」と言い切る。そのしたり顔に「それは各キャストが意識することでは・・・(笑)」と登壇者たちもザワザワし、会場は笑いに包まれた。
ステージ上で宝貝によるさまざまなバトルを見せてくれるナタクを演じる輝山は「この宝貝をどう表現するのか、自分の中でも戦った稽古でした。原作の魅力の一つとして、絶対的に宝貝の存在があると思っているので、この宝貝同士の戦いがミュージカルでどう描かれるのか、観てほしいです。演出の吉谷さんがいろんな演出で表現されています」とアピール。
くわえタバコに宝貝の剣を持つ硬派でワイルドな装いの黄天化。舞台の見どころとして、陳内は「僕たち徐々に出てくるキャラクターが太公望をどのように受け入れて、認めて、支えていくのか。今回の舞台全体から見えてくる、祥平を通した太公望と僕らを通した役柄のようです」と挙げた。
派手でセクシーな衣装を着ることに最初は恥じらいがあったという妲己役の石田は「小悪魔以上の悪魔だと、漫画を読んで感じました。役作りとしては・・・テンプテーション(誘惑の術)で周りを魅了するというキャラ作りのために、ちょっと甘めの香水に変えてみました(笑)」とにっこり。それに対し、橋本が「演出の吉谷さんが一番テンプテーションにかかっていました(笑)」と加え、会場の笑いを誘った。殷の紂王(瀬戸祐介)だけでなく演出家をも誘惑する石田は、妲己の小悪魔的な魅力を舞台上で存分に発揮している。
狂言回し的な役回りで太公望たちをかき回す申公豹役の大平は自信の役どころを“傍観者”と語り、「稽古場で陳内君を中心に筋トレが流行っていたんですが、僕は役柄的に意識して“傍観”していました(笑)」と演じる役のように茶目っ気たっぷりにエピソードを披露。続けて、畠中や高松というベテラン俳優たちと若手たちの共演について「初っぱなからすごい熱量でくる年上グループに、若手チームがそれに負けじと立ち向かっていて、いい作用を起こしています」と絶賛。
グレート・ギャツビー』や『ジャージー・ボーイズ』など数々のミュージカルに出演する畠中は「若さと老いが上手い具合にコラボしているんじゃないかと思います(笑)」と大平の言葉に重ねながら、「聞仲としての圧倒的な存在感として、みんなが早く動く中で、一人だけゆったりと悠然に動くことを意識してきました」と役作りを明かした。その威風堂々とした立ち振る舞いは、まさしく最強クラスの道士として存在感バツグン。ミュージカルシーンでも、その力強い歌声で舞台を引っ張っている。
聞仲のほかにも、それぞれのキャラクターたちの思いを綴るミュージカルシーンが満載。吉谷の「空を飛ぶことは現実的にはできないことだが、音楽の力は素晴らしく、その力で空も飛べるし、時空も飛べる」という言葉に裏付けられたミュージカルシーンにぜひ注目してほしい。
中でも、妲己のミュージカルシーンは観客すらも魅了するほど魅惑的だ。石田は「かわいらしい妲己と、残酷な歌詞のギャップも楽しんでほしいです」と呼びかけ、「妲己というキャラクターを楽しみにされている方の期待をいい意味で裏切られるように、キャラクターとして演じていきたいです」と意気込んでいた。
そして、本作で忘れていけないのが太公望の同行者で霊獣の四不象(スープーシャン)だ。橋本は「太公望を演じる上では欠かせない、絶対必要なキャラクターです。人形操作で表現しているのですが、舞台上で本当に生きているんです。動きで、悲しんでいるようにも、喜んでいるようにも見える。人形ですが、ちゃんと魂が入った一匹の四不象として皆様に観ていただきたいです」と思いを語った。四不象を操演する吉原秀幸と橋本のコンビは絶妙。ゲネプロでもアドリブなのかメタ演技なのか分からないほど最高のコンビネーションで劇場を沸かせていた。
さらに、人の力による表現は四不象だけではない。映像技術の進化で、昨今の2.5次元ミュージカルでは数々の映像表現が用いられているが、本作では宝貝でのバトル以外にもほぼすべてを人の力で表現している。陳内は「すべてのシーン、シーンチェンジさえも人力で行っています。人間がやっているからこその良さが随所に表れています」と強くアピール。
安里も「アンサンブルの方が風を起こしたり、雷を落としたり、何から何まで人力でやっているので、その“生感”を味わってほしいです」と呼びかけた。特にアンサンブルたちにより作り上げられる宝貝のバトルシーンは激しく圧巻!王魔(青木一馬)、高友乾(武藤賢人)ら四聖と太公望たちの宝貝対決を迫力満点のバトルへと仕上げているので、いっときも目を離さずに観てほしい。
太公望たちの物語は始まったばかり。これから先、どのような物語を舞台上に描いてくれるのか楽しみなミュージカルだ。
『ミュージカル封神演義-目覚めの刻-』は1月20日(日)まで東京・EXシアター六本木にて上演。
※楊ゼンの「ゼン」は晋の旧字体に戈
※ナタクの「ナ」は口へんに那、「タク」は口へんに託
(C)安能務・藤崎竜/集英社 (C)「ミュージカル封神演義-目覚めの刻-」製作委員会
(取材・文・撮影/櫻井宏充)