浦井健治「エネルギーに満ちた笑顔の絶えない現場です」『ペール・ギュント』製作会見

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2017年12月6日(水)から、東京と兵庫にてヘンリック・イプセンの名作『ペール・ギュント』が上演される。本作の製作発表が10月24日(火)東京都内にて行われ、タイトルロールのペール・ギュント役を演じる浦井健治と、趣里、浅野雅博、キム・デジン、ユン・ダギョン、マルシア、そして演出家のヤン・ジョンウンが登壇した。

本作は、主人公ペールが、真の自分をどこまでも追い求める壮大かつ奇想天外な「自分探し」の物語。イプセンが執筆してから150年経っても未だ色褪せない名作だ。今回の演出を手掛けるヤンは、まもなく開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開・閉会式の総合演出を務めるほど韓国内外で評価の高い演出家で、すでに韓国で『ペール・ギュント』を何度も演出・上演し、数々の賞を受賞している。今回の日本版は、日韓文化交流企画としてヤンが日本スタッフや役者と話し合いを重ね、アイディアを出し合って作る“新しい『ペール・ギュント』”となるようだ。

ヤン・ジョンウン

会見で、まずヤンは「今回、日韓文化交流企画としてこの公演の演出をやらせていただくことになりましたが、実際のところアジアの情勢はあまりよくないです。でも、こうやっていろんな国の人が集まり、何かを作れるというのは演劇だからこそできることなのではないでしょうか。役者、スタッフと稽古場で仕事をしていると、我々にはボーダーがないんだな、と感じています」と語り、「この作品はペール自身が自分を探す旅ですが、私たち現代人が抱えている混乱、何かを見失ってしまったところから本当の自分を見つけに行く、そんな作品を作っていけたらと思っています。今から私自身がとてもワクワクしています」と作品への期待を織り交ぜつつ挨拶した。

浦井健治

続いて浦井は、稽古場の様子について「今は本読みを1日8時間くらいしているんですが、頭が疲れ切ったところで瞑想やカラーセラピーを導入したりしているので、皆、稽古というより遊びに近い感覚でやっています。でも濃度が少しずつ濃くなるにつれ、本読みなのに立ち稽古が始まってるような現場になっていますね。とにかくエネルギーに満ちていて、常に皆が笑顔で、自分の辛い思い出や人生で一番大変だったことなどを、時には涙ながらに披露している・・・そんなオープンマインドな稽古場です。マルシアさんは必ず『愛してるよ!』と言ってくれますし。まるで家族のようであり、“劇団ペールギュント”という船旅をしているようでもあります」と例えた。

浦井健治

さらに浦井は「イプセンが描いた『人間とは何か』とか『自分探しにおける一番大切なものは何か』など、様々なメッセージがお客様一人一人にきっと届くと思います。もしくは10年後くらいに『あの作品、そういうことを言いたかったのかな?』とふと思い出す作品になってもいいと思います」と、作品の魅力についてコメントしていた。

昨年の7月には、上演に先立ち5日間の日本人キャストオーディションがワークショップ形式で開催され、約150名もの俳優が参加したという。その結果、韓国人キャスト5人と日本人キャスト15人によるカンパニーが完成。

趣里

ペールの恋人ソールヴェイ役などを演じる趣里は、このワークショップオーディションを「自分と向き合い、相手を見つめ共有するという実感を持てました。ワークショップが終わった後も自分の中にその体験が残って、この作品に出演できたらいいなと思っていました」と振り返った。そして「(今やっている稽古は)本当に濃密で、1分1秒が身体に刻まれている感じがします。キャストの言語は異なりますが、そんなことを感じさせないくらい充実な時間を過ごしています。本番ではお客さんも一緒にこの作品に参加し、お客さんと共にこの気持ちを共有したい。一日一日、真面目に、真摯に、ポジティブに、感謝して進んで行きたいと思います」と、かみしめるように思いを述べていた。

浅野雅博

ペールの父親役などを演じる浅野は「日韓交流企画ということで、同じ舞台上に日本語と韓国語を話す人が同時に出てくるんです。私も稽古場に入る前は言葉の壁があるのではと感じたんですが、稽古の段階で杞憂に終わりました。韓国人キャストの方々ってこんなに愛に溢れているんだ!と思うほどすごいエネルギーを持っているんですよ。それに僕らはまず引っ張られましたね。そしてヤンさんも(ヤンを見ながら)こんな感じでニコニコしてますが、心の中にマグマのような熱いものがふつふつと煮えている方だと思います(笑)」と現場の空気を伝えた。

