1913年、アメリカの南部で起きた実際の冤罪事件をモデルにしたミュージカル『パレード』が、2017年5月18日(木)から、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。それに先駆け、4月16日(日)に都内で製作発表記者会見が行なわれ、冤罪の罪に巻き込まれるレオ・フランク役の石丸幹二、その妻・ルシールを演じる堀内敬子をはじめ、岡本健一、武田真治、石川禅、新納慎也、演出家の森新太郎らが登壇。一般オーディエンス約250名の前で、各人の意気込みが語られ、劇中歌も披露された。
本作は、人種差別が色濃く残るアメリカ南部のジョージア州アトランタで起こった、白人少女強姦殺人事件の容疑者とされたユダヤ人・フランクを取り巻く人々の姿を描く重厚なミュージカル。作詞・作曲を『マディソン郡の橋』のジェイソン・ロバート・ブラウン、脚本をピューリッツァー賞受賞作家のアルフレッド・ウーリーが手がけ、第53回トニー賞で2部門を獲得した。今回の日本版を演出する森は、第21回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞した気鋭の演出家だ。
冤罪事件の被害者という実在した人物を演じる石丸は「いま、この作品でこの役を演じるのには意味があるなあと実感しながら、日々稽古場で追い詰められております」と口火を切り、「弱者はいつも肩身の狭い思いをしなくてはいけない。弱者はどうやって生きていったらいいのか。また、強い立場に立った人間は、どういうふうに、より強いものとして存在するのか、といったことをこの作品を通じて皆様も考えてください」と、強いメッセージ性を含んだミュージカルになるだろうと示唆。そして、夫の潔白を証明しようと奔走する妻役の堀内と舞台上で共演するのは実に17年ぶり。テレビドラマ『表参道高校合唱部!』で一度共演したが、舞台の上でやっと再共演が実現し、「夢のよう」と喜んだ。
堀内も、かつて劇団時代に、『ウエストサイド物語』『美女と野獣』などで石丸と共演した思い出を明かし、以来、石丸がいろいろな役を演じるのを見ていたそう。「丸ちゃん(石丸)のキャラクターではない役にも挑戦していて、がんばってるなと思っていた。どこかで必ずどこかで一緒にやりたい気持ちがあったところだったので、(この共演は)ありがたいですね」とにっこり。
ジョージア州知事のスレイトンを演じる岡本は、「名声もある、とにかく強い人間」と役を述懐。「それが、自分の妻や、フランクの妻など女性の言葉によって、自分の心の信念を貫いていこうという、ある種の愛を持った人物だと思います」と続け、「日本中のあらゆる知事の方々」に向けて演じたい旨を伝え、笑いを誘った。
新聞記者ブリット・クレイグ役の武田は、「ここから先、ご挨拶させていただくのは、みんな悪役です」と挨拶し、さらに会場を盛り上げる。事件に関する憶測を記事にして世相をあおり、社会的にフランクを追い詰めていく役どころについては「悪役なのですが、悪役然としていない。発行部数を伸ばすために、裏を取らずに記事を書いてしまうのは、新聞記者としては当時の生き様のひとつだった気がしています。悪役が悪としているのではなく、世相として存在している。斜に構えた悪役にならないようにしたいです」と意気込みを見せた。
ジョージア州検事ヒュー・ドーシー役の石川は、石丸とは5度目の共演となる。前回共演した『ジキル&ハイド』では、「すごい親友役をやらせていただいたんですが、今回は気持ちよく(フランクを)不幸のどん底に叩き落す役」だそう。それでもプライベートでは変わらず仲が良いようで、石丸と目線を合わせて照れ笑いする一幕も。
ユダヤ人排斥主義者の政治活動家トム・ワトソンを演じる新納は、開口一番、「悪役です」と自己紹介。自身の役を、本作中で「一番の悪役」と称するも、「当時では英雄だった。そのくらい差別があったのでしょうね」と真面目な面持ち。また、ミュージカルには音楽的要素が多く入ってくるため、芝居の稽古が少なくなりがちな現場があることに触れ「そうじゃないだろう」と、いつも疑問を感じていたと告白。その点において、森の演出を「ミュージカルだろうが、お芝居だろうが、『だって芝居でしょ?そこに音楽がのってるだけでしょ?』ぐらいな感じで、登場人物の心情や背景を繊細に作り上げる」と賞賛。ミュージカルにはこうした森のような姿勢が必要だと、絶大な信頼を寄せていることを明かした。
さらにこの日は、小野田龍之介、安崎求とアンサンブルによる「プロローグ」、新納、石川、アンサンブルによる「洪水の時、お前は?」、石丸と堀内の「無駄にした時間」の3曲が披露された。
森はこれらの劇中歌について「すばらしいんですよ。この曲聴くだけでも、皆様に来ていただきたいほど。陶酔感のある曲なんだけど、それに陶酔していいのかという、すごく複雑で高度な曲」と分析。オリジナルの制作陣に敬意を表し、「真摯に立ち会わなければいけないと思っている」と気合を込めた。
ミュージカル『パレード』は、5月18日(木)から6月4日(日)まで、東京・東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。
(取材・文・撮影/尾針菜穂子)