シアターコクーンの初代芸術監督を務め、今なお演劇界の最前線に立つ串田和美が、アントン・チェーホフ最高傑作にして最期の戯曲『桜の園』をベースに、新たな視点を盛り込んで滑稽なまでの人間模様を描き出した『24番地の桜の園』。11月9日(木)からの開幕に先駆け、初日前には会見と公開フォトコールが行われ、高橋克典、風間杜夫、八嶋智人、松井玲奈、美波、小林聡美、演出を務める串田が登壇した。
原作となった『桜の園』は、20世紀初頭のロシアを舞台に、社会の転換期に生きる人々の苦悩や葛藤をユーモラスに描いた人間ドラマ。“悲劇”でありながら、どこか軽妙に“喜劇”に仕立てたことで多くの観客を魅了してきた。そんな普遍的な戯曲を元に、串田版では生演奏や振り付けも加え、これまで観たことのない『24番地の桜の園』が誕生する。
会見では、音楽を担当する太田惠資が率いる個性豊かなミュージシャンたちがジプシー調の音楽を奏で、出演者らと共に入場。アーティストとしても活躍する高橋が、華麗なステップを披露し、会場を大いに盛り上げた。
50年に渡る演劇人生で、本作が初のチェーホフ作品となる串田は「チェーホフは一生、演出することはないんじゃないかと思って生きてきたんですが、シアターコクーンのプロデューサーと打ち合わせをしている時に、なぜかあっと浮かんだんです。戯曲を読み直してみたらやっぱりおもしろかった。そして、もっと自由で色々なことができるんじゃないかと思った」と本作を演出するに至った経緯を明かす。
本作では、舞台美術も担当している串田だが、舞台装置については「コンセプトは、そこら辺から集めた建具で舞台を作って、映画の撮影をしている広場。模型を作っていろんなことをやったけど、削ぎ落としていって、簡素になったのが今の形です」と説明した。
高橋は、串田演出の舞台への出演は1999年の『セツアンの善人』以来。会見では「舞台出演は6本目ですが、串田さんの作品はその半分の3本目になります。これまで、舞台は『早く終わればいいな』って思っていたんですが(笑)、今回は初めて芝居に前向きに臨んでいます。今回は稽古から恥をかいてみようと思って飛び込んでみました」と挨拶し「テレビや映像作品では自分を発散することがなく、むしろ閉じ込めていましたが、今回は解放して、芝居する瞬間に自由になることを教えていただいている気がします」と、意気込んだ。
一方、古典作品に挑戦したいという念願が叶った松井は「チェーホフ作品に触れることができ、楽しみに思っていたんですが、実際にやってみると難しくて、どう理解してどう表現したらいいんだろうと考え込んでしまいました」と苦笑い。串田から「真面目になるな」と言われたことも明かし「できるだけ真面目な部分を削ぎ落として、不真面目に自由にできるように芝居に向かっていきました」と稽古を振り返った。
また、串田作品への出演もチェーホフ作品も初という小林は「串田さんの稽古は、誰よりも自由で、もっとこういうやり方があると提示してくださったり、役者というゴムを最大限伸ばして、放すような稽古。千本ノックならぬ、ゴム弾き稽古でした。充実した1ヶ月を過ごせました」と語った。
八嶋は「串田さんが作りたい世界は、どこまでも自由で、演劇の可能性がある。楽しいです。無限の自由はなかなかタフなものですが、今はすごく心地いい。お客さんには、この作品の中から何かを見つけて持って帰ってもらったら、楽しいと思う」と作品をアピールした。
『24番地の桜の園』は、11月9日(木)から11月28日(火)まで東京・Bunkamuraシアターコクーンにて上演。その後、長野、大阪を巡演する。日程は以下のとおり。
【東京公演】11月9日(木)~11月28日(火) Bunkamuraシアターコクーン
【長野公演】12月2日(土)~11月3日(日) まつもと市民芸術館
【大阪公演】12月8日(金)~11月10日(日) 森ノ宮ピロティホール
(取材・文・撮影/嶋田真己)