キム・デジン

キムは、ペールが旅の途中で出会う見知らぬ乗客役などを演じる。「『ペール・ギュント』に出演するのはこれで4回目。初舞台は2016年の新国立劇場での上演でした。その後、オーストラリア、そして韓国でも出演させていただきました。今は他の役者さんとの稽古中でまだ1 週間なのにもう1ヶ月くらい仕事をしているようです。こういう環境ですばらしい役者さんたちと出会えることはそうそうないと思うので、稽古から千秋楽のその日まで、ここ(のカンパニー)に存在したいです」と意気込んだ。しかし「稽古自体は楽しいのですが、集中力がものすごく必要なので、エネルギーもすごく使っています。一昨日、宿泊先に帰る前に(牛丼チェーン店の)松屋に寄ったんです。韓国の役者さんたちと一緒に。私も皆も肉を買っていました。肉が心から欲しくなるくらい疲れていたんです(笑)」と明かし、笑いを誘った。

ユン・ダギョン

ユンは、トロルの国にいる緑衣の女役などを演じる。「日本は私にとても大きな影響を与えてくれた国です。私の父は日本と事業をしており、そのため父が話していた日本語を聞いて育ちました。私の姉は日本文化を勉強して、日本で暮らしていました。だから私が成長する過程で日本の漫画、映画、音楽、ドラマなどすべてが私に影響を与えてきたんです。だからこそ、日本のドラマなどを観ながらあの人たちと仕事をしてみたいと思っていました。今回その夢が叶いました。私は幸せです」と喜びをあらわに。
現在行われている稽古について、ユンは「例え言葉が通じなくても、お互い心で感じ合える、これは本当にすごいことだと感じています。年齢を超え、性別を超え、国を超え、言語をも超えて、自らが人生で経験したこと・・・それが痛みであったとしてもお互いオープンに見せあって、それに対して誰も非難したり、間違っていると言ったりはしない。ただ、相手を感じ、相手の涙を感じ、お互いをハグし合って痛みを共有して笑います。今まで生きてきて、これほど他人の話に耳を傾けたことはないし、胸の内を晒したことはなかったように思います」と続けた。

マルシア

ペールの母・オーセ役などを演じるマルシアは「このカンパニーでいちばん年上なんですよ・・・だから挨拶の順番が最後だったの?そんな気分じゃないのに(笑)!」とこぼしつつ、「素晴らしいカンパニーですよ。国境、言葉、すべてを超えて、舞台はすでに始まっています。でも毎日8時間の稽古は本当にキツイ、筋肉痛になるんです(笑)。でも身体の細胞が生きていることを日々確認しながらやっていこうとしています。ワークショップも今までやったことがない内容で、最初はすごく恥ずかしかったんですが『自分を裸にしないと』とヤンさんがおっしゃるので、素になって自分の中にある自分を出していく作業をしています。でもその作業がすごく気持ちよくなってしまいまして。稽古が始まってまだ1 週間なのに、本番はいったい私はどうなってしまうんでしょう(笑)」とマルシア流の表現で、作品作りのおもしろさを言葉にした。

趣里、浦井健治、マルシア

プライベートでは娘を持つ母であるマルシア。「男の子の母親になったことがないので、演じる上で想像を膨らませています。ましてや、こんなかわいい子が息子だなんて・・・(浦井の頬をなでると子どものような笑顔を見せる浦井)。それはそれで最高の気分だろうなと思っています」と笑わせていた。

浦井健治

ユン・ダヒョン、キム・デジン

記者からの質疑応答では、日韓キャストがお互いにどのような印象を持っているか、という質問がなされると、浦井は「皆さん、愛とエネルギーに満ちていて。それから、純粋に好奇心旺盛だなと思います。数日前に韓国人キャストの男性陣がどうもメイド喫茶に行ってみたらしく『ラブラブキュン』(両手で胸前にハートを作るポーズを再現する浦井)って、稽古場でもずっと言ってるんです!でも『(メイドさんは)かわいかった?』と聞いたら『そうでもない』って言うんですよ。素直だなあって思いました(笑)」と暴露。これにはキム、ユン、そしてヤンまでもが爆笑していた。

ヤン・ジョンウン、浦井健治

最後に、ヤンに対し「浦井の魅力は?」という質問が飛ぶと「遊び心もあるし、スマート。よく空気をつかむ人であり、直感的な人であり、即興的。心で経験する人だと感じています。私が考えているペール・ギュントは、まさにそういう人物だと思ったんです。浦井さんはペールのドッペルゲンガーですよ(笑)」と評していた。

趣里、ユン・ダヒョン、マルシア、浦井健治

日韓文化交流企画 世田谷パブリックシアター+兵庫県立芸術文化センター 世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『ペール・ギュント』は、12月6日(水)から12月24日(日)まで東京・世田谷パブリックシアターにて、その後12月30日(土)・31日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールにて上演される。

ヤン・ジョンウン、浦井健治
浦井さんに「韓国では指でこうハートを作って写真に撮られるのが流行っているんですよ」と教えるヤンさん

(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)

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