2018年12月12日(水)に新宿・紀伊國屋ホールにて舞台『ジーザス・クライスト・レディオスター』が開幕した。本作は、過去4回再演されている西田大輔の人気作。今回は、元お笑い芸人で脚本家となった家城啓之(マンボウやしろ)が脚色・アレンジし、西田が演出をするというコラボレーションで上演する。出演は、カリスマDJジーザス役にインパルスの板倉俊之を迎えるほか、染谷俊之、八木将康(劇団EXILE)、中島早貴、安川純平、宮平安春、小槙まこ、大地洋輔(ダイノジ)、小野寺ずる、肘井美佳、辻本耕志、山崎樹範など。本記事では、ゲネプロの模様をレポートする。
描かれているのは、ラジオの生放送をめぐるドタバタシチュエーションコメディだ。舞台はラジオ局の収録ブース。10代を中心に絶大な支持を集めるカリスマDJジーザス(板倉)は、いつもは収録放送だけれど、この日は特番で生放送!いつもより気合いを入れるスタッフたち。真面目なラジオスタッフのディレクターの長谷部(染谷)と構成作家の江戸川(八木)は準備に備えている。
しかし、プロデューサーの山根(山崎)は責任感がまるでなく(いかにもな肩にカーディガン姿でチャらく登場)スポンサーに対して調子いいことしか言わず、いつものように現場を困らせる。漫画「進撃の巨人」リヴァイ兵長に忠誠を誓う音響ミキサー・安室(小野寺)は、兵長と同じくらいジーザス命のため、すべての判断基準をジーザスに委ねている。それも、いつもの光景のはず、だった・・・。
生放送という大事な時なのに、そもそもメインDJのジーザスがOA直前にいない!?しかも飛び入りゲストやスポンサー企業の社長もがやってきて、現場は大混乱。レギュラースタッフは無事に生放送を終えられるのか・・・今、オンエアが始まる!
なにしろ、それぞれのキャラクターが濃すぎる。何をやっても運が悪い超絶マイナス思考の大谷(安川)、まったく当たらない占い師の山下(宮平)、天然で売れない演歌歌手の氷川(大地)、SM嬢の宮崎(肘井)、自由気ままな会社社長の辻本(桑原)、ピザを配達に来て巻き込まれる店員(小槙)、さらにはジーザスの弟・吉田(板倉/2役)まで・・・皆が好き勝手しゃべるので、突飛な発言が飛び交う。言っている内容がズレているので、各地で勘違いが生まれていく。俳優たちは全員が常に全力で発散しているように、体当たり。思い切り各自がそれぞれの方向に走るので、それぞれのキャラクターの個性が際立つ。
彼らが自分らしく暴れるたびに、真剣に対応する長谷部や江戸川が翻弄される様子には、同情半分、おもしろさ半分。頭を抱えつつも「現場をうまく回そう」「リスナーに楽しんでもらおう」という心意気が心地よく、仕事に向かう彼らのスタンスに仕事人として我が身を振り返ることも。
全体的にはシチュエーションコメディなので、次から次へと起こる予想もつかない出来事に「どうなるの?大丈夫?!」とハラハラしつつも笑ってしまう。さらに、板倉や大地などコントを得意とする面々が一瞬のギャグや表情で観客の心を掴んでくる。いろんな種類の笑いが詰まった元気なおもちゃ箱のようだ。
音楽がラジオで放送する曲以外あまりない中、怒涛の会話とギャグの応酬。鮮やかに変わる照明、舞台中央の尖った大きな十字架らがインパクト大。時々かかる音楽が、笑いと混沌の勢いを加速させる。
混乱する現場だが、今日が収録初日の新米AD清水(中島)が、この作品をただのコメディでは終わらせない。明るく、好意的で、まっすぐでな彼女。分からないなりにラジオ愛で一生懸命な姿に「がんばれ!」と応援したくなる。しかし彼女のそのラジオ愛が、なんとか現場を回している長谷部や山根を思わぬ方向へ動かしていくのだが・・・。
ラジオはリスナーに、何を届けることができるだろう。全国の人が、朝の電車で、昼の休み時間に、夜中の部屋で、顔の見えない声に耳をかたむけるラジオ。その声の向こう側は、もしかしたらこんなに戦場なのかもしれない。様々な立場の人が、それぞれのやり方で、電波の先を思って戦っているのかもしれない。発信側ではなくリスナーとして声の出演をした清水らら、藤田晋之介/薮内大河(Wキャスト)らの存在が素晴らしかった。顔の見えない“声”で気持ちを届けてくれた彼らが、この物語にラジオならではの命を吹き込んでくれた。
舞台『ジーザス・クライスト・レディオスター』は12月24日(月・祝)まで東京・紀伊國屋ホールにて上演。上演時間は、休憩なしの約2時間10分を予定。
(取材・文・撮影/河野桃子)