2017年6月15日(木)、東京・DDD青山クロスシアターにて、ミュージカル『オーバーリング・ギフト』が開幕した。本作は、アミューズ所属の若手アーティストによるオリジナルミュージカル・プロジェクト。作・演出を手掛けるのは、大旋風を巻き起こした『キンキーブーツ』、そして『ビッグ・フィッシュ』など、着実にミュージカル作品に活躍の場を広げている風間由次郎。音楽を担当するのは、オリジナルミュージカル『SONG WRITERS』にて主題歌をはじめ3曲を作曲した3ピース・ピアノバンド「WEAVER」の杉本雄治。この二人が初タッグを組むフレッシュな作品だ。その初日当日に公開ゲネプロと囲み取材が行われ、風間、杉本、そして主演の猪塚健太が登壇した。
人の才能が生まれてまもなく着けられるリングという装置によって管理される世界。リングを持つ人間“オーバー”と、リングを持たない人間“ロスト”の街は大きな壁により隔てられていた。裕福な生まれで“オーバー”のアスター(猪塚健太)は、ある日、暴漢に追われる“ロスト”の少年トトイ(溝口琢矢)を救うため、自分の首のリングを暴漢に渡す。その結果、リングを失ったアスターは家から追い出されてしまい、ロスト街へとたどり着く。ロスト街で、アスターはトトイとその父親のミロコ(加藤潤一)、トトイたちと暮らす少女・ルージュ(島ゆいか)、ミロコの友人・咲耶(中村百花)、リングを売ろうとするカゲツ(富田健太郎)らと出会う。一方、“オーバー”の市長イラッシュ(風間)は“ロスト”たちに対してある計画を実行しようとしていた…。
作・演出に抜擢され、初日を迎えた風間は「普段、役者をやっているときは完璧でありたいと思っていたんですけど、いざ作品を作ろうと思うと、この日が来るまでたくさんの人に支えてもらいました。初日を迎えられて本当に嬉しく思っています」と笑顔で挨拶。
DDD青山クロスシアターでミュージカルを上演することについて、風間は「お客さんとの距離も近いですし、華やかさもありながら、演者のエネルギーが直接お客さんに届く場所です。僕の初作品に、そのエネルギーが力を与えてくれています。そういうものを、この距離感で感じられることが、この作品への良いギフトになるんじゃないかと思います」と作品にかける思いと共に明かした。
そう風間が語る舞台上には可動する巨大な壁が存在し、その壁を動かすことで“オーバー”と“ロスト”の2つの隔てられた街を転換させている。舞台上で異彩を放ち壁は、アスターたちを待ち受ける悲しみと希望の物語のポイントでもある。
出演は劇団プレステージの看板俳優であり、昨年大きな話題を呼んだ舞台『娼年』で存在感をみせた猪塚、『RENT』のコリンズ役をはじめ多くのビッグミュージカルで活躍する加藤、2.5次元アイドル応援プロジェクト「ドリフェス!」の「DearDream」として人気急上昇中の富田、溝口といった注目の若手俳優陣に加え、今後多くの公開映画が決定している若手女優の島、そして美しい歌声で数々のミュージカルに出演中の中村というフレッシュなキャストが揃っている。
純粋さゆえに、“ロスト”となったことで嘆き苦しむアスターを演じる猪塚は「アスターという少年が挫折や苦難を経験して、それを周りの人たちが乗り越えさせてくれる物語。それを解決してくれるのが、みんなの歌です」と自身の役どころと、アスターを取り巻く人々の歌の魅力について語った。杉本が提供する楽曲に彩られ、猪塚だけでなくキャストそれぞれの歌声と魅力が惜しみなく披露されているミュージカルだ。
そのミュージカルシーンの醍醐味について、杉本は「キャストの声が重なっていくシーンです。エンディングの曲は、希望に向かってみなが突き進みながら歌っている、そういう姿というのは僕たちにも何か勇気を与えてくれるんじゃないかと思います」と解説。続けて、「自分のバンドでは、なかなか作らない曲もたくさんあります。特に“LIFEWORK”という曲はポップでステージ映えもする楽曲。そういうミュージカルならではのパフォーマンスと、歌が重なった楽曲にぜひ注目して欲しい」とミロコ、トト、ルージュがアスターに自分たちのLIFEWORK(仕事)を教えるナンバーをアピール。本作は全11曲の楽曲を提供した杉本の新たな音楽性も楽しめる作品となっている。
フレッシュなクリエイター陣とキャストを得て、新たな産声をあげるオリジナルミュージカル。絶望と悲しみの果てに待つ希望と愛を描き、観る者を勇気づける作品だ。
『オーバーリング・ギフト』は、6月15日(木)から6月25日(日)まで東京・DDD青山クロスシアターにて上演される。
(取材・文・撮影/櫻井宏充)