2017年10月4日(水)に、東京・俳優座劇場にてクロジ『銀の国 金の歌』が開幕した。出演者には、斬劇『戦国BASARA』シリーズの石田三成役やTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』で鉄哲徹鐵の声優を務める沖野晃司のほか、TVアニメ『俺物語!!』主役・剛田猛男役などで知られる人気声優の江口拓也らを迎えている。初日前に行われたゲネプロの模様を、舞台写真と共にレポートする。
(以下、舞台の内容や登場人物に一部触れています)
北海の海辺に、女帝スグリ(松崎亜希子)の治める「流宮(るく)」という国があった。これは、そこに仕える盲目の巫女・凪(斉藤範子)とその息子・銀(沖野)。視界いっぱいの映像がステージを揺らしたり、大人数のアクションや殺陣があったりと、力強いパフォーマンスが劇場を飲み込んでいく。「流宮」に渦巻く、それぞれの思いや願い。その中心にはいつも、運命によりねじれた母と息子の激しい愛憎があった。
沖野が演じる銀(ギン)は、魚を捕ることで生活を立てている漁師たちが住む穏やかな国「流宮」にやってきて、赤ん坊の頃に生き別れとなった母・凪(ナギ)と再会することとなる。銀は、体は大人ながらも心は少年のように未熟で、いつも苛立っている。大きくなってから再会する母への愛情や、憎悪、消化しきれない思いを、言葉少なに行動と表情で表現する。その複雑な内面を演じるのはとても難しいと思うが、自分の気持ちや力を持て余す様子は、まるで遅れてやってきた反抗期のようだ。
この銀と対になる母を演じる斉藤は、目が見えず、痛々しくあるが、明るくふざけたり大声で悪態をついたりとエネルギッシュな役どころ。巫女であるとはいえ、聖人ではない。母親であり、女であり、一人の自我を持つ人間。醜さも強さも併せ持つ老いた女を体当たりで演じ、舞台上で異彩を放っている。
その母と息子の間には、美しい愛や絆などはない。あるのは、観ている方も胸を掻きむしられるような相手への渇望だ。二人の関係が物語全体を覆うように、「流宮」を飲み込んでいき、国は誰も予想していなかった方角へと転がっていく。
この「流宮」に生きるそれぞれの人々も、魅力あふれている。女帝スグリの参謀の槌谷(江口拓也)と、その幼なじみの琴(福圓美里)と千弦(木村はるか)、千弦の婚約者の鰤刃(狩野和馬)、スグリの側近の美禰(末原拓馬)、「流宮」に住む山賊の唐津(大高雄一郎)。全員がまっすぐに自分の願いと向き合っていて、誰に感情移入しても愛しく、切なく、苦しい。
江口は、泥臭い舞台の中で一人、透明で爽やかな空気をまとっている。舞台経験は少ない江口だが、その表現力で存在感を放つ。また末原は、おそらく宦官であろう難しい役を愛らしく演じた。二人の、自分のためではなく大事な人のために必死で行動する姿からは、胸がつぶれるような苦しい思いが強く伝わってきた。
スピード感溢れるアクションや映像は、ファンタジーの物語をより深くする。様々な演出が強固な世界観を創りあげ、観客は安心してそこに飛び込める。チラシにかかれていたのは「僕は王になりたかった」というキャッチコピー。“王”とは何だろう。その王が治める“国”とは何だろう。登場する誰もが、国と王という大きな存在の前に立ちくらみながらも、求める願いはシンプルで純粋だ。
クロジはプロデュース劇団として2004年に旗揚げされ、“虚構と生々しさの融合”や“女性のエゴと愛らしさ”をテーマに芝居を創ってきた。ファンタジーという虚構ながら、その世界で生きる人々の姿は生々しい。さらに今回の公演では、女性だけでなく男性もエゴを持つ。そのエゴは、自分のためだけでなく“大切な人のため”である場合もある。私たちも日頃、自分が何を求め、なぜ走っているのか分からなくなることもあるかもしれない。けれども追い求め続ける姿こそが、なによりも尊く美しい。だからこそ人間は愛らしいのだろうと思えた。
クロジ『銀の国 金の歌』は、10月9日(月・祝)まで六本木・俳優座劇場にて上演。
(取材・文・撮影/河野桃子)