2017年5月25日(木)に東京・ブルーシアター六本木にて『ALL OUT!! THE STAGE』が開幕した。本作は、月刊「モーニング・ツー」(講談社)で連載中の雨瀬シオリによる人気ラグビー漫画の舞台化作品。初日前には公開ゲネプロと囲み会見が行われ、出演する原嶋元久、伊万里有、佐伯大地、松風雅也、萩野崇、脚本・演出を手掛ける西田シャトナーが登壇した。
主演として、主人公・神奈川高校1年生の祇園健次役を演じる原嶋が「始まる前に『全員でオールアウトするように!』と言っていたのですが、本番ではお客さんの心に“トライ”ができるようにがんばっていきたいと思います!」と挨拶をすると、登壇者たちからは次々とラグビー用語を混ぜ込んでそれに続いた。
祇園と同じ1年生・石清水澄明役の伊万里は「岩清水は、よくこういうポーズ(右肘のあたりを左手で持つポーズ)をしているんですけど、最近これをやっていないと落ち着かないんです・・・(笑)」と、役作りが自身の日常にまで及んでいることを告白。周囲からは「電車に乗っている時も、吊革に捕まらないでそのポーズしてるよね」といった証言も飛び出した。
稽古について「毎日がゼロからのスタートだった」というのは、ラグビー部キャプテン・山濯也役の佐伯。「皆で身体を動かしながら動画を撮って、『これはすごい!』となる繰り返しでした。大変であり、おもしろかったですね」と振り返る。
副キャプテン・八王子睦役の松風は「(ラグビーを表現するために)シャトナーさんを中心に発明に近いような、画期的なことをふんだんに盛り込みました。実際にラグビーをするわけではありませんが、伝わらなかったら・・・という不安が演じる側にまったくないです」と自信に満ちた表情を見せた。
そんな生徒たちを導くコーチ・籠信吾役を演じる萩野は、原作を読んだ時と同じように「稽古を観ていて、涙が出るのを抑えるのが大変でした」と明かし、「(神奈川高校ラグビー部の)彼らは思いはあるんですけど、スキルが伴わない。対して、慶常高校と東道大相模高校は洗練された2校。弱者が強者に立ち向かっていく姿は素晴らしいです。僕はコーチとして、彼らに愛しかありません」と生徒たちを絶賛。
そして、脚本・演出の西田は「このお話をいただいた時には、ラグビーをどうやって舞台化するのか想像がつきませんでした。しかし私は、未知の世界を冒険していくことが、演劇の役目だと思っています。そしてこの作品は、人生の冒険を始めようという若者たちの物語だと思っております。今回、僕が世界一だと思っているマイム俳優のいいむろなおきさんと一緒に原作を読み込み、皆に身体の動きを教え込んでもらって、全員で次元の壁を超えることができました。自分も原作ファンとして一生懸命作りましたので、楽しんでいただけたらと思います」と思いを語った。
物語は、神奈川高校に入学した祇園が、ラグビーと出会うところから始まる。身体が小さいことがコンプレックスで、「チビ」と言われるたびにキレまくっていた祇園だが、岩清水、赤山、八王子との出会いで、ラグビーは「エースストライカーも4番バッターもいない、誰もが主役になれる」スポーツであることを知り、ラグビー部へ入部することに。
ラグビーをどうやって舞台で表現するのか・・・この作品の舞台化が決定した時から、誰もが気になっていたことだろう。スポーツと同じことを実際にやるわけではない、人数も足りてはいない。しかし幕を開けてみると、そこには“演劇”と真正面からスクラムを組んでぶつかり合う、迫力ある光景が広がった。
これまでにも所属していた劇団ピスタチオ時代からの名作『破壊ランナー』や、舞台『弱虫ペダル』シリーズなどで、不可能を可能にする様々な技法を見せてくれた西田の演出。そこに、世界で活躍するマイム俳優・いいむろなおきのテクニックが加わることで、演劇の可能性はさらに進化を遂げたように感じた。また舞台上には、グラウンドを模した八百屋舞台の下に、3段の段差が設けられている。この段差が、どのような効果を生み出すのか、ぜひ劇場で確認してほしい。
また、試合の派手なシーンばかりでなく、地味な練習“亀”なども、きっちり描かれている。原嶋も会見で「見た目はものすごく地味なんですけど、台詞にもあるように『めちゃくちゃキツい!』んです」と語っていたが、その光景は想像以上に地味だ。しかしそういった細部があるからこそ、滴る汗や筋肉の震え、ラガーマンとしての成長がじわりと見えて、胸を打つ。
メインキャラクターの4人以外にも、個性豊かなキャラクターが登場する。祇園たちと同じ1年生には大原野越吾(大原海輝)、2年生のヤンキー・江文優(宮下雄也)や伊勢夏樹(藤戸佑飛)、3年生の松尾年乃助(山口大地)、賀茂雷太(樋口裕汰)。短いシーンでも、それぞれが主役になるような熱さを見せる。
そして、御幸篤(石渡真修)、平唯一(土井一海)、久川久美男(水沼天孝)の慶常高校との対戦は、全力で清々しい。自分に負い目を持つ岩清水に対する御幸、赤山の姿勢を慕う平の思いに、スポーツマンシップが感じられる一方で、花館充男(小西成弥)、堀川謙弥(上田堪大)、和田敏郎(滝川広大)の東道大相模高校の登場では、ラグビーの持つ“知略”の面が際立つ。スポーツのラグビーにあまり親しみがない人にも「ラグビーってこんなおもしろさがあるんだ」と思わせてくれた。
ジンコーは弱い。しかし、赤山の強い背中や、八王子の部員を見守る眼差し、恵まれた体格ながら「ウド」と呼ばれるほど気弱な岩清水の変化、そして、ラグビーと出会って輝いた祇園の視線の先がどうなっていくのか。ノーサイド(ラグビーにおいて試合終了の意)のその先を見届けたくなる熱さが、そこにあった。
舞台『ALL OUT!! THE STAGE』は、5月25日(木)から6月4日(日)まで東京・Zepp ブルーシアター六本木にて上演される。
また、本公演のBlu-ray&DVDが、10月11日(水)に発売されることも決定した。このBlu-ray&DVD(Blu-ray:10,000円【税込】、DVD:9,000円【税込】)には、舞台の模様を収録した本編ディスクのほか、バックステージ映像などの特典ディスクが付く。
さらに、会場で全額前金予約をすると、「みんなオールアウトしてくれてありがとう!日替わりアフターグリーティングイベント」に参加することができる。このイベントでは、毎公演の終演後、劇場ロビーにてイベント参加キャストが参加者一人一人の方を軽く叩き「よくやった、ありがとう」を感謝の言葉をかけながらお見送りをしてくれる。各回の参加キャストについては、公式HPにてご確認を。
(C)雨瀬シオリ・講談社/「ALL OUT!! THE STAGE」製作委員会
(取材・文・撮影/エンタステージ編集部)